■非常勤頼み、質の確保課題
共働き家庭などの小学生を預かる「放課後児童クラブ」(学童保育)が、人手不足に陥っている。
低い給与など待遇面の不満から人材の流出が後を絶たないためで、待機児童の解消に向けた受け皿整備の足かせになっている。専門家からは国や自治体に対策を求める声が上がる。(山下真範)
■残業300時間
「子どもや保護者のためにと思って続けてきたが、もう限界だ」。大阪府内の自治体の学童保育で非常勤職員として働く50歳代女性は、そう訴える。20年以上勤めているが、転職を考え始めたという。
勤務は基本的に午後1時から午後6時半で、勉強や食事の指導だけでなく、児童同士のトラブル解決や、児童ごとの指導計画の作成などにも追われる。
学校が長期休みに入る夏や冬は、朝から児童を受け入れる。残業は年300時間超で、法定上限(年360時間)に迫るが、給与は残業代も含めて多い月でも約30万円にしかならない。
この自治体の学童保育の職員は約100人で、「暮らしていけない」といった理由で、年間に十数人が退職。新たな職員を募集しても応募が少なく、定員が満たせない状況が続いて負担が増しているという。
■新たに1万人必要
ほかの自治体でも同様の事態が起きており、人手不足が学童保育の整備の遅れに直結している。今年5月時点で、全国の待機児童は1万6825人。学童保育の定員について、国は152万人を目標に掲げるが、144万人にとどまる。
目標達成のためには、新たに1万人程度の職員が必要になる。学童保育の整備を支援するこども家庭庁に対し、自治体からは「現状でも職員を確保できておらず、新たな学童保育の整備は難しい」と苦境を訴える声が相次いでいる。
職員が集まらない主な要因は、給与の低さにある。2021年度の平均給与は常勤職員が285万円、非常勤職員は146万円。同年の保育士の370万円や全産業平均の426万円と比べて大幅に低い。
同じ学童保育でも民間との待遇差は大きい。東急グループの「キッズベースキャンプ」で正社員として勤務する女性(35)は、17年までの6年間、都内の学童保育で非常勤職員として働いていた。
当時の基本給は20万円に満たず、契約期間も1年だった。契約が更新される保証はなく、昇給や賞与もない。仕事内容に不満はなかったが、将来の生活設計を描けずに退職を決めた。
転職後は給与が1・5倍に増えた。今では約20人の部下をまとめる現場責任者を任されており、女性は「やりがいを感じ、ずっとこの仕事を続けたいと思っている」と話した。
■財政支援
職員の質の確保も課題となっている。国は学童保育には、保育士や教員の資格を持つなどの条件を満たした「放課後児童支援員」が1人は必要で、2人以上が望ましいとしている。
実際には支援員を1人しか確保できず、学生や主婦などの非常勤職員に頼っている学童保育が多い。こども家庭庁によると、22年の職員は常勤6万2277人に対し、非常勤は12万300人と3分の2を占める。
全国学童保育連絡協議会(東京)の18年の全国調査では、全職員のうち経験年数が5年未満の職員が48%を占めた。こうした傾向は今も続いており、担当者は「非常勤は長続きせずに辞めるケースが多く、サービスの質を保てるのか疑問だ」と指摘する。
国は6月に閣議決定した「こども未来戦略方針」で、学童保育の常勤職員の増員を明記している。年内に示される具体策には、常勤職員を増やした自治体には補助金を増額するなど、職員確保の財政支援が盛り込まれる見通しだ。
■行政の「軽視」原因…「予算投入が必要」
学童保育に詳しい安部芳絵・工学院大教授(教育学)は「人材不足は、行政が学童保育を『おまけの政策』と捉え、軽視してきたことに原因がある。保育所と同じように子育て家庭にとっては不可欠で、少子化を食い止めるためには予算を投入する必要がある。首都圏の保育所では、家賃補助が保育士確保につながった例もある。国と自治体は家賃補助などを含めた待遇の改善策を打ち出し、常勤職員の確保に力を入れるべきだ」と指摘している。