万年人手不足な印象がある飲食業界。限られた人員でシフトを回すとなれば、一人当たりのタスクも自ずと増えていく。そうなると、通常時には考えられないミスが発生してしまうかもしれないわけだ。客の立場としてはなるべく遭遇したくないが、こればかりは宝くじのようなもので、誰しもに当たってしまう可能性がある。 神奈川県在住の吉田源さん(仮名・35歳)は、外食した際にせっかくの家族団らんが台無しになった経験をしている。
◆「月に一度のファミレス」が楽しみだった
吉田さんの楽しみは、月に一度家族でファミレスに行くこと。1歳と2歳の子どもがいるため、外食は子連れ客への配慮が行き届いたファミレスと決めていたそうだ。
「普段はかなり節約した生活をしており、育児で大変な妻への労いを兼ねての外食ですね。たまの贅沢と言っては大袈裟ですが、毎月待ち遠しく思う予定のひとつでした」
メニュー選びで夫婦が譲れないのは、サラダをセットで付けること。外食で不足しがちな野菜は外せないというのが夫婦共通の認識だそう。しかし、その決められたルーティンが思わぬ事態を招いてしまう。
◆サラダのなかにうごめく物体が…
いつものように、サラダを一口食べた妻が「ぎゃっ!」と叫んだ。
「妻のサラダのブロッコリーに小さい虫が動いているのが見えて……。慌てて自分のサラダを確認すると同じくブロッコリーに大量の虫が付いていました。しゃくとり虫を小さくしたような、豆粒ほどの薄緑の虫でしたね……」
全身に鳥肌が立ちながら、吉田さんは店員を呼びサラダの件を伝えた。若い女性店員は平謝りしながら、2人のサラダを回収したそうだ。
その数分後、店の奥から出てきたのはスーツ姿の店長だった。50代くらいの男性で、額には汗が滲み手先が少し震えていたという。
◆食後にパフェ、お会計はタダ
そして吉田さん夫婦に向かって、「この度は、大変申し訳ありませんでした。きちんと野菜の洗浄ができておりませんでした。次回からはしっかり洗浄したサラダをお届けいたします」と言って深々とお辞儀をした。
「私も昔、アルバイトで飲食店で働いたことがあるんですよ。当時よくしてもらった店長と彼が重なって見えて……。あんなに申し訳なさそうに頭を下げられたら、怒る気力もなくなるものなんですね。ただ、最後に店長が『万が一、お口に入ったとしても害がある虫ではないので、その点だけは…』と話したことは引っかかったかな。実際に口に入った可能性がありますから」
食事を終えた後は、頼んでもいないパフェが4人分出された。店側の配慮ではあるが、子どもたちには、まだ生クリームを食べさせていなかったそうで、夫婦で舌鼓を打つことになった。
「4人分のパフェを夫婦で食べながら、笑い合っていました。もう、虫入りサラダを食べた事実は変わらないのでね。妻は『虫入りを食べたから久しぶりにパフェを食べられた』と、明るく話していました」
レジでは「本日のお会計は不要です。今回のことは内密にお願いします」と店長に念を押されたという。
「一食分の食費が浮いたとはいえ、あれ以来そのファミレスには行かなくなりましたね……。安くて美味しかったからお気に入りの店だったんですけど、好きだったブロッコリーが食べられなくなってしまったので……」
安価でくつろげる飲食店の存在はありがたいが、異物が混入していては元も子もない。「数千円で口封じした」当の店も現在ではしっかりとした衛生環境が整った体制になっていると信じたいものだ。
<取材・文/maki>