◆「弱者を救わない理由がわかった」話題のツイート X(旧ツイッター)上で、元プロゲーマーのたぬかな氏が主催していた「弱者男性合コン」に関するツイートが話題だ。
ことの経緯は以下のとおりだ。合コン参加者の発達障害者のシングルマザーが、合コン後に2回デートしただけの参加男性を束縛するツイートを繰り返しトラブルとなった。女性は、男性と付き合っていたわけではないのだが、別の参加女性に対して「寝取った(実際に肉体関係はなかったようだが)」「(相手の女性が)レイプされることを願う」など、常軌を逸した発言もあった。後に謝罪をしているが、相手の男性を自分の財布を盗んだのではないかと疑うなどし、それらの投稿は大炎上する。
合コンで出会った男性とうまくいかなかったことを運営側のせいにしたことで、たぬかな氏も「まさか合コン後の男女のもつれのアフターケアまでやらされるとは 合コンで出会ってデートに行った人を証拠もないのに盗人扱いしたり、参加者の悪口をツイートしたりするから嫌がらせされてるんですよね?ちょっと都合良すぎませんか?」とリプライ(原文ママ、ツイート部、以下同)。
冒頭のツイートは、女性がたぬかな氏を「たぬかなさんに嘘言いふらされた」と逆恨みしたことで生じたトラブルに関するもので、リプライ上には「ほんとにヤバいやつは助けようとしても難癖つけてキレてくるから人が離れていって1人寂しく弱者になる」「マイノリティと安易な気持ちで関わると火傷します」など、賛否の声が溢れているが、おおむね、たぬかな氏に同情的だ。
◆弱者男性合コン=モテない男性を集めた合コンではなかった
さらに続けて、たぬかな氏は以下のツイートをしている。
「いやほんと認めますわ、私の弱者への解像度は低かった私がやりたかったのはモテない健常者の合コンだったわ。世の中ほんまごめーん!」
「弱者男性合コン」を単に「モテない男性」を集めた合コンだと思っていた筆者は、改めて、たぬかな氏のこのツイートで過去の動画を見たのだが、障害者手帳を持っている男女だらけであることに衝撃を受けた。このツイートは参加者の発達障害者女性に対し発したものだが、中高年発達障害当事者の会「みどる」を主宰し、延べ1,500人の発達障害者の相談に乗ってきたM氏はどのように感じたか聞いてみた。
◆「弱者男性合コン」でたぬかな氏がツイートした内容は当事者会あるある
「弱者合コン自体は、妻がハマっていたので知っていました。いわゆる“めんどうくさい人”“困難事例”といわれる人たちに、個人がボランティアやイベントで対応するにはムリがあります。斜め上の結果でしたが、発達障害の当事者会を主催している人は同じような経験があるはずです」
M氏は「弱者男性」や「弱者女性」を「心が折れているかどうか」で定義している。発達障害当事者で本も執筆している借金玉氏の造語で、発達障害特性が薄い順に並べた「バリ層・ギリ層・ムリ層」という言葉があるが、いわゆる“ムリ層”も同じように考えているという。
取材していると「みどる」に限らず、発達障害当事者会の主催者は主に「ギリ層」をターゲットにしていることが多い。若い当事者会主催者は、昔ながらの「コミュ障」で対人関係でトラブルを起こすような「ムリ層」と呼ばれる人たちを受け入れないように、会場をカフェやバーにするといった形で、避けているケースも多い。

◆“男らしさ”の呪縛で助けを求められない男性たち
では、当事者会でも排除されがちな「弱者男性」「弱者女性」や「ムリ層」と呼ばれる人たちは、いったいどこで支援を受けられるのだろうか。
「そういった人たちは、支援の受け方が下手なので、差し伸べられた手を振り払ってしまう。特に男性はなかなか“男性らしさ”の問題もあり、女性のように助けを求めることをしません。役所で耳にした話ですが、女性が生活保護なり障害者支援制度の申請に来る時は、男性と一緒にくるそうです。社会的に女性が男性を頼ることのハードルは低い。だけど、男性は“らしさ”に縛られるので、役所の窓口にも1人で来るか、職業的な支援者とくるケースが多いそうです。当事者会からも漏れてしまう層への公的支援が必要だと思っています」
ジェンダー問題から助けを求められない男性は多い。そして、そうした人たちを受け入れる医療・福祉体制は充分ではない。M氏自身も、自分が悩んでいた時期、男友だちにはプライドがあって打ち明けられなかったという。
「バリ層・ギリ層といわれる人たちも、いつ“弱者男性・女性”や“ムリ層”に転落してもおかしくないです。ギリギリ、社会で頑張っていたけれど、二次障害(ムリしたことでうつや適応障害など別の障害・疾患を発症すること)になってしまうケースもあります。心が折れてしまうことには、障害の重さや軽さ、収入や社会的地位は無関係です。ですので、僕は、そうなる前に当事者会で同じような境遇にいる人に相談して欲しいと思います」
◆「にも包括」と地域包括ケアシステム
賛否の声があるが、厚生労働省は「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を実現」することを目指している。「地域包括ケアシステム」とは、簡単に書くと「今まで国が病院や老人ホームで世話をしてきた高齢者や障害者を自治体で受け入れて共生してください」という仕組みのことだ。
厚生労働省はさらに「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」も打ち出しており、俗に「にも包括」と呼ばれる。精神障害者や発達障害者も当然、高齢化していく。取って付けたような「精神障害にも」という言葉への反発からこの言葉ができた。
「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」では、M氏が運営しているような当事者会にも「ピアサポーター」としての役割が求められている。M氏は文部科学省や厚生労働省に、成人の当事者に対する支援の強化を訴える組織が必要だと考えている。
「子どもに対する支援は予算面でも充実しています。それは、自分の子どもたちに対して支援をして欲しい親たちの団体がまとまってロビー活動をしているからです。ですが、成人の発達障害者は当事者会を開いたり、いわゆる居場所作りをしたりするだけで、政治的なことにまで興味がありません。行政は成人の当事者のニーズにもっと耳を傾けるべきだと思います」
2025年を目途にした地域包括ケアシステムだが、2023年12月現在、対応できない自治体が悲鳴をあげているのが現状だ。人はいつ事故や病気で障害者になってもおかしくない。発達障害者支援の不十分な現状は決して他人事ではない。
<取材・文/田口ゆう>