2023年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。世間を騒がした「困った客」部門、店員が本音を語る迷惑客の数々から第9位はこちら!(集計期間は2023年1月~10月まで。初公開2023年10月26日 記事は取材時の状況) * * *
リーズナブルだと感じるサービス提供の裏側には、店や企業の努力が隠されていることが少なくない。そして、「想像以上にギリギリの経営をしているところも多いため、マナーを守って楽しんでほしい」と怒りを滲ませるのは、飯田一義さん(仮名・36歳)。
飯田さんはリーズナブルな価格がウリのビジネスホテルで、従業員として働いている。常連客から稀に、「コロナ禍は大変だったね」と声を掛けられることもあるというが、「実はここだけの話、コロナよりも大変で心が折れるのが、迷惑客への対応です」と話してくれた。
◆枕やシーツの全面がベットベトに
「ほとんどの人が問題のないレベルで宿泊してくれますが、なかには驚くほど迷惑なお客様もいらっしゃいます。少し過去の話にはなりますが、ベッドメイクのスタッフから連絡が入り部屋へ行くと、枕やシーツの全面がベットベトになっていたことがありました」
思わずニオイを嗅いでみたが、無臭。色が透明で、いたるところに使用済みティッシュがボタボタと投げ捨てられていたことから、“行為”のあとではないかとピンときた。そして大量のローション(潤滑油)を使ったのだと、すぐに理解したという。
◆特別にクリーニング代を請求していない
「ゴミ箱を覗き込むと予想通り、ローションの空容器と大量のティッシュ。間違いなくローションだと判明したところで、気持ち悪さが込み上げてきました。ティッシュは予備に置いてあるものまですべて使い切り、片付けもせずチェックアウトするなんて……」
無意識にいろいろと想像してしまい吐き気までもよおした飯田さんだったが、我慢してベッドまわりやトイレ、浴槽などをチェックしてまわった。すると、いたるところがローションでベトベトになっている。どうやら朝起きて、いろいろな場所で楽しく過ごしたらしい。
「私が働いているホテルでは、おねしょや生理の血など生理現象が原因での汚れの場合、お客に対して特別にクリーニング代を請求するようなことはしていません。けれどそのときは、枕やシーツの全面に大量のローション。しかも、部屋中のあちこちがベットベトでした」
◆「これだからやっすいホテルは……!」
飯田さんによると、「ローションは、ぬるぬるした感触がなかなか取れません。キレイに掃除するためには、普段の倍以上に時間がかかります」とのこと。上司に相談すると、今後また宿泊して同じことをされても困るという話でまとまった。
「そして宿泊客に連絡し、別途クリーニング代を請求することになったのです。ところが、事情を説明してお金を振り込むように伝えた途端、態度が急変。チッ!と急に舌打ちし、『これだからやっすい(安い)ホテルは……!』と吐き捨てるように言いました」
そして突然、電話の向こうで口喧嘩が勃発。声の感じや話の内容から、相手は、いっしょにホテルに泊まっていた女性だと思われた。「お前が、あんなクソ安いホテルにしようとか言うからだろうが!」などと男性の怒鳴る声が聞こえたかと思えば、今度は女性が反論。
◆2人の言い争いがピークに達して

ただ、その暴言は飯田さんにではなく、電話の向こうにいる女性に向けられている。飯田さんが「お客様、お客様」と問いかけても、まったく反応がない。そのうち2人の言い合いはピークに達し、電話はガチャリと切れてしまったという。
「そのあと何度も掛け直していると、電話に出たのは女性でした。そして謝罪があり、クリーニング代も支払ってくれると約束してくれたのです。ただ、その話をしている間もずっと、『そんなの、払う必要なんかない!』など、男性はずっと文句を言っていました」
◆低価格なサービスは多くの人の努力
電話の向こうでは「そんなにカネがほしいのか! 底辺のホテルが!」などと卑下されながらも、どうにか女性との話がまとまったこともあり、電話を切りました。ただ、「不愉快な気分は、なかなか晴れませんでした」と続ける。
「安いホテルにもプライドはあります! 当ホテルでは、お客様が利用しやすいようにリーズナブルな価格に設定しているだけです。それが嫌なら、同伴者を説得してでも別の宿泊施設へ泊るべき。それなのに、それを蔑み、マナーさえ守らず、まったく迷惑な話です」
思い出すたび腹が立つという飯田さんは、「低価格なサービスは、多くの人たちの努力で成り立っているということを忘れないでほしいです」と話を締めくくった。低価格で高品質なサービスを支える人たちの努力を蔑み、嘲笑うような行為は絶対に慎みたいものだ。
<TEXT/夏川夏実>
―[2023年「困った客」トップ10]―