「テイクアウト需要の増加」が後押ししたこともあってか、空前の唐揚げブームが起こっていた。雨後の筍のように次々と新しい店がオープンし、今では街の風景の一部としてすっかり市民権を得た印象だ。そもそもブームが訪れる前から、お弁当の具材や居酒屋の定番メニューとして不動の地位を築いており、愛好家は星の数ほどいるだろう。それにしても、世の中は広い。この日本には、3000種類以上の唐揚げを食べている人物が存在する。その名も、タレント兼唐揚げ研究家の有野いく氏だ。
唐揚げに対する異常な愛情のルーツや日々の食生活、加えておすすめの店について聞いてみた。
◆今年に入ってから1日も欠かしていない
――唐揚げが好きになったきっかけはなんですか?
有野いく(以下、有野):高校生の時にバイトをしていたお弁当屋さんの唐揚げが、本当に美味しくて……。唐揚げ弁当を毎日食べていました。
――「普通に好き」くらいの熱量では、恐らく専門家にはならないですよね。さらにギアが入った出来事はありますか?
有野:15年くらい前に横浜で『唐揚げカーニバル』というイベントが開催されていたんですよ。そこで食べた大分県中津市の唐揚げが感動するほど美味しくて思わず“トリ”こになりましたね! それから、色々なお店の唐揚げを食べたくなって、全国を「唐揚げ巡り」するようになりました。
――そこから、どのくらいの唐揚げを食べてこられたんですか?
有野:約3,500種類食べています。今もほぼ毎日食べていて、今年に入ってからは唐揚げを1日も欠かしたことがありません。いろんな唐揚げを食べてみたいので、時間と人生が足りない!と思っています(笑)。
――一度に食べた唐揚げの最大量はどのくらいですか?
有野:私は大食いではないんですが、聖地の中津市に行った時には、1日で唐揚げだけで1kg食べたこともありました。
◆唐揚げ以外の食事で調整を図る日々
――揚げ物は毎日食べると体に悪かったり、太ったりとネガティブなイメージもありますが、有野さんは健康的に見えます。
有野:大前提として「無理をしない」と決めています。そして、栄養バランスを考えて唐揚げを食べるとき以外の食事は、魚や野菜が中心。うまく調整しています。
――唐揚げ以外の食事も唐揚げのためにあるんですね。ご結婚されているとのことで、ご主人も“唐揚げ食”に合わせてくれているんですか?
有野:食事の時間が割とバラバラなので、いい感じで平和に過ごせています。でも、私につられて唐揚げを食べるようになってから太ってしまったような……(笑)。
◆マニアがおすすめする唐揚げ店は…
――新規出店の勢いがすごかった唐揚げ店も、現在は減りつつあります。ネット上では「唐揚げはオワコン」「唐揚げブーム終焉」という声も。
有野:確かに、閉店するお店が相次いでいます。コロナ禍の巣篭もり需要によって急激に増えた唐揚げ店が元の状態に戻ったともいえますね。また、鶏のエサや油などの価格高騰も閉店ラッシュに関係していると感じます。
――では、あえて「今食べるべき唐揚げ店」を教えてください。まずは、定番店からお願いします。
有野:都内にもお店があってオススメなのが『中津からあげ専門店 吉吾』ですね。江戸時代から続く醸造元の醤油を使っていることもあり、味わい深いんです。また、部位ごとに一番美味しくなる形にカットするというこだわりも光ります。
――醤油味の唐揚げ好きにはたまらなそうですね。

王道ながら塩唐揚げであるところが特徴。それに、九州産の鶏肉を使っているんですが、朝びきの鶏肉を仕入れて、必ずその日のうちに仕込むことで、新鮮な美味しさのある唐揚げになっています。
◆高温の油に手を突っ込む店、冷やして食べる店…
――では、個性派のお店をご紹介いただけますか?
有野:鳥取県にある『昇龍軒』です。「揚げたての唐揚げを食べて欲しい!」という強い思いがあるそうで、200度近い高温の油であげてるんですが、そこに素手を突っ込んで唐揚げを取り出します。
――え!? 大火傷するレベルですよね?
有野:びっくりして、“トリ”乱しますよ!成型したような切り方ではなく、切ったそのままの状態を衣につけてあげているので形も独特。
――他に個性派店はありますか?
有野:福岡の『努努鶏(ゆめゆめどり)』です。唐揚げといえば熱々というイメージですが、こちらの唐揚げは冷やして食べます。冷凍庫に保管していて、取り出して冷たいまま食べるんですよ! うっ“トリ”する美味しさで、私もよく食べています!
――「ザンギ」として唐揚げ文化のある北海道でオススメはありますか?
有野:札幌市に本店がある『中国料理 布袋』です。ここのザンギはとにかくサイズが大きいのと、油淋鶏にかかっているような甘辛のタレが絶品です!
小樽の『なると屋』もオススメです。半身揚げなので大きさもすごいですし、薄衣で低温調理しているので、皮のパリッと感と鶏肉のプリンプリンの食感はすごいですよ!
◆唐揚げがラーメンや寿司と同列で語られるのが夢
――好きが高じて唐揚げをプロデュースしたそうですね。
有野:はい、11月29日(イイニクの日)に発売した「揚乃屋(あげのや) あげ丸」という商品です。
――こだわったポイントはどんな部分ですか?
有野:電子レンジ調理専用の冷凍唐揚げで、一口サイズが特徴です。本格的な国産鶏肉の唐揚げ『揚乃屋あげ丸』は、唐揚げを頻繁に食べない人にこそパクッと食べてほしいです! 最近の唐揚げのトレンドは大きなサイズですが、気軽に食べていただけるよう、一口大にしています。
――冷凍のレンジ調理だと、皮のパリッと感がないものが多いですよね。
有野:そこは苦労しましたね。衣に使う小麦粉や片栗粉、それに馬鈴薯からできている粉のブレンドを、電子レンジでもサクサクになるようにこだわったんです!よろしくお願い申し“アゲ”ます!
――さらに未来の野望を聞かせてください。
有野:日本の唐揚げを世界に広めたいです。唐揚げの知名度はラーメンやお寿司に比べるとまだまだですから。アメリカのフライドチキン、台湾の鶏排(ジーパイ)、中国の油淋鶏など世界各国で愛されている揚げ料理のように、唐揚げも日本代表として羽ばたいてほしい!
――ありがとうございました。
有野:ありがとうございました!“シーユー揚げイン”!
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ひとくちに唐揚げと言っても、地域によって、または提供する店ごとによってそれぞれ個性が異なるということを改めて実感した次第だ。さて、取材を通じてすっかり“洗脳”されてしまった筆者。しばらくの間、晩酌のお供に唐揚げを選ぶ生活が続くのであった。
<取材・文/Mr.tsubaking>