11月19日投開票された千葉・我孫子市議会議員選挙。定数24をめぐって29人が立候補し、プロレスラーの澤田敦士氏(40)が3選を果たすなど、スポーツ新聞などで注目を集めたが、選挙が終わってから、がぜん話題を集めている当選者がいる。
深井優也市議(35)――2位で当選した新人市議だ。
地元の高校を出た後、何かと話題の日大へ進学。大手不動産会社を経て、地元の不動産会社で勤務し、今年8月に休職。市議会選挙への出馬準備に入った。
「手賀沼公園や我孫子駅前でゴミを拾う動画をアップし、『ゴミリーマン』として注目を集め始める。選挙期間となると自転車に乗って街頭演説をする一方でSNSを巧みに利用し、候補者の中、唯一の30代で若さを前面に押し出し、支援を広げました」(我孫子市議)
初選挙ながら、無所属で2871票を叩き出し、注目の新人議員と目されている。
「真面目で硬すぎる」
彼に選挙事務所を貸した物件オーナーは人柄をそう評し、こう続けた。
「選挙期間中、大学時代の同級生2人、趣味のテニス仲間が2人の計4人が事務所に来たくらいで、中高の友人はまったく来なかったね。友だちをもっと作らないと駄目だ、といえば素直にうなずく。実家からの支援がないようで、月10万7000円の家賃を途中から『お金ないんです』と値切ってきた。まだ家賃を支払ってもらっていないが、出ていく際、業務用の掃除機を持ってきて丁寧に掃除をしてくれた」
当初は「真面目で好青年」という評判だったが、選挙戦が進むにつれて”ゴミリーマン”の二面性が指摘され始めた。
「9月13日、市議会にアポ無しで来て『市民に興味をもってもらうために議会(予算審査特別委員会)を録画したい』『動画を加工して自分のSNSで配信したい』と言い出した。委員長らと協議をし、動画を加工をしないこと、アップ前に確認することを条件に撮影を許可しましたが、あまりに突然の申し出で、議会開始が30分遅れました。2日後の15日も決算審査特別委員会を撮影していきましたが、結局、配信されませんでした……」(議会事務局)
深井市議は実は、知る人ぞ知る資産家の御曹司だ。実父の英樹氏は巨大屋外デジタルサイネージ広告で知られる「株式会社HIT」の社長なのである。首都圏のビルや首都高速脇で見かけるデジタル広告を手掛ける会社で非上場企業ながら、本社は銀座にあり、シンガポールに現地法人も設立している。また英樹氏が代表を務める有限会社「エフケイアイ」は我孫子駅南口一等地に14階建ての高級マンションを建設中で、深井家の資産は100億円を超えると言われている。
元支援者の我孫子市民は嘆息を交え、こう話した。
「“庶民の味方”かのように選挙活動をしていましたが、出馬前まで実家の大豪邸で暮らしていて、真っ赤な車を乗り回していました。出馬するにあたって、わざわざ市内のマンションで仮住まいしていたようです。注目されるのが大好きで『ディズニーランドで結婚式を挙げた。費用は1000万円くらいで、安かったですよ』と自慢してましたね。
『市議になって何をしたいか』と尋ねられた深井が『とくに何もありません』『歳費(年771万円)は必要ない』と答えたときは唖然としましたね。選挙を手伝った日大時代の同級生に尋ねたら、『優也は有名になりたくて出ただけですよ』と笑われました。しかし、有権者の前ではそんな素顔は一切見せない。当選後も奥さんをヤクルトレディに復帰させ、『地域のために汗を流す好青年』として振る舞っていますが…」
だが、深井市議が隠し続けたトンデモぶりは選挙当日、ついに白日の下に晒された。自らの“失策”が原因だった。我孫子市議が呆れる。
「投票日19日、読売新聞の折込みチラシとして深井候補のビラが入っていたんですよ。選挙期間は前日の18日までで、選挙期間以外での配布は禁じられており、あきらかな公職選挙法違反です。即日、選管に通報されたと聞いています」
市役所職員は匿名を条件にこう語る。
「選挙事務所をたたむ手続きをするなかで、深井市議は選管の職員から『投票日の折込み広告でのビラ配布は(公選法)違反ですよ』と声をかけられ、『えっ、そうなんですか?』と真っ青になっていたそうです」
演説中に有権者にビラを手渡したり、事務所に有権者がビラを取りに来るのは問題ない。また新聞の折込みチラシとして配布するのも適法だ。しかし、選挙期間以外での配布は禁じられている。我孫子市の選挙管理委員会に確認を取ると、「そういう話は承知しております」とし、「あとは警察の判断となります」と続けた。読売新聞の台田販売店にも確認したが、「お客様の個人情報です」と回答はなかった。
公選法は難解な法律だが、投票日のビラ配布禁止については、将棋で言えば、歩を2つ置く、『二歩』のような初歩的なミスだ。14期当選の佐々木豊治市議(80)は「投票日は何もせん。それは常識」と切り捨てた。
深井市議本人は何と語るのだろうか。12月1日、当選議員が集結する全員協議会の前に直撃した。
–投票日の19日に読売新聞の折込みチラシでビラを配ったのはなぜですか。
「何の件ですか……、お答えできません」
–「有名になりたいから」市議に出馬した、と支援者から聞きましたが、事実ですか。
「……」
震える指先で、議員バッジの入った木箱を受け取ると、深井市議はトイレに駆け込んだ。何を問いかけても黙秘を貫いた。
議会が休息に入ったタイミングで、議場を出てきた星野順一郎市長(65)を直撃すると、こう明言した。
「報告は受けています。仮にうっかり(ミス)でも、ルールはルールですから。いまはもう選管、我孫子市役所の手を離れ、警察の判断を待っています」
「有名になりたい」という深井市議の目的は、皮肉にも本人が想像し得なかった形で叶えられたのだった。
撮影・文:岩崎大輔