夏の旅行先として人気の北海道だが、懸念されるのは相次ぐヒグマの被害だ。中でも気になるのは、最凶ヒグマとして知られる「OSO18」の動向。今回その鮮明な姿が初めて捉えられたと聞いて現地へ向かうと、ある異変が……。
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【閲覧注意】「ロースの部分だけ食べられた」 OSO18に襲われアバラがあらわになった乳牛 今年5月までのクマ目撃報告は、道内で700件超と過去最多ペースで増加している。それだけヒトとの遭遇が頻繁なら被害も深刻で、道北の幌加内町では死亡事故が発生。道内の主要産業である農業や畜産への影響も甚大である。

特に世界遺産の釧路湿原を抱える道東の標茶(しべちゃ)町や、カキの産地として名高い厚岸(あっけし)町は、乳牛ばかりを襲う特異なヒグマ「OSO18」、通称「オソ」の被害に悩まされ続けている。お尋ね者(標茶町提供) 独特な名前は、最初に乳牛を襲ったのが目撃された場所である標茶町のオソツベツという地名と、足跡の幅が18センチだったことに由来する。「映像の前日以降、被害が出ていないのが不気味」 被害が確認された2019年以降、この地域では66頭の乳牛が襲われたが、その姿をハッキリ見た者はいない。 いや、正確にはそれらしき姿を目撃した酪農家が一人いて、赤外線カメラによるモノクロ画像が数枚あるのみだったが、今年6月25日、初めて鮮明なカラー映像で捉えられ、その後「オソ」と断定されたのだ。「最終的には、過去の被害現場と今回の撮影現場に残された体毛のDNAが一致したので、オソだと断定することができました」 とは、標茶町農林課の担当職員だ。「オソによるものと思われる乳牛への被害は、冬眠が明けてから1年で最もエサの少ない6月下旬~9月上旬の期間、多いペースなら週1回ほど、少なくても2~3週間に1回の頻度で発生していました。ところが、今年は映像が撮影された日の前日以降、まったく被害が出ていないのが不気味です」(同)皮をキレイに剥いで… オソの異変はそれだけではないと明かすのは、北海道猟友会標茶支部長の後藤勲氏(79)である。「これまでオソは牛の内臓を先に食べて、後は他の部位をちょこっと口にする程度だったのに、直近の被害では背中の皮をキレイに剥いで、ロースの部分だけ食べている。こんな襲い方は今までにないんだわ。可かわいそうなことに、襲われた牛はあばら骨が見えた状態で生きていた。酪農家の人も“牛に顔向けできない”と言ってね。獣医を呼び注射で安楽死させるしかなかった」オソの影響で猟師志望者が増加 神出鬼没で猟奇性を増すオソ同様、地元を悩ませているのは、事情を知らない“外野”からの声だという。「役場やわれわれのところには、以前から動物愛護団体が銃で撃つなと言ってくることはあったんだけど、最近はよその猟師などからも“なんで捕れない”って文句が来る。標茶は起伏が激しい地形が多いし、オソは賢いから夜間に橋の下などを通って行動し、国道を渡る時も人目を避ける。絶対に姿を見せないんだ」(同) とはいえ、後藤氏ら地元住民は手をこまねくばかりではないとして、こう話す。「クマは増える一方なのに、高齢化などで猟師は足りなくなってきているから、時間はかかるけど次世代の担い手を育てることに力を入れるようにしています。この2、3年でオソが有名になってから、自分もクマを撃ちたいと標茶町に5、6人移住してきている。うち3名くらいは女性です」 見事オソを射止めたら、剥製にして標茶の博物館へ飾ると意気込むのである。「週刊新潮」2023年8月17・24日号 掲載
今年5月までのクマ目撃報告は、道内で700件超と過去最多ペースで増加している。それだけヒトとの遭遇が頻繁なら被害も深刻で、道北の幌加内町では死亡事故が発生。道内の主要産業である農業や畜産への影響も甚大である。
特に世界遺産の釧路湿原を抱える道東の標茶(しべちゃ)町や、カキの産地として名高い厚岸(あっけし)町は、乳牛ばかりを襲う特異なヒグマ「OSO18」、通称「オソ」の被害に悩まされ続けている。
独特な名前は、最初に乳牛を襲ったのが目撃された場所である標茶町のオソツベツという地名と、足跡の幅が18センチだったことに由来する。
被害が確認された2019年以降、この地域では66頭の乳牛が襲われたが、その姿をハッキリ見た者はいない。
いや、正確にはそれらしき姿を目撃した酪農家が一人いて、赤外線カメラによるモノクロ画像が数枚あるのみだったが、今年6月25日、初めて鮮明なカラー映像で捉えられ、その後「オソ」と断定されたのだ。
「最終的には、過去の被害現場と今回の撮影現場に残された体毛のDNAが一致したので、オソだと断定することができました」
とは、標茶町農林課の担当職員だ。
「オソによるものと思われる乳牛への被害は、冬眠が明けてから1年で最もエサの少ない6月下旬~9月上旬の期間、多いペースなら週1回ほど、少なくても2~3週間に1回の頻度で発生していました。ところが、今年は映像が撮影された日の前日以降、まったく被害が出ていないのが不気味です」(同)
オソの異変はそれだけではないと明かすのは、北海道猟友会標茶支部長の後藤勲氏(79)である。
「これまでオソは牛の内臓を先に食べて、後は他の部位をちょこっと口にする程度だったのに、直近の被害では背中の皮をキレイに剥いで、ロースの部分だけ食べている。こんな襲い方は今までにないんだわ。可かわいそうなことに、襲われた牛はあばら骨が見えた状態で生きていた。酪農家の人も“牛に顔向けできない”と言ってね。獣医を呼び注射で安楽死させるしかなかった」
神出鬼没で猟奇性を増すオソ同様、地元を悩ませているのは、事情を知らない“外野”からの声だという。
「役場やわれわれのところには、以前から動物愛護団体が銃で撃つなと言ってくることはあったんだけど、最近はよその猟師などからも“なんで捕れない”って文句が来る。標茶は起伏が激しい地形が多いし、オソは賢いから夜間に橋の下などを通って行動し、国道を渡る時も人目を避ける。絶対に姿を見せないんだ」(同)
とはいえ、後藤氏ら地元住民は手をこまねくばかりではないとして、こう話す。
「クマは増える一方なのに、高齢化などで猟師は足りなくなってきているから、時間はかかるけど次世代の担い手を育てることに力を入れるようにしています。この2、3年でオソが有名になってから、自分もクマを撃ちたいと標茶町に5、6人移住してきている。うち3名くらいは女性です」
見事オソを射止めたら、剥製にして標茶の博物館へ飾ると意気込むのである。
「週刊新潮」2023年8月17・24日号 掲載