狛江市の連続強盗事件をはじめ、闇バイトによる凶行が世間を震撼させている。SNSで“調達”された闇バイトは、詐欺や強盗の実行犯として跋扈し、犯行も過激化。日本の治安を著しく悪化させているのだ。ネットで闇バイトに応募した人たちの胸中とは――?また、「外国人闇バイト」の実情にも迫る。◆追い詰められて闇バイトに応募。個人情報を取られて…
大川弥生さん(仮名・22歳)は、短大卒業後に就職した先でパワハラを受けて退職。限度額までクレジットカードで生活費を支払い続けたが、返済が滞ってしまった。
「3日後にカードの支払いがあったので、焦ってツイッターで、#即日払い #高収入と検索したら、闇バイトの募集が出てきたんです」
追い詰められた大川さんは、DMから闇バイトに応募した。
「テレグラムに誘導され、メッセージのやり取り中に最寄りの駅や部屋の窓から見える風景、アパートの部屋番号を聞かれました。それにバカ正直に答えてしまったんです。怖くなってメッセージは中断してしまいましたが……」
大川さんはテレグラムとすべてのSNSのアカウントを削除。しかし、相手に個人情報が知られた手前、不安で眠れない日々を過ごしている。
◆闇バイト歴8年。報酬は月に60万円を超え…
一方、長期にわたり闇バイトを続けている猛者もいる。須田直樹さん(仮名・29歳)は、今年で闇バイト歴8年。
「地元の先輩と一緒に興味本位で掲示板の『高額報酬案件』に応募しました。それが自分の口座に入金されるカネを引き出してほかに流す、出し子の仕事だったんです」
須田さんの口座に数十万円から多いときには数千万円が振り込まれ、それを全額下ろして先輩に渡す。受け取った先輩も指定されたアパートに現金を運ぶ、いわばバケツリレー方式。稼働は週2回ほど、報酬は月に60万円を超える。
「振り込まれるのがなんのカネなのか、内情を問い正したことは一度もありません。
ただ、数千万円も振り込まれるとさすがに怪しまれるのか、少し前にメインバンクが凍結して、慌ててネット銀行でカードをつくりました。凍結された口座のカネは引き出せていません」
高額な報酬があるにもかかわらず、須田さんは引っ越しのアルバイトも月20日こなす。
「闇バイトはカネのためというより先輩との付き合い。数千万円を持って“飛ぶ”なんて、とても考えられないですね」
カネ目当てでないほうが、重宝されるのか。
◆ヤンチャな在日ベトナム人“ボドイ”の闇バイト事情
国内でも捜査の手が及びにくいのが、独自のコミュニティを形成する外国人の闇バイトだ。
なかでも増えているが、在日ベトナム人による犯行だという。ルポライターの安田峰俊氏は次のように語る。
「元締の多くは日本滞在歴が長い半グレ系のベトナム人でしょう。一方、闇バイトを実行するのは、出稼ぎ目的で来日した留学生、職場から逃亡した元技能実習生など立場はさまざま。
ヤンチャな在日ベトナム人は“ボドイ”と呼ばれ、フェイスブックのコミュニティで仕事の情報を共有しています。
最近の事例だと、ベトナム国籍の技能実習生を郊外のすみかに拉致監禁し、暴行を加える様子を動画で本国にいる被害者家族に送信、身代金を脅し取るという手口が横行しました」
◆日本人の闇バイトと似通っている「ボドイによる闇バイト」
このケースも、拉致・監禁する実働部隊は、犯行の全容を知らないボドイだという。こうした点は、日本人の闇バイトと似通っている。
「ベトナム人技能実習生には、来日する際に、悪徳ブローカーに多額の借金を背負わされ、困窮している人も多い。
そのため“可哀想な外国人”という視点で語られがちですが、本国にいたときからワルだった人も一定数存在し、ボドイにはそうした手合いもいる。その事実は見過ごされています」
悪質ブローカーの誘いに乗る在日ベトナム人と、それに参入しやすい日本の制度。ボドイによる闇バイトは、構造的な問題をはらんでいるのだ。
【安田峰俊氏】『八九六四「天安門事件」は再び起きるか』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『北関東アンダーグラウンド』
取材・文・撮影/週刊SPA!編集部