道路交通法の改正によって、7月1日から規制が緩和された電動キックボード。16歳以上なら免許不要・ヘルメットなし(努力義務)で乗れるようになり、一定条件下での歩道走行も可能になった。 これ以降、SNSなどでは信号無視などの危険走行を撮影した写真や映像が散見されており、かねてより指摘されていた危険性が現実化している。
◆あおり運転で摘発されるドライバーも「免許は持っている」
電動キックボードの危険性については様々な意見がある。例えば7月25日に国土交通省と警視庁が渋谷で実施した取り締りでは、取り締まった電動キックボードのうち保安基準不適合などの問題があったのは個人所有の3台のみで、シェアリングサービス事業者の13台にはいずれも問題がなかったとしている。一方で、9月1日の警察庁の発表では、7月中の全国での信号無視などによる摘発は406件あり、事故は7件発生したとしている。
このデータだけでは危険か否かを即断することはできない。ただ、街頭のみならずSNSなどで見られるモラルのない利用者の姿を通じて、電動キックボードは危険な乗り物というイメージは広がっているようだ。市場の拡大を図るシェアリングサービス事業者は、ユーザー登録の際の交通ルールテストなどを通じて、モラルの向上を図っているという。しかし、近年話題になるクルマのあおり運転で摘発されるドライバーでも、たいていは免許を持っているもの。「テストをクリアした」「登録の際に個人情報を事業者に渡している」ことが悪質運転の歯止めにはなっているのだろうか。
◆街でよく見かける「Luup」を直撃
ともすれば大事故の原因になるような乗り物を用いたサービスを、事業者はどんな覚悟で提供しているのか。大手事業者のLuupに話を聞いてみることに。同社は、大都市圏に多くのポートを設置しているが、昨年9月に中央区勝どきのタワーマンションのエントランスで会社役員の男性が飲酒のうえ、電動キックボードで車止めに飛び込み、転倒し死亡した事故。9月に池袋駅近くで、23歳の女が「自転車通行禁止エリア」で年配の女性と衝突し大けがを負わせたうえで逃走を図り、駆けつけた警察官に暴行を加えて逮捕された事件。これはいずれも同社の利用者が起こしたものである。
◆公式サイトの問い合わせフォームが機能していない?
同社はプレスリリースでも、取材は公式サイトのフォームからの依頼を要求している。まずは、それに従って取材依頼を送ってみた。が、まったく返答はなかった。再度送っても同じである。しびれを切らして、プレスリリースに記されているメールアドレスに質問事項を添付して送信したところ、ようやく返事が。どういう不具合か、筆者がフォームから送信したものは、まったく届いていないということであった。
同社広報部からは以下のような返答がきた。メールアドレスから送信した際に、筆者は「ユーザー登録の際の交通ルールテストは、悪質なユーザー排除のために十分に機能していないのではないか」「無関係の歩行者が事故に巻き込まれた場合、保険以外に被害者へのケアを考えているのか」「ユーザー数、講習会への参加者数の実績」といった10項目の質問を箇条書きで添えていた。
◆どうにもかみ合わない返答に違和感…

その対策として「警察等と連携した定期的な安全講習会の開催、アプリ内のみならずポート看板、車両等を使った注意喚起、SNS等での情報発信」「違反者に対しては、警察と連携のうえ、重大な違反に対するアカウント凍結等の措置」を行っているとする。
こうした説明を並べたうえで、同社は以下のような主張を述べる。
「新たなモビリティが安全・便利に活用されるためには、自社サービスの利用者のみならず、電動キックボードを個人で所有している方や、電動キックボードに乗らない方々に対しても新しい交通ルールを広く周知することが重要だと考えています。そのため、警察、自治体と連携のうえ、ルールの啓発活動に引き続き力を入れてまいります」
◆悪質なユーザーは排除できるのか?
616文字の回答文の中で「警察と連携」という趣旨の言葉が4回も用いられている。これはサービスは提供するが、手に負えない部分があるという意味だろうか。また「新しい交通ルールの周知」という部分も気になる。求められるのはルールの周知より、悪質なユーザーが事故を起こした場合の事業者の責任を取る意志だと思うのだが。
ともあれ、ユーザー数と講習会への参加者数についても記載がなかったことに「あまりに無内容ではないか」と追加で取材を求めたところ、以下のような返事が。
「ユーザー数は非公開とさせていただいておりますが、アプリのダウンロード数は100万以上となっております。安全講習会も参加者数は公開していないのですが、ご参考までに開催回数をお伝えいたします。2021年4月の実証実験としてのシェアサービス開始以降:70回以上(うち、2023年7月の改正道路交通法施行以降:19回)」
警察や自治体との連携・協業をアピールする一方で、市民が判断材料とすべき数値を公開しないことに疑問は残る。これまで筆者は電動キックボードなど次世代モビリティの開発者に取材したことはある。多くの開発者は安全性を確保し、誰でも気軽に利用できる車体の開発に尽力していたが、実際にそれを利用しているサービス事業者はどうか。シェア拡大にとらわれるあまり、安全性という足元がおろそかになっていることはないだろうか。人身事故を伴う危険走行が問題視されている今、あらためて考えてみたい。
<取材・文/昼間たかし>