「外事警察」(警視庁公安部外事課)に2000年代から所属し、「スパイハンター」として活動を続けてきた勝丸円覚氏の新刊『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』が話題を呼んでいる。発売直後から「街録ch」や「古舘伊知郎チャンネル」「コヤッキースタジオ」などに取り上げられ、「顔出しNG」の勝丸氏の衝撃のトークが繰り広げられた。今回は特別に、著書の中から読者の反響が特に大きかった部分を公開する。
日本に情報機関員を送り込んでいる国で、在日スパイ数が多い国といえばロシアが挙げられる。ロシアは3つの情報機関からスパイを送り込んでいる。大使館のみならず、総領事館にもいる。さらに民間に紛れているスパイを入れれば、総勢は120人ほどと分析されている。
アメリカも、CIAのみならず国土安全保障省(DHS)も東京支局があるため人員を送ってきている。韓国の情報機関である国家情報院も日本に何人も人員を送り込んでいる。
photo by iStock
ロシアスパイが出没するのは、例えば、東京の銀座にあるコリドー街の安い居酒屋だったりする。そう、東京で人気の飲み屋街である。実は、スパイといえども経費や予算を気にしているようで、まだスパイ協力者を獲得したての初期の段階では、ロシアスパイとしても相手がどれほどの情報をもっているのかがわからない場合もある。探りを入れる意味で、軽い接触として使う分には、私の知る限りコリドー街が便利なようだ。事実、半個室の店で食事をしているところが頻繁に確認されている。
ところが、非常に価値のある情報をもらう場合は、個室つきの高級な場所を使うこともある。ある意味でわかりやすい。高級な店で会えば、その時は何か大事な情報が手渡される可能性があるということだ。
「美味しいご飯を奢ってもらえるなら一度くらい助けてあげてもいいか」と思ってしまうと、相手の思う壺だ。一度ロシアスパイに協力をしてしまうと、もう後戻りはできない。食事を重ね、自分の属する会社の機密度の高い情報を求められるようになっていく。流れで付き合っているうちに、さすがに怖くなって「もう協力はできない」と言い出しても時はすでに遅い。「いまさら戻れませんよ」「これまで協力してきたことが世に出たらどうするのですか」というのはロシアスパイの常套句だ。「私の任期が終わったらやめてもいいですよ」と言いながら、任期が終わる前にきっちりと後任と引き継ぎをする。とことん情報を搾り取っていくのがロシアスパイの特徴であり、一歩入り込むとかなり危険である。
ロシアスパイについては、こんな話もある。外事警察がロシアスパイを尾行していた時に、恵比寿駅東口にある長いエスカレーターに乗った。そして、降りきったところでこちらを待ち伏せしていた。お腹あたりにスマートフォンを持って、降りてくる人を全員撮影しているのである。そのなかに尾行してきた外事警察が紛れているのではないかという推察のもと撮影をしているのだ。実際に尾行をしていた者が降りる間際にロシアスパイのスマートフォンから顔を背けるなど不審な動きをすれば、ロシアスパイに尾行がバレてしまう。そのため、決して下手な動きは見せずに、無関係を装って普通にしていなければならないのだ。ロシアスパイはこういう狡猾な尾行点検を毎回するので、尾行者が同じだとバレてしまう。
また、ロシアスパイが尾行点検をする時によくやる手口として、東京のJR山手線の大塚駅を使うのだ。というのも、大塚駅には島式ホームが一つしかなく、巣鴨方面と池袋方面の電車がホームの両側に到着する。まずロシアスパイは池袋から巣鴨方面に向かう電車に乗り、大塚駅で下車する。そこで自分が乗っていた電車から乗客が降りて、自分以外の全員が出口まで向かうのを待つ。すると、ホームには池袋方面の電車に乗るために待つ客だけになる。次に池袋方面に向かう電車が来たら、今度はホームにいた客が乗り、乗客が降りてきて、みんなが出口に向かう。それを見届けて、尾行者がいるのかどうかを判断するのだという。こうした点検・消毒作業をするのは訓練を受けたスパイしかいない。逆を言うと、ロシアの場合はきちんと訓練を受けたスパイが、自らスパイ活動をしていることがわかる。他の国ならば、自ら動くことはなく、協力者を使って隠密に動くので、消毒をする必要もない。G7広島サミット開催前はスパイが激増日本が世界的なイベントを開催する時は、世界から多くの政府関係者が集まるため、徹底的にセキュリティ対策が実施される。というのも、有名人や要人も来日するということもあり、テロのターゲットになりやすいからだ。常にそのリスクを考慮する必要がある。2023年5月、日本はG7サミット(第49回先進国首脳会議)議長国として広島サミットを開催した。その際には、関係国の情報機関員は自国のリーダーの訪日に向けて、安全を確保するために活動していたはずだ。G7は、日本、イタリア、カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツの7カ国および欧州連合(EC)の各首脳が参加する。これらの国々は、日本を除いてそれなりにレベルの高い情報機関を持っている。だが、G7で調和を謳うのとは裏腹に、各国の情報機関同士が一堂に会してセキュリティ協力を行うということはない。情報機関員同士は、第三国での接触は慎むことになっているからだ。情報機関員はよほどの理由がない限り外国で他国の情報機関員と接触することは禁止されている。少なくとも、現地で情報機関同士がやりとりすることはほぼ考えにくく、連絡が必要ならば、遠回りになるがまず自国を経由して他国とやりとりすることになる。例えば、フランスの情報機関がG7の安全確保のために情報収集する場合は、日本に在留する支局長を中心に、自国や日本周辺国からの応援が来る。彼らは、東京と広島、そしてその周辺で、情報収集や安全確認などの活動を行っていたはずだ。こうした情報機関の人員は、国家間の関係がよくなったり悪くなったりすることで増減することがある。MI6の例を見ると、日本に来る人員はあまり多くはないようなので、それほど大きな仕事はできないだろう。つまりイギリスは、日本には本国にとっての脅威要素がそれほどあるとは見ていないことになる。アメリカの「アドバンスチーム(先遣隊)」G7広島サミットでは、アメリカのジョー・バイデン大統領の来日が物議を醸した。米政府の債務(借金)の上限額について、連邦議会で話し合いが続き、「債務不履行」に陥る恐れが出ていたからだ。そんなことから、G7サミットの開幕直前まで日本訪問が実現するのかどうかが協議されていた。ただアメリカの場合は、バイデンの来日を見据えた状況では、必ず米財務省内の組織で大統領などの要人警護を担当するシークレット・サービスが「アドバンスチーム(先遣隊)」を送り込んでくる。このチームは、大統領が訪問する前にその土地が安全かどうかを確認するために活動し、第一陣から第二陣、第三陣、そして本隊が来る形で多重にセキュリティチェックを実施する。日本においては、シークレット・サービスが東京支局を持たないため、チームはハワイ州のホノルルからやって来る。ある時にアメリカ大統領が訪日した際の出来事を私はよく覚えている。やはりアメリカから、アドバンスチームがやって来た。彼らは日本の警察庁に「現時点では、日本にアルカイダやIS(イスラム国)のテロの情勢なし」と確認して、言質を取りたがった。確認ができれば、脅威情報について調査リポートにそう書くことができるわけだが、警察庁の担当者はそんなことを発言して何か起きたら責任は取れないと尻込みしてしまった。そこで警視庁の窓口だった私が、当時の外事三課に問い合わせるなど情勢を確認して回答したことがある。それも、私がアフリカ某国での外交官の経験から、彼らが自国にケーブル・ドキュメント(公電)を送る必要があることを重々わかっていたからだ。もちろん、日本のイスラム国家の大使たちとも普段から接触していたので、テロリストやテロに関する不審情報がその時点ではないことは確信していた。・・・・・ロシアのスパイは日本国内で様々な活動を展開している。では、日本にとって最も脅威となる活動をしているのはどこの国のスパイなのか?『元外事警察が「日本に潜伏する『外国のスパイ』の脅威ランキング」を暴露!8位イスラエル「モサド」、7位韓国「国家情報院」…アメリカ「CIA」の意外な順位』に続く…
また、ロシアスパイが尾行点検をする時によくやる手口として、東京のJR山手線の大塚駅を使うのだ。というのも、大塚駅には島式ホームが一つしかなく、巣鴨方面と池袋方面の電車がホームの両側に到着する。まずロシアスパイは池袋から巣鴨方面に向かう電車に乗り、大塚駅で下車する。そこで自分が乗っていた電車から乗客が降りて、自分以外の全員が出口まで向かうのを待つ。すると、ホームには池袋方面の電車に乗るために待つ客だけになる。
次に池袋方面に向かう電車が来たら、今度はホームにいた客が乗り、乗客が降りてきて、みんなが出口に向かう。それを見届けて、尾行者がいるのかどうかを判断するのだという。こうした点検・消毒作業をするのは訓練を受けたスパイしかいない。逆を言うと、ロシアの場合はきちんと訓練を受けたスパイが、自らスパイ活動をしていることがわかる。他の国ならば、自ら動くことはなく、協力者を使って隠密に動くので、消毒をする必要もない。
日本が世界的なイベントを開催する時は、世界から多くの政府関係者が集まるため、徹底的にセキュリティ対策が実施される。というのも、有名人や要人も来日するということもあり、テロのターゲットになりやすいからだ。常にそのリスクを考慮する必要がある。
2023年5月、日本はG7サミット(第49回先進国首脳会議)議長国として広島サミットを開催した。その際には、関係国の情報機関員は自国のリーダーの訪日に向けて、安全を確保するために活動していたはずだ。G7は、日本、イタリア、カナダ、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツの7カ国および欧州連合(EC)の各首脳が参加する。これらの国々は、日本を除いてそれなりにレベルの高い情報機関を持っている。だが、G7で調和を謳うのとは裏腹に、各国の情報機関同士が一堂に会してセキュリティ協力を行うということはない。
情報機関員同士は、第三国での接触は慎むことになっているからだ。情報機関員はよほどの理由がない限り外国で他国の情報機関員と接触することは禁止されている。少なくとも、現地で情報機関同士がやりとりすることはほぼ考えにくく、連絡が必要ならば、遠回りになるがまず自国を経由して他国とやりとりすることになる。
例えば、フランスの情報機関がG7の安全確保のために情報収集する場合は、日本に在留する支局長を中心に、自国や日本周辺国からの応援が来る。彼らは、東京と広島、そしてその周辺で、情報収集や安全確認などの活動を行っていたはずだ。
こうした情報機関の人員は、国家間の関係がよくなったり悪くなったりすることで増減することがある。MI6の例を見ると、日本に来る人員はあまり多くはないようなので、それほど大きな仕事はできないだろう。つまりイギリスは、日本には本国にとっての脅威要素がそれほどあるとは見ていないことになる。
G7広島サミットでは、アメリカのジョー・バイデン大統領の来日が物議を醸した。米政府の債務(借金)の上限額について、連邦議会で話し合いが続き、「債務不履行」に陥る恐れが出ていたからだ。そんなことから、G7サミットの開幕直前まで日本訪問が実現するのかどうかが協議されていた。ただアメリカの場合は、バイデンの来日を見据えた状況では、必ず米財務省内の組織で大統領などの要人警護を担当するシークレット・サービスが「アドバンスチーム(先遣隊)」を送り込んでくる。このチームは、大統領が訪問する前にその土地が安全かどうかを確認するために活動し、第一陣から第二陣、第三陣、そして本隊が来る形で多重にセキュリティチェックを実施する。日本においては、シークレット・サービスが東京支局を持たないため、チームはハワイ州のホノルルからやって来る。
ある時にアメリカ大統領が訪日した際の出来事を私はよく覚えている。やはりアメリカから、アドバンスチームがやって来た。彼らは日本の警察庁に「現時点では、日本にアルカイダやIS(イスラム国)のテロの情勢なし」と確認して、言質を取りたがった。確認ができれば、脅威情報について調査リポートにそう書くことができるわけだが、警察庁の担当者はそんなことを発言して何か起きたら責任は取れないと尻込みしてしまった。そこで警視庁の窓口だった私が、当時の外事三課に問い合わせるなど情勢を確認して回答したことがある。それも、私がアフリカ某国での外交官の経験から、彼らが自国にケーブル・ドキュメント(公電)を送る必要があることを重々わかっていたからだ。
もちろん、日本のイスラム国家の大使たちとも普段から接触していたので、テロリストやテロに関する不審情報がその時点ではないことは確信していた。
・・・・・
ロシアのスパイは日本国内で様々な活動を展開している。では、日本にとって最も脅威となる活動をしているのはどこの国のスパイなのか?『元外事警察が「日本に潜伏する『外国のスパイ』の脅威ランキング」を暴露!8位イスラエル「モサド」、7位韓国「国家情報院」…アメリカ「CIA」の意外な順位』に続く…