―[貧困東大生・布施川天馬]―
◆ペーパーテストの軽視、ホントにいいの? みなさんは、大学受験というと、どんなイメージを持ちますか? ご自身が受験された方なら、特に勉強ばかりして苦しんで入った思い出がある人もいらっしゃるでしょう。 これまでの大学受験の本道は、ペーパーテスト、いわゆる一般入試受験でした。ですが、2023年現在では、面接によって合否を決める推薦入試の比率が50%を超えるなど、ペーパーテスト型はむしろマイノリティになってきています。
今の大学受験は、確実に富裕層有利に傾いています。AO推薦型入試は、明らかにお金持ちを優遇した受験システムです。なぜならば、AO推薦型入試で求められる「人と違う体験」や「英語を使う能力」は、明らかに富裕層の子どもたちのほうが得る機会が多いであろうからです。
先日、10月20日に「今の大学受験がAO推薦へ傾いている」として、ABEMA Primeに出演する機会がありました。私は、「貧乏な境遇から受験によって自身のキャリアを作り替えた」立場での出演でした。
今回は、こちらで述べた意見を交えつつ、ペーパーテストを軽視する風潮に疑問を提示していきます。
◆AO推薦入試が富裕層優遇といえる理由
そもそも、AO推薦入試とは、面接や志望理由書を重視し、従来の学力検査よりも人柄やコミュニケーション能力を重視する入試を言います。もちろん東大のように学力検査を課す大学もありますが、そうでない大学も多数存在します。
人柄やコミュニケーション能力を測る際に、重視されるのが、個々人の研究テーマと、その経験です。どんな研究がしたいのか、なぜその研究をしたいと思っているのか、その原体験に何があったのかが問われます。
これだけ聞くと悪くない入試のように聞こえますが、富裕層優遇になっている現実があります。例えば、「貧困格差を是正したい」学生の原体験は、海外のスラムに行って、そこで暮らすストリートチルドレンの生活の惨状をみたから。もしくは、「生物を研究したい」学生の原体験は、小さなころから生き物が好きで、飼ってみたい生き物を片っ端から買って、時には海外から輸入して世話したのかもしれません。
これらは、「海外で視察をして初めて分かった衝撃」を元に、自身の研究テーマを話したり、「生物を無制限に輸入できたから広がった興味」を話したりすることで、アピールになります。このように「お金があったからできた原体験」を理由として、自身の研究テーマを見つけている人ばかりなのが、AO推薦入試なのです。
ここに、貧乏人の付け入る隙はありません。自身の持つ素朴な原体験を話しても、周囲のド派手でダイナミックな原体験に押し流されてしまう。実際に、僕が推薦入学者にインタビューしたところ、「いかに手間を惜しまず自分がマイノリティになるかがコツである」と言われました。いかに親の資金力を生かしてほかの人と違う体験をするかがカギ。それが今の推薦入試の現状です。
◆推薦入試を重視する“大学側の事情”
どうして、大学もAO推薦入試を重視するのか。これには、大学側の経営事情が深く関係しています。推薦入試のほとんどは、年内に受験が終了します。推薦を増やすと、大学側は、入学者の多くを年内に確定させることができます。推薦の多くは併願禁止だからです。
入学者を年内に確定させると、入学金の計算が容易になります。何人受験しに来るか、そして何人が入学するかわからない受験生から受験料をとるよりも、推薦で他の学校に浮気しない学生を確保するほうが、確実に利益が出るのです。

◆国立大学にも推薦化の波が…
ですが、推薦入試を重視しすぎる風潮が続くと、貧乏な家庭の出身者は、どれだけ能力があろうと、大学に行けなくなる未来が待っています。学力は、才能や努力である程度補うことができますが、経験を才能や努力で補うことは不可能だからです。どれだけ優れた人であろうと、貧乏なだけで未来が閉ざされてしまうのは健全でないと私は考えます。
私立大学に関しては、AO推薦入試を優先するのもいいかもしれません。一つの営利団体としては合理的な判断ですし、貧乏な家庭の出身者ならば、どちらにせよ学費が払えず、私立に入学するのは難しい。
ただ、今は国立大学でも推薦入試が広がっている時代。2015年に国立大学協会が「推薦入学者を定員の30%に引き上げる」方針が出てからは、筑波大学や大阪大学、九州大学など名門大学でも、推薦の波は広がっています。
これ以上、国立大学にも推薦化の波が広がると、どれだけ優れた能力があっても、貧乏人は大学に行けない時代が来ます。そうなれば、もはや経済格差は固定化されるでしょう。裕福な方は、もっと国のために、貧乏な方は自身と周りの経済格差是正のために努力することが、格差を是正する一歩になるのではないでしょうか。
大学入試を通じて、経済格差についてより多くの方が考えていただけることを望みます。
<文/布施川天馬>
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