「まさか、こんなことになるなんて……」──声を落としそう話すのは茨城県大子町小生瀬の観光果樹園「豊田りんご園」の園長を務める豊田拓未さんだ。茨城県は11月29日、同園において試食用のリンゴを食べた客12名が体調不調となり、腸管出血性大腸菌(O157)による集団食中毒が起きたと発表した。現在、客のうち6歳男児と70歳代の女性が重症で集中治療室(ICU)に入院しており、ほかの10人は軽症だという。
【写真】食中毒の原因となった試食用リンゴに使われた「業務用カッター」ほか、りんご園内の様子など地元では屈指のリンゴ園 園で長年働く女性従業員は語る。「うちの農園は広さが7ヘクタールで大子町では一番、北関東でも最大級のりんご園です。『サンフジ』『名月』をはじめ、幻のリンゴとも言われている『高徳』を含む約90種のリンゴを栽培してします。年間のお客さんでいうと2万人ではくだらないと思います」 現在、園長を務める豊田拓未さんは3代目で、2016年に祖父の代から70年以上続くこのりんご園を継いだという。「拓未くんは都内の大学で観光経営学を学んで、卒業後に大子に戻ってきました。新しく『未来工房』という加工部門を作って、農園で働く人材の確保から新品種の管理まで頑張ってきたんです。いろいろな面でこの園の大黒柱ですよ」(同前)「3連休で1日に1000人以上お客さんが…」 食中毒が起きたのは11月5日のこと。試食用のリンゴは園で収穫されたもので、リンゴ狩りに来ていた47人が食べたという。リンゴはあらかじめ従業員がカットしたものが、紙コップに入った状態だった。 いったい当日、なにが起きたのか。NEWSポストセブンは同園で関係者らに話を聞いた。豊田拓未さんの母親は試食用のリンゴを切っているという業務用のカッターを見せながら事の顛末を説明した。「11月3日から5日は連休でお客さんが多かった。特に3日と5日がすごくて、もう駐車場に車が入りきらないくらい。1日の来客数は1000人を超えるくらいかな。 試食用に提供したのは『サンふじ』と『名月』です。食べ比べできるよう、それぞれ一切れずつ紙コップに入れました。リンゴの栽培は寒暖差が品質に大きく影響するんですが、今年は猛暑の影響でいつもより出来が悪いですね。収穫したリンゴのうち半分くらい捨てることもありました」 管轄の保健所から食中毒の報告があったのは10日後の11月15日。これを受けて翌16日から豊田りんご園」は試食用リンゴの提供を中止したが、それまでの間に食中毒は起きていないという。豊田さんの母親が続ける。「リンゴはこの業務用のカッターで切るのですが、見ての通り鋭くて危ないですから手で触るようなこともない。また営業が終わったら、使用済みのカッターは次の日の朝まで消毒液に漬けておくように徹底しています。 保健所は『当日の12時から14時の間に集団食中毒があった』と判断しているそうですが、朝からずっとこの同じカッターを使っているのでこれが菌の原因だとしたらもっとたくさんの人が(食中毒に)なってしまっているんじゃないかとも思います。『トイレを使った人や名前はわかりますか』とも聞かれましたが、そこまでわかるはずもなく……、いまは原因がわかるまで待つしかないです。 いまは保健所から体調不良になった方々のリストをいただいて、お詫びの電話をしました。起こってしまったことは変えられないですが、本当にもう回復を祈るばかりです」(同前) 園長である豊田拓未さんに話を聞くと、ひどく落ち込んだ表情を見せながらもこのように心境を語った。「ショックというか、とても困惑しています……。まさかこんなことになるなんて。長いことやってきて食中毒なんて一度もなかった。どうしてだろうという思いです。寒いところまですみません」 そう短く話し終えると、作業場の方へとぼとぼと歩いていった。 長い歴史ある「豊田りんご園」で発生した食中毒。早急な原因究明と被害者の回復を願うばかりだ。
園で長年働く女性従業員は語る。
「うちの農園は広さが7ヘクタールで大子町では一番、北関東でも最大級のりんご園です。『サンフジ』『名月』をはじめ、幻のリンゴとも言われている『高徳』を含む約90種のリンゴを栽培してします。年間のお客さんでいうと2万人ではくだらないと思います」
現在、園長を務める豊田拓未さんは3代目で、2016年に祖父の代から70年以上続くこのりんご園を継いだという。
「拓未くんは都内の大学で観光経営学を学んで、卒業後に大子に戻ってきました。新しく『未来工房』という加工部門を作って、農園で働く人材の確保から新品種の管理まで頑張ってきたんです。いろいろな面でこの園の大黒柱ですよ」(同前)
食中毒が起きたのは11月5日のこと。試食用のリンゴは園で収穫されたもので、リンゴ狩りに来ていた47人が食べたという。リンゴはあらかじめ従業員がカットしたものが、紙コップに入った状態だった。
いったい当日、なにが起きたのか。NEWSポストセブンは同園で関係者らに話を聞いた。豊田拓未さんの母親は試食用のリンゴを切っているという業務用のカッターを見せながら事の顛末を説明した。
「11月3日から5日は連休でお客さんが多かった。特に3日と5日がすごくて、もう駐車場に車が入りきらないくらい。1日の来客数は1000人を超えるくらいかな。
試食用に提供したのは『サンふじ』と『名月』です。食べ比べできるよう、それぞれ一切れずつ紙コップに入れました。リンゴの栽培は寒暖差が品質に大きく影響するんですが、今年は猛暑の影響でいつもより出来が悪いですね。収穫したリンゴのうち半分くらい捨てることもありました」
管轄の保健所から食中毒の報告があったのは10日後の11月15日。これを受けて翌16日から豊田りんご園」は試食用リンゴの提供を中止したが、それまでの間に食中毒は起きていないという。豊田さんの母親が続ける。
「リンゴはこの業務用のカッターで切るのですが、見ての通り鋭くて危ないですから手で触るようなこともない。また営業が終わったら、使用済みのカッターは次の日の朝まで消毒液に漬けておくように徹底しています。
保健所は『当日の12時から14時の間に集団食中毒があった』と判断しているそうですが、朝からずっとこの同じカッターを使っているのでこれが菌の原因だとしたらもっとたくさんの人が(食中毒に)なってしまっているんじゃないかとも思います。
『トイレを使った人や名前はわかりますか』とも聞かれましたが、そこまでわかるはずもなく……、いまは原因がわかるまで待つしかないです。 いまは保健所から体調不良になった方々のリストをいただいて、お詫びの電話をしました。起こってしまったことは変えられないですが、本当にもう回復を祈るばかりです」(同前)
園長である豊田拓未さんに話を聞くと、ひどく落ち込んだ表情を見せながらもこのように心境を語った。
「ショックというか、とても困惑しています……。まさかこんなことになるなんて。長いことやってきて食中毒なんて一度もなかった。どうしてだろうという思いです。寒いところまですみません」
そう短く話し終えると、作業場の方へとぼとぼと歩いていった。
長い歴史ある「豊田りんご園」で発生した食中毒。早急な原因究明と被害者の回復を願うばかりだ。