超高齢社会において深刻化しているのが、老害の存在だ。今やあらゆる場所に生息。組織を蝕み、現役世代の成長を妨害している。そんなシルバーモンスターと対峙するにはどうすべきか。加速する超老害社会の真実を明らかにする!◆会社、家庭、学校、飲み屋にも……急増する[老害被害報告]
駅構内などに出没する若い女性を標的にした「ぶつかりオジサン」がたびたび話題になるが、役所や企業に繰り返し理不尽なクレームを入れたり、バスの中で赤ちゃん連れの若いママさんを“口撃”するなど「シルバーモンスター」による被害は枚挙にいとまがない。
そんな高齢者を揶揄する際に用いられる「老害」の特徴は、他人の話に耳を傾けず、たとえ間違っていても自分の意思を曲げず、若い世代の足を引っ張る点にある。
今回、集まった“被害報告”は実にさまざまなシーンに及ぶが、なかでも特に目に余るのが会社組織の中心で意思決定を担う50代幹部の老害だ。
◆口は出すけど責任取らず成長を失速させ業績悪化
職場老害は前述の「話を聞かない」に「仕事しない」「責任取らない」の特徴が加わり、“3ない”が完成する。
「私の上司は出世コースを外れたからかやる気がない。1日5~6時間寝ているか、スケジュール管理表に『外部MTG』と書いて消えますね。そのくせ仕事した感が欲しいのか、他人の書類は『ウチっぽくない』と何度も書き直させる。先日、その書類で取引先と揉めたとき『オレは知らん』と責任逃れ。絶句しました」(食品メーカー・30代男性)
◆口だけ出す年配幹部のせいで…
業績が低迷する多くの日本企業にとって、組織改革は急務と言えるが、年功序列で役職にしがみつく老害幹部は会社の成長を妨げてしまう。
「業界的に組織改革やDXは急務なのに、口だけ出す年配幹部のせいでスピード感が出ない。1年間、会議を繰り返してまとめたプロジェクトをちゃぶ台返しされたときは、本当に転職を考えましたね。先日『ウチの若手社員の退職率はなぜ高いのか』を聞かれたとき、『お前らのせいだよ』って言ってやればよかったです」(建設業・40代男性)
若者の人材流出など組織崩壊を招きかねない老害を放置しているとは、まだまだ余裕のある企業である。
◆定年後に父が陰謀論者に。小学校には70代から苦情
一方、深刻なのが家庭内老害だ。日常生活に直結しているため、精神的な逃げ場が少なく、ストレスも半端ない。
「義父が65歳定年を迎え、家にいるようになってから豹変。口悪く義母を罵り、無駄な買い物が増えた。『もっと節約したほうがいいんじゃない?』と優しくアドバイスしてもまったく話を聞いてくれません。最近は陰謀論にも傾倒し、ヘイト動画を孫に見せるので、勘弁してほしい」(40代女性)
親の老害化に頭を悩ませている人で、多いトラブルが介護と相続。親の頑固さに絶望し、関係を断つ人もいる。だが、老害両親から離れたとしても、今や老害の生息域に境界はない。
◆『うるさい!』と学校にクレームも…
取材を進めていくと、教育現場でも苦しめられている人がいるとわかった。
20代の小学校教諭はこう話す。
「昼休み、放課後に生徒が校庭で遊ぶたびに、『うるさい!』とクレームの電話を学校に入れてくる70代男性がいて頭を悩ませています。実は、ウチの学校では運動会に紅白に分かれて子供たちがソーラン節を披露するんですが、数年前から音ナシでやってます。そのクレーム老人のせいです」
子供たちの声=騒音なのか問題は常にあるが、共存の可能性を探る話し合いすら拒むのは老害ならではだ。
◆酒が入って「アベガー」「日本がダメになった」

「商店会の会長は『全部オレの許可をとれ』タイプの人。最初は親分肌なのかと思ったんですが、すぐに何も決断せずに、否定するだけの人間だとわかりました。地域振興策を提案したときも、時間ばかり食って地域振興券の売り出しが大幅にズレ込み、地域住民から『使用期限が短すぎる』とクレームが噴出。しかも、会長として謝罪しないし……」
商店会が古い団地内にあり、男性が経営するバーには老害客が入り浸っているという。
「ウチの若いお客さんにダル絡みするから厄介。先日も『お前ら、上司のケツの穴舐める毎日で楽しいか?オレたち世代は夢があって熱かった』『バカな若いやつが増えたから日本はダメになった』『オレはアベ政治を許さない』って熱弁し始めて……喧嘩になりかけて、仲裁が大変でした」
アルコールが入れば、老害はより攻撃的に。超高齢化社会の宿命とも言えるトラブルが相次ぐ状況を、名古屋大学大学院教授の川合伸幸氏は次のように解説する。
「第2次ベビーブーム世代の“キレる10代”が注目を浴びたように人口ピラミッドに占める比率が高い年齢層のトラブルが増えるのは当然。一概に老害と括れませんが、全体的に犯罪の検挙数が減少するなか、人口比で見ても70歳以上の検挙数だけが高止まりしていることも事実です」
高齢化社会のなか、暴走する老人からは逃れられない。
◆老害パターン分析
●うるさ系高圧的な態度を取ったり、何にでも首を突っ込む傾向あり。自分では指導やアドバイスのつもりだが、若者からは聞く価値のない説教と捉えられがち。年功序列社会の恩恵を受け、ある程度の役職を与えられてきたがゆえに、プライドが高く、一定の権力を有するので、「さすがです!」とおだてて気持ちよくさせて話を切り上げるのが吉
●セクハラ系ダジャレを絡ませて大声で下ネタを繰り出す程度はご愛嬌。レベルが上がると、平気で「マ◯コ」を連発することも。さらに悪化すると、社内の女性の肩や腰に手を回し……最終的にはセクハラ被害を訴えられて“飛ばされる”老害が多数。対策としては、とにかく近寄らないことに尽きる
●武勇伝系虚構の自分をつくり上げて陶酔しているのか、「暴走族のダチがいた」「気に入らない上司をぶん殴ったことがある」「大麻を吸ったことがある」「昨日はヤクザの知り合いと飲んだ」などと、何も生み出さないワル自慢をする。話が誇張されている可能性は高いが、真偽のほどを確かめる術はなし。実害はないので、適当にヨイショするのがベストか
●うんちく語り系インテリぶる層。ワイン、日本酒、料理、音楽、映画、落語、大江健三郎、NPO、坂本龍一、大平光代(弁護士)など幅広い分野でうんちくを披露する。高偏差値だが、空気は読めず、いつまでも話を終わらせない。「お詳しいですね」と持ち上げれば角は立たないが、より饒舌になってしまうので、物理的に距離を置くのがベストか
●アベガー系1970年安保を憧れの目で見ていた左巻きの世代が多いのか、原発や太陽光エネルギーの話も好み、安倍元首相が亡くなって1年以上過ぎているのに今も「安倍はやめろ」「安倍政治は許さない」と言い続けている層。盛り場では、政治と宗教と野球の話はタブーのため、力いっぱい語ると若い世代には老害に映るのは仕方ないと言えよう
●マナー系マナーや常識にうるさく、「これだから今の若者は」を口癖にするタイプ。正義感に駆られての言動のため、議論すると修復不能なほどこじれる傾向に。コロナ禍には「マスク警察」「他県ナンバー警察」として活動していた人も多い。SNSの炎上騒ぎも大好物で、意見が違うと不意にSNSを通じて長文のメッセージを送りつけてくることも
◆シルバーモンスター迷言集
・Excelの使い方がわからなくなるたび60代上司の呼び出し
・「オレらが今の日本をつくった」「アベが日本を壊した」
・男性上司が女性社員に毎晩のように「もう家に着いた?」とLINE……
・「昔なら殴ってたぞ?」と喧嘩自慢する
・バスで子供をあやしてたら「しつけもできないのか!」
【名古屋大学大学院 川合伸幸教授】日本認知科学会会長、中部大客員教授などを兼務する認知科学の専門家。『凶暴老人』(小学館)、『ヒトの本性』(講談社)など著書多数
取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/福本邦洋 モデル/前田文博※10月31日発売の週刊SPA!特集「進む[超老害社会]」より