寝ているうちに刺されて血を吸われ、かゆくなるケースが増えているという。犯人はトコジラミで、訪日外国人の増加で持ち込まれている可能性が指摘されている。身近に潜むこの虫に対し、どのような注意をすればいいのだろうか。
「トコジラミの相談が増えています」と注意を促すのは、公益財団法人の日本ペストコントロール協会。協会担当者は「カメムシの一種で、人が寝ているうちに刺し、人が動いていると離れていきます」と話す。明るいところは嫌うともいう。
戦中・戦後のころは「南京虫」と呼ばれ、殺虫剤のDDTを人の頭からかけて駆除していた時代もあった。その後は衛生環境が良くなり、国内にはほとんどいなくなっていた。ところが、’20年前後に米国で流行り、日本にも入ってきたという。協会担当者はこう話す。
「最初はホテルで流行りました。訪日客が持ち込んだとみられ、宿泊客や従業員に広まりました」
害虫駆除を手がける大洋防疫研究所(大阪府八尾市)の向井秀彦代表は、トコジラミ駆除の相談が増えているといい、「昔は年間2件くらいでしたが、いまは多いと月100件くらいの相談があります」と話す。大阪と東京が多く、次が神奈川県で、都市部の一般の人からの相談だという。
海外ではフランスや韓国などでトコジラミが発生して、社会問題化していると報道されている。日本も訪日外国人が増えて、人やカバンなどに付着して持ち込まれている可能性がある。対策は目で見て確かめるしかないが、どのようなことに注意すればいいのかについては、トコジラミの生態を理解しておく必要がある。
トコジラミは数ミリくらいの大きさで、協会担当者によると、人などの血を吸ってエサにしている。ただ、何ヵ月も血を吸わなくても生きていけるとも。卵を生涯に300個ぐらい生み、毎日2~5個くらい生んでいく。人のそばに潜んで、巣をつくることもあり、荷物などに紛れることもあり得る。
最近のトコジラミはピレスロイド系の殺虫剤に耐性ができて効かなくなり、「スーパートコジラミ」と呼ばれることがある。有機リン系などの殺虫剤はまだ効くため、駆除の現場で使われているという。
協会担当者は、トコジラミに刺されて血を吸われたことがあるという。「かゆいだけですが、長く続きます。刺されて1、2日くらいおいて、かゆくなり、1週間くらい続きました」と話す。
たとえば、旅行で3軒くらいのホテルに泊まって帰ってくると、自宅に戻ったくらいのタイミングでトコジラミに刺された被害に気づくことがあり、どこのホテルで刺されたのか、あるいはホテル以外のどこで刺されたのか、わからなくなるという。
まず気を付けたいのが、旅先で泊まるホテルなどの宿泊施設という。宿泊施設の側でも、清掃などで十分な対策をとっているとみられるが、人手不足などで念入りな対策ができず、見落とされることがあるかもしれない。大洋防疫研究所の向井さんは、宿泊施設に入った際にこうアドバイスをする。
「まずは荷物を玄関か風呂場に置くなどして、部屋に生息していないか、確認してください。ベッド周りにいることが多いですが、カーテンや、床と壁のすき間、畳のすき間なども見てください」
宿泊先でトコジラミの生息を確認した場合は、別の部屋か、別の宿泊施設に移ることを、向井さんは勧める。
協会担当者も宿泊施設のベッド周りのほか、カーテンやそのドレープ(垂れ下がってできたひだ)、さらには壁紙がめくれているようなところにも潜んでいる可能性があると注意を促す。特にベッド周りに、ごみ粒大くらいのフンがないかチェックしてほしいという。
さらに協会担当者は、宿泊施設の部屋に入ったらバッグ、脱いだ服や靴を床に置かず、ビニール袋などに入れるのもいいとアドバイスする。バッグの縫い目などに入り込んでくることがあるほか、スニーカーのひもの部分にも潜んでくることがあるとも。トコジラミは「人の血の匂いをもっとも好むほか、汗のにおいや、人が吐く二酸化炭素に誘引される」と話す。
一方、電車や飲食店のソファーなどに潜んでいる可能性はないのだろうか。過剰な心配をする必要もないが、座面と背もたれの間など、気になるようなら見て確かめればいい。電車で気になる人は、短時間なら座らないのも対策のひとつだ。満員電車などで、洋服やカバンが触れ合うのが気になるようなら、そうした電車を避けるしかない。協会担当者は「日中、動いている人は刺さない」という。
家庭などで見つけたら、どうすればいいのか。協会担当者は
「初期なら対処法でなんとかできますが、大量に発生していると個人での対応は難しい」
とみている。対処法としては、粘着テープや掃除機で駆除するほか、熱や乾燥に弱いという。
大洋防疫研究所の向井さんは、見つけたら専門家に駆除を相談してほしいと話す。経験の少ない業者もいるため、実績のある業者なのか事前に調べてみるほか、
「相談するときにいろいろと話してみて、話のつじつまが合っているかなどを確認してほしい」
という。過剰な心配の必要はなさそうで、協会担当者は
「いまのところ、世界的に感染症を媒介したという報告はありません」
と話す。
取材・文:浅井秀樹