「岸田首相と減税」のニュースを追うと、“異変”が見えてくるのです。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) まずその前におさらいします。首相は来年6月に1人あたり4万円の定額減税を行う考えを表明した。住民税非課税の低所得世帯向けには1世帯あたり7万円を給付することも明言。 時系列で言うと首相は10月20日に減税すると言いだした。この2日後に衆参の補欠選挙を控えていた。『補選2日前、首相表明』(日経新聞10月21日)
《補欠選挙は厳しい情勢が続く。投開票日の2日前に減税を表明する異例の事態となった。》 選挙目当てと見透かされていた。その補選は1勝1敗となり、翌日に岸田首相は所信表明演説をおこなった。ここで気になったのはその内容だ。自分で減税論議を始めたのに、所信表明では所得減税に言及しなかった。しかし翌日には「1人あたり4万円」「非課税世帯7万円」という具体的な数字が報道で飛び交った。 つまり、国会での説明がないまま話が進んだのである。なるべく国会で議論をしないように気を付けているのだろうか? ではそれらを踏まえて岸田首相に関する“異変”をいくつかお伝えしよう。まず「不支持率」である。JMPA岸田首相の「覚悟」とは 岸田政権は発足して2年になるが、当初の売りの一つは「不支持率が低い」ことだった。しかし最近の世論調査ではむしろ不支持率が高くなっている。新聞によっては6割を超え、安倍・菅政権の不支持率を超えている。 この反転は何を意味するのか。理由の一つに国会軽視や議論軽視があるのではないか。防衛増税や異次元の少子化対策の財源論議は先送りしたまま、それでいて減税と言い出す。 首相は所信表明演説の直前、周囲にこんな覚悟を語っていたという。「もう絶対にぶれない。どんなに批判されても、ぶれなければ何とかなる」(朝日新聞10月24日) やはり自覚はあったのだ。政権発足当初から「ブレることにブレない」首相だった。政策や決定を出して世論に不評だと、あとから“軌道修正”するというスタイルをとっていた。たとえばコロナウイルスの水際対策や18歳以下への10万円相当の給付などいろいろあった。 そして今回は『首相 突然「所得減税」』(毎日新聞10月21日)である。「増税メガネ」を気にしている? このアピールには《首相がネット上で「増税メガネ」とやゆされているのを気にしていることが背景にあるとされ、遠藤利明前総務会長が減税に走る首相に「少し過剰に反応している」と懸念を示すほどだった。》(毎日新聞10月27日) ポイントは、今年6月末に受け取った政府税制調査会(首相の諮問機関)の答申だった。答申は個人所得のうち非課税となっているものについて「注意深く検討する必要がある」と指摘し、現在は非課税となっている所得として通勤手当や失業給付、遺族年金などを列挙。これがネット等で「サラリーマン増税」と批判された。対して首相側は「レッテル貼りはアンフェアだ」と反発しているという記事もあった(毎日新聞8月2日)。 ただ、増税と言われる理由のひとつは防衛費増額や異次元の少子化対策の財源が不透明という理由もあるからだろう。議論が先送りされるなかで疑心暗鬼を生じた人が続出し、不支持率が高くなった理由も想像できるのだ。自民党内からのツッコミも さらに、岸田首相に対する“異変”の二つ目。それは自民党内からもツッコまれていることだ。「何をやりたいのかわからない」「迷走している」というコメントが各紙で確認できる。最も興味深かったのは「週刊文春」最新号(10月26日発売)での石破茂氏の発言である。首相の減税策について石破氏は次のように述べている。《ここ数年でお金持ちになった人がたくさんいて、収入が増えた大企業がたくさんあるんだよ。当然、政府の税収は絶好調なわけですよ。それなら、それを防衛費や少子化対策に当てればいいわけだ。なのに今回、それを国民に還元して防衛費とかはまた増税して賄おうとしているんだよね。世の中の人は不思議に思っているわけですよ。どこまでも場当たり的で、根拠がないんです。》 さらに、《国民に所得減税が必要な理由をきちんと説明できないと、自分のことしか考えていないと思われて足元を見られてしまうよ。》 これが面白かったのは、今この時期にわざわざ石破氏に聞きに行く文春の野次馬の嗅覚であり、期待に応えて張り切る石破氏本人という構図である。張り切り出した「非主流派」 実は最近になって石破茂という名前をまた新聞各紙で見るようになっていた。こんな記事もあった。『非主流派、うねり起こすか 「石破―菅―二階」復権うかがい近づく3氏』(朝日新聞10月22日) 岸田政権の誕生によって「非主流」となった菅義偉氏と二階俊博氏だが、また動きが活発になってきたというもの。二階派幹部は来秋の総裁選をにらんだ動きを始めつつあることを隠さない。「近く菅氏、石破氏を交えた食事会を開く」とも。 石破氏は最近の各社の世論調査で「次の首相候補」で首位に躍進している。岸田首相は菅、二階、石破をそれぞれ取り込もうとするが彼ら3人の「非主流派はうねりを起こすのか?」という政局記事なのだ。策士策に溺れる さて政局記事を振り返るなら、岸田首相が来年の総裁選を迎えるまでに解散総選挙をおこないたい理由である。それは選挙に勝って総裁選を無風、もしくは無投票で乗り切るためという解説が新聞ではなされてきた。 しかし石破氏は張り切りだした。この時点ですでに岸田首相の総裁選戦略は崩れつつある。内閣改造で河野太郎や高市早苗らライバルの取り込みだ、減税だ、議論は先送りだ、と策を弄してきたのにこれでは策士策に溺れるという様相である。 不支持率の高さといい、自民党内の不穏な動きといい、確実に首相周辺には異変が起きている。「減税」のニュースを追うと余計なものまで見えてきてしまうのだ。 所信表明では「不撓不屈」、9月の記者会見では「一意専心」。岸田首相はかつて貴乃花や若乃花が用いた口上を使うのを好むが、求められているのは堂々と議論する横綱相撲では?(プチ鹿島)
まずその前におさらいします。首相は来年6月に1人あたり4万円の定額減税を行う考えを表明した。住民税非課税の低所得世帯向けには1世帯あたり7万円を給付することも明言。
時系列で言うと首相は10月20日に減税すると言いだした。この2日後に衆参の補欠選挙を控えていた。
『補選2日前、首相表明』(日経新聞10月21日)
《補欠選挙は厳しい情勢が続く。投開票日の2日前に減税を表明する異例の事態となった。》
選挙目当てと見透かされていた。その補選は1勝1敗となり、翌日に岸田首相は所信表明演説をおこなった。ここで気になったのはその内容だ。自分で減税論議を始めたのに、所信表明では所得減税に言及しなかった。しかし翌日には「1人あたり4万円」「非課税世帯7万円」という具体的な数字が報道で飛び交った。
つまり、国会での説明がないまま話が進んだのである。なるべく国会で議論をしないように気を付けているのだろうか?
ではそれらを踏まえて岸田首相に関する“異変”をいくつかお伝えしよう。まず「不支持率」である。
JMPA
岸田政権は発足して2年になるが、当初の売りの一つは「不支持率が低い」ことだった。しかし最近の世論調査ではむしろ不支持率が高くなっている。新聞によっては6割を超え、安倍・菅政権の不支持率を超えている。
この反転は何を意味するのか。理由の一つに国会軽視や議論軽視があるのではないか。防衛増税や異次元の少子化対策の財源論議は先送りしたまま、それでいて減税と言い出す。
首相は所信表明演説の直前、周囲にこんな覚悟を語っていたという。
「もう絶対にぶれない。どんなに批判されても、ぶれなければ何とかなる」(朝日新聞10月24日)
やはり自覚はあったのだ。政権発足当初から「ブレることにブレない」首相だった。政策や決定を出して世論に不評だと、あとから“軌道修正”するというスタイルをとっていた。たとえばコロナウイルスの水際対策や18歳以下への10万円相当の給付などいろいろあった。
そして今回は『首相 突然「所得減税」』(毎日新聞10月21日)である。
このアピールには《首相がネット上で「増税メガネ」とやゆされているのを気にしていることが背景にあるとされ、遠藤利明前総務会長が減税に走る首相に「少し過剰に反応している」と懸念を示すほどだった。》(毎日新聞10月27日)
ポイントは、今年6月末に受け取った政府税制調査会(首相の諮問機関)の答申だった。答申は個人所得のうち非課税となっているものについて「注意深く検討する必要がある」と指摘し、現在は非課税となっている所得として通勤手当や失業給付、遺族年金などを列挙。これがネット等で「サラリーマン増税」と批判された。対して首相側は「レッテル貼りはアンフェアだ」と反発しているという記事もあった(毎日新聞8月2日)。
ただ、増税と言われる理由のひとつは防衛費増額や異次元の少子化対策の財源が不透明という理由もあるからだろう。議論が先送りされるなかで疑心暗鬼を生じた人が続出し、不支持率が高くなった理由も想像できるのだ。
さらに、岸田首相に対する“異変”の二つ目。それは自民党内からもツッコまれていることだ。「何をやりたいのかわからない」「迷走している」というコメントが各紙で確認できる。最も興味深かったのは「週刊文春」最新号(10月26日発売)での石破茂氏の発言である。首相の減税策について石破氏は次のように述べている。
《ここ数年でお金持ちになった人がたくさんいて、収入が増えた大企業がたくさんあるんだよ。当然、政府の税収は絶好調なわけですよ。それなら、それを防衛費や少子化対策に当てればいいわけだ。なのに今回、それを国民に還元して防衛費とかはまた増税して賄おうとしているんだよね。世の中の人は不思議に思っているわけですよ。どこまでも場当たり的で、根拠がないんです。》 さらに、《国民に所得減税が必要な理由をきちんと説明できないと、自分のことしか考えていないと思われて足元を見られてしまうよ。》 これが面白かったのは、今この時期にわざわざ石破氏に聞きに行く文春の野次馬の嗅覚であり、期待に応えて張り切る石破氏本人という構図である。張り切り出した「非主流派」 実は最近になって石破茂という名前をまた新聞各紙で見るようになっていた。こんな記事もあった。『非主流派、うねり起こすか 「石破―菅―二階」復権うかがい近づく3氏』(朝日新聞10月22日) 岸田政権の誕生によって「非主流」となった菅義偉氏と二階俊博氏だが、また動きが活発になってきたというもの。二階派幹部は来秋の総裁選をにらんだ動きを始めつつあることを隠さない。「近く菅氏、石破氏を交えた食事会を開く」とも。 石破氏は最近の各社の世論調査で「次の首相候補」で首位に躍進している。岸田首相は菅、二階、石破をそれぞれ取り込もうとするが彼ら3人の「非主流派はうねりを起こすのか?」という政局記事なのだ。策士策に溺れる さて政局記事を振り返るなら、岸田首相が来年の総裁選を迎えるまでに解散総選挙をおこないたい理由である。それは選挙に勝って総裁選を無風、もしくは無投票で乗り切るためという解説が新聞ではなされてきた。 しかし石破氏は張り切りだした。この時点ですでに岸田首相の総裁選戦略は崩れつつある。内閣改造で河野太郎や高市早苗らライバルの取り込みだ、減税だ、議論は先送りだ、と策を弄してきたのにこれでは策士策に溺れるという様相である。 不支持率の高さといい、自民党内の不穏な動きといい、確実に首相周辺には異変が起きている。「減税」のニュースを追うと余計なものまで見えてきてしまうのだ。 所信表明では「不撓不屈」、9月の記者会見では「一意専心」。岸田首相はかつて貴乃花や若乃花が用いた口上を使うのを好むが、求められているのは堂々と議論する横綱相撲では?(プチ鹿島)
《ここ数年でお金持ちになった人がたくさんいて、収入が増えた大企業がたくさんあるんだよ。当然、政府の税収は絶好調なわけですよ。それなら、それを防衛費や少子化対策に当てればいいわけだ。なのに今回、それを国民に還元して防衛費とかはまた増税して賄おうとしているんだよね。世の中の人は不思議に思っているわけですよ。どこまでも場当たり的で、根拠がないんです。》
さらに、
《国民に所得減税が必要な理由をきちんと説明できないと、自分のことしか考えていないと思われて足元を見られてしまうよ。》
これが面白かったのは、今この時期にわざわざ石破氏に聞きに行く文春の野次馬の嗅覚であり、期待に応えて張り切る石破氏本人という構図である。
実は最近になって石破茂という名前をまた新聞各紙で見るようになっていた。こんな記事もあった。
『非主流派、うねり起こすか 「石破―菅―二階」復権うかがい近づく3氏』(朝日新聞10月22日)
岸田政権の誕生によって「非主流」となった菅義偉氏と二階俊博氏だが、また動きが活発になってきたというもの。二階派幹部は来秋の総裁選をにらんだ動きを始めつつあることを隠さない。「近く菅氏、石破氏を交えた食事会を開く」とも。
石破氏は最近の各社の世論調査で「次の首相候補」で首位に躍進している。岸田首相は菅、二階、石破をそれぞれ取り込もうとするが彼ら3人の「非主流派はうねりを起こすのか?」という政局記事なのだ。
さて政局記事を振り返るなら、岸田首相が来年の総裁選を迎えるまでに解散総選挙をおこないたい理由である。それは選挙に勝って総裁選を無風、もしくは無投票で乗り切るためという解説が新聞ではなされてきた。
しかし石破氏は張り切りだした。この時点ですでに岸田首相の総裁選戦略は崩れつつある。内閣改造で河野太郎や高市早苗らライバルの取り込みだ、減税だ、議論は先送りだ、と策を弄してきたのにこれでは策士策に溺れるという様相である。
不支持率の高さといい、自民党内の不穏な動きといい、確実に首相周辺には異変が起きている。「減税」のニュースを追うと余計なものまで見えてきてしまうのだ。
所信表明では「不撓不屈」、9月の記者会見では「一意専心」。岸田首相はかつて貴乃花や若乃花が用いた口上を使うのを好むが、求められているのは堂々と議論する横綱相撲では?
(プチ鹿島)