知らぬ間に引き出された遺産は4000万円。逮捕されたのは被害者と家族ぐるみで付き合いのある女でした。なぜ女が自由に金を使えたのか。小さな港町にある慣習を悪用したとみられています。
■漁師の遺産4000万円引き出しか
なぜ“漁協の女”は、他人の口座を自由にできたのでしょうか。舞台となったのは人口およそ550人の港町でした。
北海道新冠町節婦地区。「ひだか漁業協同組合」の職員・春日公美容疑者(48)が元組合員の妻から預かった通帳で無断で100万円を引き出したとして30日、業務上横領の疑いで逮捕されました。被害に遭った渡辺恵美子さん(68)。
被害に遭った渡辺恵美子さん:「命と引き換えに置いていったお金で自分の私腹を肥やしていると思うと、いたたまれない」
17年前、漁師だった夫・正さん(当時56)が海で別の船に衝突されて亡くなりました。渡辺さんには、生命保険金や賠償金など多額の遺産が入ったのです。ところが4年前、異変に気付きました。
被害に遭った渡辺恵美子さん:「残高が減っていくのが早い。2枚あった通帳のお金の移動が激しい」
娘と1年半ほどかけて調べたところ、覚えのない取引がおよそ4000万円分あったといいます。なぜ、そんなことが起こったのでしょうか。背景にこの街に根付いていた慣習がありました。
■“漁協の女”町に根付く「慣習」悪用?
被害に遭った渡辺恵美子さん:「組合に通帳を皆さん預けていた。ほとんどの人」
漁協関係者の多くは、漁協に併設された金融機関「マリンバンク」を利用していて、渡辺さんは漁協に通帳を預けていた組合員は多かったと話します。組合員は、通帳を預けることで支払いの手続きなどを漁協に代わってもらえるなどの利点があったといいます。
そして、漁協関係者によりますと、組合員から預かった通帳を1人で管理していたのが春日容疑者だったといいます。
■「積み立て保険を」身勝手な言い分
渡辺さんは娘とともに漁協に説明を求めました。そこで、対応したのは渡辺さんと家族ぐるみの付き合いがあった春日容疑者でした。その時のやり取りの音声があります。
音声 春日公美容疑者:「契約しているの、積み立て保険。本当にごめん、本当ごめん。私が悪いんだ。私が勝手なことをしたの。色んな人たちを見てきて相続とかも見てきて、あや(渡辺さんの娘)に一番残してやりたいと思ったの」
渡辺さん家族を思い、資産運用したと主張したのです。春日容疑者の説明によると、2000万円を名義人不明の定期預金に。さらに1500万円を無断で作った渡辺さんの息子名義の口座に移したといいます。そのうち300万円を自分名義の積み立て預金に。100万円を渡辺さんの娘と孫の名義でそれぞれ定期預金したということです。
その他におよそ300万円がなくなっています。
■「私が滅ぶしか…」記者が直撃
被害者に問い詰められると…。
音声 春日公美容疑者:「だってやってないけど、本当にやってないよ。信じてって言ったって信じてもらえないんだもん。会社に迷惑掛けて、皆に迷惑掛けて。そうしたら私、滅ぶしかないでしょう」
結局、口座や積み立ては解約され、元に戻されました。しかし、およそ300万円は返ってきていません。
逮捕前 春日公美容疑者:「(Q.漁協で金のトラブルがあったと聞いたが?)弁護士さん通して下さい」