“ギザ10”といえば、硬貨の縁にギザギザの溝が彫られた10円玉である。子どもの頃、コレクションした思い出がある人も多いかもしれない。ギザ10は昭和26~33年にかけて発行され、最後の発行から実に65年もの歳月が経過している。摩耗したり、汚れたりしたコインは定期的に回収されているので、最近はめっきり見ることが少なくなった。
【写真】27万円のギザ10、120万円の10円…珠玉のお宝コインたち さて、テレビ番組やネットニュースではしばしば「ギザ10は価値がある」と紹介されるため、保存しておけばプレミアがつくのではないか、と思う人がいるかもしれない。だが残念ながら、財布の中に入っているギザ10は、ほとんどの場合、額面通り10円の価値しかない。ギザ10の中でもっとも発行枚数が少ない昭和33年銘であっても、同じである。

ギザ10を見つけるとなぜかテンションが上がる(写真はイメージです) コインカタログに記載されている金額は、コイン商が販売する際の基準となる価格であり、買取価格ではない。ギザ10は発行枚数がそもそも多いため、コイン商に持ち込んでも、買取を断られるケースがほとんどだ。したがって、コンビニやスーパーのお釣りで見つかるギザ10では、まずプレミアは望めないと考えていいだろう。ギザ10が衝撃の27万円、その理由は ところが、日本を代表するコイン商「銀座コイン」のオークションで、ギザ10が数万円、数十万円という高額で落札される例が相次いでいる。いったいどういうことだろうか。 実は、「ギザ10に価値がある」という説明は半分間違いで、半分正しい。“条件付き”ではあるが、プレミアコインに化けることがあるのだ。 今年10月に開催された銀座コインのオークションで、昭和30年銘のギザ10が27万円で落札され、コレクターの間にも衝撃が走った。昭和30年の10円玉は1億231万枚も発行され、昭和最後の年号である昭和64年の10円玉よりも発行枚数が多い、ごくごく平凡な10円玉だ。では、何が珍しいのだろうか。実物を見ていただくと、その希少性がよくわかる。表面が美しい赤色にキラキラと輝いているのがお分かりいただけるだろうか。 そう、このギザ10は“完全未使用品”であり、今から68年前に製造されたとは思えないほど保存状態が良かったため、高額落札になったのだ。なお、昭和26年に発行されたギザ10も、同じ回のオークションでなんと5万6000円で落札されている。状態の良いギザ10をコレクションするコレクターは、一定数存在するのであろう。未使用品は意外なところに眠っている? もし、こうした状態の良いギザ10を見つけたら、一攫千金……とまではいかなくても、お小遣い程度の利益が得られる可能性は十分にある。しかし、何しろ半世紀以上前のコインだ。未使用品など、どうやって手に入れるのかと思う人もいるかもしれない。これが、手に入る可能性があるのだ。銀座コインの竹内三浩さんがこう解説する。「銀行で両替すると手に入る、未使用品のコインを50枚束ねた“ロール”が、金庫にしまわれたまま忘れられていることがあります。ロールになったコインは空気に晒されないため、数十年前のものでも美しい光沢を残していることが多い。特に、実家で昔、商売をやっていた人などは、金庫やタンスの中を探してみてもいいかもしれません」 こうしたロールをばらしたコインは、コレクターの間で“ロール出し”と呼ばれ、珍重される。竹内さんによると、今回のギザ10もロール出しである可能性は高いという。年末の掃除のときにロールを見つけたら、ついバラして使ってしまうか、そのまま銀行に預金してしまいそうになるが、一度はコイン商に相談してみてもいいかもしれない。コインの表面を磨くのは絶対にダメ YouTubeなどでは「コイン磨き」の動画が流行している。手垢にまみれたコインを特殊な薬品を使って磨き、輝きを復活させるというものだ。これは見ている分には楽しい。状態の良いコインが高くなるのであれば、コイン磨きの要領で磨けば一攫千金ではないか……と思う人もいるかもしれないが、竹内さんはこう指摘する。「コインの表面を磨くのは絶対にやめてください。磨いたものか、本当の未使用品かどうかは、我々業者はすぐにわかります。それに、明治時代の金貨や江戸時代の銅貨などは、磨いてしまうと歴史の風合いが失われ、コレクション的な価値が半減することがほとんど。コインはありのままの姿で残していただきたいですね」見つかったら大化け? エラー10円玉 5円玉や50円玉の穴がずれていたり、穴が開いていなかったりといった、いわゆるエラーコインはよく知られている。実は10円玉にもエラーコインは存在し、もし見つけたら大化けする可能性があるのだ。銀座コインのオークションで落札された品物を見てみよう。 この10円玉は、平成元年に発行されたごくごく普通の10円玉に見える。先ほどのギザ10のように保存状態が良いわけではなく、表面は手垢で汚れている。ところが、本来あるはずの平等院鳳凰堂の刻印がなく、両面に“10”の文字が刻まれている。さらに詳細に観察すると、片面に刻まれた文字は鏡鑑文字になっているのだ。 これは10円玉にごく稀に見られる“陰打”と呼ばれる有名なエラーで、120万円で落札されている。昭和の時代の陰打でも数十万円で落札される例が多いが、製造技術が上がった平成の年号ということで特に希少性が高く、10円玉のエラーコインではトップクラスの高額落札となった。 陰打はごくごく稀ではあるものの、財布の中から見つかる可能性が高いエラーコインであり、50円玉の穴ずれよりも知名度が低いため、見逃されているケースが多い。釣り銭で10円玉を手にしたら、こまめにチェックする癖をつけてもいいかもしれない。もちろん、エラーコインが高いからといって、故意に手を加えると犯罪になってしまうため、ご法度であると心得よう。山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。デイリー新潮編集部
さて、テレビ番組やネットニュースではしばしば「ギザ10は価値がある」と紹介されるため、保存しておけばプレミアがつくのではないか、と思う人がいるかもしれない。だが残念ながら、財布の中に入っているギザ10は、ほとんどの場合、額面通り10円の価値しかない。ギザ10の中でもっとも発行枚数が少ない昭和33年銘であっても、同じである。
コインカタログに記載されている金額は、コイン商が販売する際の基準となる価格であり、買取価格ではない。ギザ10は発行枚数がそもそも多いため、コイン商に持ち込んでも、買取を断られるケースがほとんどだ。したがって、コンビニやスーパーのお釣りで見つかるギザ10では、まずプレミアは望めないと考えていいだろう。
ところが、日本を代表するコイン商「銀座コイン」のオークションで、ギザ10が数万円、数十万円という高額で落札される例が相次いでいる。いったいどういうことだろうか。
実は、「ギザ10に価値がある」という説明は半分間違いで、半分正しい。“条件付き”ではあるが、プレミアコインに化けることがあるのだ。
今年10月に開催された銀座コインのオークションで、昭和30年銘のギザ10が27万円で落札され、コレクターの間にも衝撃が走った。昭和30年の10円玉は1億231万枚も発行され、昭和最後の年号である昭和64年の10円玉よりも発行枚数が多い、ごくごく平凡な10円玉だ。では、何が珍しいのだろうか。実物を見ていただくと、その希少性がよくわかる。表面が美しい赤色にキラキラと輝いているのがお分かりいただけるだろうか。
そう、このギザ10は“完全未使用品”であり、今から68年前に製造されたとは思えないほど保存状態が良かったため、高額落札になったのだ。なお、昭和26年に発行されたギザ10も、同じ回のオークションでなんと5万6000円で落札されている。状態の良いギザ10をコレクションするコレクターは、一定数存在するのであろう。
もし、こうした状態の良いギザ10を見つけたら、一攫千金……とまではいかなくても、お小遣い程度の利益が得られる可能性は十分にある。しかし、何しろ半世紀以上前のコインだ。未使用品など、どうやって手に入れるのかと思う人もいるかもしれない。これが、手に入る可能性があるのだ。銀座コインの竹内三浩さんがこう解説する。
「銀行で両替すると手に入る、未使用品のコインを50枚束ねた“ロール”が、金庫にしまわれたまま忘れられていることがあります。ロールになったコインは空気に晒されないため、数十年前のものでも美しい光沢を残していることが多い。特に、実家で昔、商売をやっていた人などは、金庫やタンスの中を探してみてもいいかもしれません」
こうしたロールをばらしたコインは、コレクターの間で“ロール出し”と呼ばれ、珍重される。竹内さんによると、今回のギザ10もロール出しである可能性は高いという。年末の掃除のときにロールを見つけたら、ついバラして使ってしまうか、そのまま銀行に預金してしまいそうになるが、一度はコイン商に相談してみてもいいかもしれない。
YouTubeなどでは「コイン磨き」の動画が流行している。手垢にまみれたコインを特殊な薬品を使って磨き、輝きを復活させるというものだ。これは見ている分には楽しい。状態の良いコインが高くなるのであれば、コイン磨きの要領で磨けば一攫千金ではないか……と思う人もいるかもしれないが、竹内さんはこう指摘する。
「コインの表面を磨くのは絶対にやめてください。磨いたものか、本当の未使用品かどうかは、我々業者はすぐにわかります。それに、明治時代の金貨や江戸時代の銅貨などは、磨いてしまうと歴史の風合いが失われ、コレクション的な価値が半減することがほとんど。コインはありのままの姿で残していただきたいですね」
5円玉や50円玉の穴がずれていたり、穴が開いていなかったりといった、いわゆるエラーコインはよく知られている。実は10円玉にもエラーコインは存在し、もし見つけたら大化けする可能性があるのだ。銀座コインのオークションで落札された品物を見てみよう。
この10円玉は、平成元年に発行されたごくごく普通の10円玉に見える。先ほどのギザ10のように保存状態が良いわけではなく、表面は手垢で汚れている。ところが、本来あるはずの平等院鳳凰堂の刻印がなく、両面に“10”の文字が刻まれている。さらに詳細に観察すると、片面に刻まれた文字は鏡鑑文字になっているのだ。
これは10円玉にごく稀に見られる“陰打”と呼ばれる有名なエラーで、120万円で落札されている。昭和の時代の陰打でも数十万円で落札される例が多いが、製造技術が上がった平成の年号ということで特に希少性が高く、10円玉のエラーコインではトップクラスの高額落札となった。
陰打はごくごく稀ではあるものの、財布の中から見つかる可能性が高いエラーコインであり、50円玉の穴ずれよりも知名度が低いため、見逃されているケースが多い。釣り銭で10円玉を手にしたら、こまめにチェックする癖をつけてもいいかもしれない。もちろん、エラーコインが高いからといって、故意に手を加えると犯罪になってしまうため、ご法度であると心得よう。
山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。
デイリー新潮編集部