「道の駅」に寄贈されたダンボール製の授乳室に、賛否の意見が続出した今年の9月。その後、改良された授乳室が設置され、短期間でどのような対応がとられたのかを取材しました。
【アフター写真】改良されたダンボール授乳室はコチラ2023年から3年間で全国の道の駅150駅への寄贈を目標に、9月13日から提供が開始された「ダンボール授乳室」。高さは約2メートルで天井との間には隙間ができ、出入り口を塞いでいるのはカーテン。そのため、「カーテンで閉めるだけって」「のぞかれるかも」「古くなってきたら衛生的に無理」など不安の声が。「今までなかった所に設置してもらったのにただの我儘」「嫌な人は使わなきゃ良いだけ」などの反論がなされる一方、設置スペースや安全面から使用を見送る自治体も出ました。

不安の声を受けて、11月2日に発表されたのが、改良されたダンボール授乳室。そこで、どのように改善され、なぜそもそも材質がダンボールとなったのかを取材。また、新たに設置された道の駅「摩周温泉」の反応を聞きました。国土交通省の設置率50%を達成するために?まず、なぜ道の駅に授乳室が必要だったのでしょうか。実は、地元の人々と観光客に人気のスポットでありながらも、令和1年度の「道の駅」のベビーコーナー保有率はたった4%。郊外であれば、数少ない休憩場所でもあることを考えると、驚きの低さと言えます。「国土交通省では、子育て応援施設として道の駅のベビーコーナーの設置率を令和7年までに50%超とする目標を設定しています。この達成への貢献のため、全国道の駅連絡会と協力し、『子育て応援』施設の整備支援の取り組みとして『授乳室(授乳チェア付き)』を寄贈することとしました」と、一般社団法人日本道路建設業協会(以下、「道建協・どうけんきょう」)と、一般社団法人全国道の駅連絡会が、道の駅の整備推進を担うための判断でした。道建協に選定の基準を尋ねると、「災害発生時の活用やコストの観点から、これまで行政機関等へも納品実績のある、板野紙工製の簡易設置型授乳室に」。開発段階で自治体子育て部署等から必要な情報を受け、モニター調査も経て完成したと聞いていることや、2019年には「ひろしまグッドデザイン賞」を受賞したことを理由に挙げました。さらに、全国道の駅連絡会経由で女性駅長の会に意見をうかがい、それを参考に製作元にいくつかの改良も依頼されたそうです。不安視された要因、ダンボールという材質についてのメリットは、「コスト面から一定量の寄贈が可能であり、道の駅の子育て応援施設整備のツールとして、より多くの道の駅に活用できること」「設置後でも移動が可能なため、災害発生時に設置される避難所の授乳室としても活用が可能なため」と説明。50%を達成するために、ダンボールであればコスト的に実現可能だったことが伺えますダンボール授乳室、どのように改善を?今回の授乳室は、もともとは広島県健康福祉局子育て・少子化対策課と、株式会社板野紙工(いたのしこう)が、「必要に応じて平時から設置、あるいは備蓄しておき、有事には後回しになりがちな授乳スペースの確保ができる「防災用品」として開発」(板野紙工HPより)、さらに道の駅向けに改良されたものでした。人々からさまざまな意見が寄せられ、より安心して利用できるように、約2カ月という短期間で、施錠可能な前扉がつけられ(施錠すると空室・在室が外からわかるよう表示)、高さを基本の2メートルから最大50センチ伸ばせるオプション部材が提供されました。ただし、要望があった天井の設置は、消防法の規定などから見送られています。また、広報資料では、すでに設置された「寄贈済の7駅においても対応可能」と表記され、具体的には「準備が整い次第、施錠付扉とスライド式ロックバーの部材を出荷する」とのことでした。今回の件については、「いただいた貴重なご意見を真摯に承り、道の駅や全国道の駅連絡会、製作メーカーと連携して検討し、いくつかの製品改良や運用面の工夫を実施したところ。今後とも可能なものについては対応してまいりたい」と道建協はコメント。今後も、利用者側のリアルな意見が、どのように進化を遂げるかを左右しそうです。設置場所への不安については?道建協は、9月の時点で、寄贈先を事前に調査し、衛生面、防犯面から問題の無い場所への設置をお願いされていたとのことですが、改めて「従業員の目につく場所など設置場所を工夫して防犯性や安全性の強化、定期清掃や消毒などで衛生的な環境を保つ」方針を道の駅と共有しているとのことです。改良後、寄贈された道の駅「摩周温泉」に聞いた最も早く改良されたダンボール授乳室を提供されたのが、道の駅「摩周温泉」です。運営する北海道の「弟子屈町(てしかがちょう)観光商工課」にたずねました。当初の寄贈予定は10月上旬でしたが11月9日に。約1カ月の延期の理由は、先述の通りダンボール授乳室の改良待ちでした。ダンボール授乳室は、休憩スペースとして利用している小上がりに設置されましたが、現在は閑散期であり、1カ月以上たった今も利用されていないとのこと(12月中旬の取材時点)。休憩スペースは今後、キッズスペースとして整備する予定で、「授乳室内は町内で活動している子育てサークル『てしファミ』『発達っ子ママの会』の皆様よりどのような機能を持たせたらよいか意見をいただきながら工夫をしていく。また、子育てサークルと連携し、ダンボール空間の改善のため、子供たちに大きな画用紙で絵を描いてもらい貼り付けて装飾するイベントを定期的に開催することとなっています」と、居心地良い空間にするための活動を行う予定だそうです。◇ ◇寄贈先の地域で子育て中の人の意見を参考に運用されることを例に考えると、改良されたダンボール授乳室は、現地の人々の手間やアイデアが引き続き必要だと言えそうです。また、ダンボールの原材料はあくまで”紙”。災害による避難時に一時的に使用するのはともかくとして、一定期間での入れ替えが必要になるのではないのかも気になるところ。道建協によると、「製作メーカーからは、普通の段ボールより厚みのある強化段ボールを用い、天井部分に梁を渡して強度を高めたもので、『常設にも耐える安心、安全な授乳室』と聞いている。製品の特性上、水が掛からない屋内への設置を想定している」とのことです。ただ、一般的に施設には定期的な改装が必要であることを考えると、安心して子育てできるように、長期的な展望を願うばかりです。(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)
2023年から3年間で全国の道の駅150駅への寄贈を目標に、9月13日から提供が開始された「ダンボール授乳室」。高さは約2メートルで天井との間には隙間ができ、出入り口を塞いでいるのはカーテン。そのため、「カーテンで閉めるだけって」「のぞかれるかも」「古くなってきたら衛生的に無理」など不安の声が。「今までなかった所に設置してもらったのにただの我儘」「嫌な人は使わなきゃ良いだけ」などの反論がなされる一方、設置スペースや安全面から使用を見送る自治体も出ました。
不安の声を受けて、11月2日に発表されたのが、改良されたダンボール授乳室。そこで、どのように改善され、なぜそもそも材質がダンボールとなったのかを取材。また、新たに設置された道の駅「摩周温泉」の反応を聞きました。
まず、なぜ道の駅に授乳室が必要だったのでしょうか。実は、地元の人々と観光客に人気のスポットでありながらも、令和1年度の「道の駅」のベビーコーナー保有率はたった4%。郊外であれば、数少ない休憩場所でもあることを考えると、驚きの低さと言えます。
「国土交通省では、子育て応援施設として道の駅のベビーコーナーの設置率を令和7年までに50%超とする目標を設定しています。この達成への貢献のため、全国道の駅連絡会と協力し、『子育て応援』施設の整備支援の取り組みとして『授乳室(授乳チェア付き)』を寄贈することとしました」と、一般社団法人日本道路建設業協会(以下、「道建協・どうけんきょう」)と、一般社団法人全国道の駅連絡会が、道の駅の整備推進を担うための判断でした。
道建協に選定の基準を尋ねると、「災害発生時の活用やコストの観点から、これまで行政機関等へも納品実績のある、板野紙工製の簡易設置型授乳室に」。開発段階で自治体子育て部署等から必要な情報を受け、モニター調査も経て完成したと聞いていることや、2019年には「ひろしまグッドデザイン賞」を受賞したことを理由に挙げました。さらに、全国道の駅連絡会経由で女性駅長の会に意見をうかがい、それを参考に製作元にいくつかの改良も依頼されたそうです。
不安視された要因、ダンボールという材質についてのメリットは、「コスト面から一定量の寄贈が可能であり、道の駅の子育て応援施設整備のツールとして、より多くの道の駅に活用できること」「設置後でも移動が可能なため、災害発生時に設置される避難所の授乳室としても活用が可能なため」と説明。50%を達成するために、ダンボールであればコスト的に実現可能だったことが伺えます
今回の授乳室は、もともとは広島県健康福祉局子育て・少子化対策課と、株式会社板野紙工(いたのしこう)が、「必要に応じて平時から設置、あるいは備蓄しておき、有事には後回しになりがちな授乳スペースの確保ができる「防災用品」として開発」(板野紙工HPより)、さらに道の駅向けに改良されたものでした。
人々からさまざまな意見が寄せられ、より安心して利用できるように、約2カ月という短期間で、施錠可能な前扉がつけられ(施錠すると空室・在室が外からわかるよう表示)、高さを基本の2メートルから最大50センチ伸ばせるオプション部材が提供されました。ただし、要望があった天井の設置は、消防法の規定などから見送られています。
また、広報資料では、すでに設置された「寄贈済の7駅においても対応可能」と表記され、具体的には「準備が整い次第、施錠付扉とスライド式ロックバーの部材を出荷する」とのことでした。
今回の件については、「いただいた貴重なご意見を真摯に承り、道の駅や全国道の駅連絡会、製作メーカーと連携して検討し、いくつかの製品改良や運用面の工夫を実施したところ。今後とも可能なものについては対応してまいりたい」と道建協はコメント。今後も、利用者側のリアルな意見が、どのように進化を遂げるかを左右しそうです。
道建協は、9月の時点で、寄贈先を事前に調査し、衛生面、防犯面から問題の無い場所への設置をお願いされていたとのことですが、改めて「従業員の目につく場所など設置場所を工夫して防犯性や安全性の強化、定期清掃や消毒などで衛生的な環境を保つ」方針を道の駅と共有しているとのことです。
最も早く改良されたダンボール授乳室を提供されたのが、道の駅「摩周温泉」です。運営する北海道の「弟子屈町(てしかがちょう)観光商工課」にたずねました。
当初の寄贈予定は10月上旬でしたが11月9日に。約1カ月の延期の理由は、先述の通りダンボール授乳室の改良待ちでした。ダンボール授乳室は、休憩スペースとして利用している小上がりに設置されましたが、現在は閑散期であり、1カ月以上たった今も利用されていないとのこと(12月中旬の取材時点)。
休憩スペースは今後、キッズスペースとして整備する予定で、「授乳室内は町内で活動している子育てサークル『てしファミ』『発達っ子ママの会』の皆様よりどのような機能を持たせたらよいか意見をいただきながら工夫をしていく。また、子育てサークルと連携し、ダンボール空間の改善のため、子供たちに大きな画用紙で絵を描いてもらい貼り付けて装飾するイベントを定期的に開催することとなっています」と、居心地良い空間にするための活動を行う予定だそうです。
◇ ◇
寄贈先の地域で子育て中の人の意見を参考に運用されることを例に考えると、改良されたダンボール授乳室は、現地の人々の手間やアイデアが引き続き必要だと言えそうです。
また、ダンボールの原材料はあくまで”紙”。災害による避難時に一時的に使用するのはともかくとして、一定期間での入れ替えが必要になるのではないのかも気になるところ。道建協によると、「製作メーカーからは、普通の段ボールより厚みのある強化段ボールを用い、天井部分に梁を渡して強度を高めたもので、『常設にも耐える安心、安全な授乳室』と聞いている。製品の特性上、水が掛からない屋内への設置を想定している」とのことです。
ただ、一般的に施設には定期的な改装が必要であることを考えると、安心して子育てできるように、長期的な展望を願うばかりです。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)