遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が、「最期は一人で死んでいく」という現実だ。いま孤独死・自殺の現場では何が起こっているのか。遺品整理業者が、日本人の知らない遺品整理の実情を克明に記した『遺品は語る』(赤澤健一著)より、抜粋してお届けする。
前編記事【「田舎で一人暮らし」88歳の母の急死…残された「真新しい大量のタオル」に60代娘が涙を流した理由】
「祖母が一人住まいしている家を片づけて欲しい」と女性から依頼された案件でのことだった。九〇代の高齢で、遠方の山間部にお住まいだという。その家の中のさまざまな荷物の整理を、お孫さんが頼んでこられたのだ。
見積もりのために、四〇歳くらいのご依頼主と現地を訪ねた。大きな家ではないが、立派な造りの、歴史を感じさせる民家だった。
ところが、声をかけても応答がない。不審に思って中に入ると、玄関の次の間で、ご依頼主のおばあさまはお亡くなりになっていた。
きちんと正座をされて、そのまま前に倒れ込むような体勢だった。その手には洗濯物があった。おそらく、「見積もりに来る前に少し片づけておこう」と考え、作業をしているうちに亡くなられたのだろう。
Photo by getty imagesもともとは今後の暮らしのために家の中の片づけを相談されたのだが、結局は後日、遺品整理にお伺いすることとなった。遺品整理の作業を進めていくと、タンスの奥からノートが出てきた。タイトルは「一〇歳になった○○へ」だ。「○○」とは、ご依頼主の女性の方の名前なので、ご本人にお見せした。「見覚えのないノートだわ」ノートを開くと、そこにはお味噌汁など簡単な料理の作り方が記されていた。ご依頼主のお母さまが、娘のために作成したノートだった。お母さまは、ご依頼主が小さい頃に他界されている。亡くなられたお母さんが「一〇歳になったら読んで欲しい」と考えて記したものの、渡せずに遺したノートを、おばあさまが保管されていたのだろう。なぜそのままになっていたのか、いまとなってはわからない。Photo by getty images「大切にします」ご依頼主は、そう言ってノートを胸の前で抱きしめた。もっと読む【孤独死して半年間放置されていた男性…窓一面に大量のハエ…ここまで発見が遅れてしまった「納得の理由」】
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もともとは今後の暮らしのために家の中の片づけを相談されたのだが、結局は後日、遺品整理にお伺いすることとなった。
遺品整理の作業を進めていくと、タンスの奥からノートが出てきた。タイトルは「一〇歳になった○○へ」だ。「○○」とは、ご依頼主の女性の方の名前なので、ご本人にお見せした。
ノートを開くと、そこにはお味噌汁など簡単な料理の作り方が記されていた。ご依頼主のお母さまが、娘のために作成したノートだった。
お母さまは、ご依頼主が小さい頃に他界されている。亡くなられたお母さんが「一〇歳になったら読んで欲しい」と考えて記したものの、渡せずに遺したノートを、おばあさまが保管されていたのだろう。なぜそのままになっていたのか、いまとなってはわからない。
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「大切にします」
ご依頼主は、そう言ってノートを胸の前で抱きしめた。
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