神奈川県逗子市で2020年2月、市道脇のマンション敷地の斜面が崩れ、女子高校生(当時18歳)が土砂に巻き込まれて死亡した事故で、遺族がマンション管理会社に損害賠償を求めた訴訟の判決が、15日に横浜地裁で言い渡される。
父親(57)が取材に応じ、「生きていれば夢が広がっていた。(判決は)一つの区切りだが、無念は一生続く」と癒えない悲しみを語った。(横浜支局 石塚柚奈)
事故は20年2月5日朝に起きた。逗子市池子のマンション敷地内の斜面が崩落し、約70トンの土砂が約15メートル下の市道に流出。友人と出かけるため、駅に向かう途中だった女子高校生が下敷きになった。
あの日、父親はいつも通り、長女より先に家を出て仕事へ向かった。同僚からの連絡で事故を知り、病院へ駆け付けると、長女は霊安室にいた。頬にはまだぬくもりがあった。
面倒見がよかった長女には、「先生の道に進んではどうか」と話していた。進学先の大学も決まり、長女はアルバイト代をためて妹をディズニーランドに連れて行こうと計画していた。
事故から4年近くがたっても気持ちの整理はつかず、長女の部屋はそのままにしてある。今夏、長女が持っていた漫画の中から1枚のメモを見つけた。「妹の面倒をよく見ること」。父親が中学生の頃に伝えた言葉を長女が書き留めていたものだ。ずっと持っていて、それを守ってくれていたことがうれしかった。
斜面の亀裂に気づいたマンションの管理人から報告を受けていた管理会社は、崩落の危険を予測できたのに対策を怠ったなどとして、遺族は21年2月、約1億2000万円の損害賠償を求めて提訴した。管理会社はこれまでの裁判で、「斜面は管理業務の対象外だ」などと主張している。
父親は「責任感を持って行動してくれていれば、犠牲になることはなかった。同じような事故が起きないよう、長女の死を無駄にはしたくない」と語る。
■「風化」が主因…調査の国交省研究所
現場を調査した国土交通省国土技術政策総合研究所(茨城県つくば市)によると、斜面の崩落は降雨ではなく、乾湿や低温、季節風などによる「風化が主因」と判断された。
事故を巡っては、遺族はマンションの区分所有者や管理組合も訴えていたが、今年6月、1億円の支払いで和解が成立した。危険性を把握できなかった過失責任があるとして、県を訴えた訴訟は係争中だ。
県警は6月、事故当時にこのマンションを担当していた管理会社の男性社員を、業務上過失致死の疑いで書類送検した。