「あの子の多動的な特性は施設も十分分かっていたはず。防げた事故だった」。
大阪府吹田市の放課後デイサービス「アルプスの森」に通い、送迎中に行方不明となった末に亡くなった中学1年の清水悠生(はるき)さん=当時(13)=の母、亜佳里(あかり)さん(42)は、産経新聞の取材にこう訴えた。
亜佳里さんによると、悠生さんは3歳で自閉症と診断され、小学1年の頃から施設を利用。じっとするのが苦手で、中学生になると施設の送迎車を乗り降りする際、急に走り出すことがあった。
「自分が行きたいと思ったら、危なくても体が動いてしまう」一方で、身長は約170センチに。体力も増し、全力で走る息子を大人1人で制止するのは難しい状況だった。
亜佳里さんや夫の悠路(ゆうじ)さん(47)は、施設側に悠生さんの特性を細かく伝えてきた。施設が半年に1度作成する支援計画書には、必ず「送迎車の乗り降りでは職員2人が付き添い施設内まで送る」という記載を盛り込んでいた。
しかし昨年12月、息子は送迎車を飛び出して消息を絶ち、1週間後に冷たい川に裸で浮かんでいた。「ちゃんとやってくれていると(施設を)信じていたのに…」と亜佳里さんは肩を落とす。
大阪府吹田市の調査で、事故以前にも複数回、職員が悠生さんを1人で送迎していたことが判明。事故後に施設がまとめた報告書には、まるで息子の多動性が原因だったかのような記載もあったという。
幼い頃は泣いたり暴れたりして感情を表現していた息子は事故当時、カードを差し出して気持ちを伝えてくれることが増えていた。悠路さんが写真を貼って手作りしたカードは数百種類。特に息子はプールやリンゴのカードが好きで、しわができるほど触っていた。
息子の成長は、他の子に比べてゆっくりかもしれないが、何よりも楽しみにしていた。「やっと意思疎通が図れるようになり、いろんな経験ができる」と期待した将来は、事故で無残にもかき消されてしまった。
両親にとっては、施設代表らによる別の利用者への暴行事件がショックに追い打ちをかけた。施設に6年間通っていた息子も「暴力を受けていたのかもしれないが、気付けなかった」と自責の念に駆られる。
今月9日、悠生さんの一周忌法要が営まれた。「また一緒に過ごせたら、どれだけいいだろう」「今は天国で楽しく過ごせているよね」。両親は遺影に何度もこう呼び掛けた。
今願うのは、施設側の安全に対する意識の向上だ。
「障害のある子供たちのケアは、少しでも怠れば命を落とすことがある。支援に携わる人たちはどうか分かってほしい」(中井芳野)