学歴があれば「勝ち組」なのか、なぜ高学歴でも生きづらいのか。
発売即5刷が決まった話題書『高学歴難民』では、「こんなはずではなかった」誰にも言えない実態の数々に迫っている。
※本記事は阿部恭子『高学歴難民』から抜粋・編集したものです(登場人物は仮名で、個人が特定されることのないよう一部エピソードに修正を加えています)。
『高学歴難民』で紹介してきた事例では、大学院入学の選択が難民化の分岐点になっているようです。
進学理由は、「社会を変えたい」といった高い志からというより、「就活のタイミングを逃した」「就職試験に落ちた」といったモラトリアムとしての大学院生活が主たる目的だと語っている人は少なくありませんでした。
そんな不純な動機だから難民化するのだと世間様からお叱りを受けそうですが、長期の大学院生活を経て研究職に就いている人の中にも「会社員になりたくなかった」「まだ働きたくなかった」など、社会に出る準備ができていないために大学に残ったという人もいます。
行き当たりばったりの選択が必ずしも難民化を招くわけではありません。家庭の事情や体調の変化、人間関係のトラブルなど、綿密な計画を立てていたとしても、さまざまな要因から計画が狂うことはありうるのです。
一流大学でいくつもの学位を取得しながら、1000万円の借金返済のためにフリーター生活を続ける博士課程難民の栗山悟さんは、行く先々で嘲笑の的となり、貧困から抜け出したいと参加したグループでは、実家で衣食住に窮することのない生活状況を、甘えていて情けないと非難され、学歴がなくとも、著書を持ち、既に一定の社会的影響力を有する活動家からは、大学院生活という十分な時間と機会を与えられていたにもかかわらず、自分の足元にも及ばない存在だと侮辱されます。
「落ちるに落ちられない、上がるに上がれない」という栗山さんの嘆きは、社会的弱者として救済される権利も、社会人として自立した生活を送る権利も自分には与えられていないという絶望を感じます。
虐待や貧困など、自分では選択できない環境によって教育の機会を奪われている人々にさえ自己責任論が突き付けられ、救済が後回しにされている現在、高学歴難民の事情まで汲み取ることができる人はそう多くはないでしょう。
高学歴難民同士が悩みや情報を共有し、難民生活を共に支えあうコミュニティが必要だと考えます。
高学歴難民が社会的に孤立する要因として、連帯することの難しさがあると思われます。
とりわけ、男性難民は学歴のプライドに加え、男としてのプライドの高さが連帯を妨げ、孤立を招いていると感じます。
プライドが高いというのは、裏を返せば自己肯定感が低いのです。現状を周囲に知られたくないゆえに、遠方にまで移住する人も少なくなかったのです。
元々、集団生活に馴染まない人も多く、他のマイノリティのように、連帯を呼び掛けたり、高学歴難民としてアクションを起こしたりする人はなかなか出てこないのかもしれません。
法曹難民の相澤真里さんや井上俊さんのように、結婚がエスケープルートになるケースも多々あります。専業主婦を選択した相澤さんのような女性は珍しくない一方で、法曹資格を取得した妻の下で働く井上さんのような男性への評価は厳しく、井上さんの60代の両親は、世間体が悪いと未だに転職を進めてくるそうです……。
秋篠宮ご夫妻の長女・眞子さんの夫・小室圭さんも米国の司法試験に合格するまで「ロイヤルニート」などと揶揄され、激しいバッシングに晒されていました。
それでも井上さんは、他人に陰で何を言われようが、安定した給料を得、パートナーと共にいる人生の方が、高学歴難民より何倍も幸せだと主張しています。
年齢が上がれば上がるほど、女性に仕事を世話されたくはないと拒絶反応を示す男性難民は多いです。しかし、若い頃より、就職の選択肢が減るのは、年齢が上がってからです。友人にも恋人にも頼ることができず、親も高齢化している中年男性高学歴難民が最も孤立しやすく、エスケープルートが見つけにくいと言えます。
私は、刑務所出所者の就労支援も行っていますが、より就労のハードルが高いのは、圧倒的に、中年男性高学歴難民です。
会社が嫌がる理由は、肉体労働が続かない、事務処理能力が低い、コミュニケーションができず独断で進めてしまう、相手にミスがあれば過剰に責めるなど、こうした特徴は、加害者となった高学歴難民の事例からも読み取ることができるでしょう。
昼夜逆転の生活に慣れた高学歴難問に関して、規則正しい生活を送ってきた出所者より集中力に欠けると指摘されたことがあります。就労意欲も高いとは言えず、最も就職が難しい人々かもしれません……。
つづく「私立中高一貫の「お嬢様学校」を卒業、国際線CAになり「人も羨む順風満帆な人生」から一転、転職活動に失敗し「高学歴難民」に」では、「CAから検察官への華麗なる転身を夢見て」と題した40代女性へのインタビューから「高学歴難民」の壮絶な実態に迫る。