「うちの夫(妻)は発達障害で、ぜんぜん私のことをわかってくれないし、家のことをやろうともしない。一緒にいてもつらいだけなので、別れることにした」……日本の夫婦の3組に1組が直面しているという離婚。その理由に、発達障害が挙げられることが増えている。 夫婦関係の発達障害にみられる5つの特徴 発達障害には、相手の気持ちが読めない、特定のことに固執する、注意が散漫になるなどといった特性がある。それが夫婦の相互理解を難しくすることもある。よく見られるのは次のようなことだ。

・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。 こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「うちの夫(妻)は発達障害で、ぜんぜん私のことをわかってくれないし、家のことをやろうともしない。一緒にいてもつらいだけなので、別れることにした」……日本の夫婦の3組に1組が直面しているという離婚。その理由に、発達障害が挙げられることが増えている。
夫婦関係の発達障害にみられる5つの特徴 発達障害には、相手の気持ちが読めない、特定のことに固執する、注意が散漫になるなどといった特性がある。それが夫婦の相互理解を難しくすることもある。よく見られるのは次のようなことだ。

・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。 こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
夫婦関係の発達障害にみられる5つの特徴 発達障害には、相手の気持ちが読めない、特定のことに固執する、注意が散漫になるなどといった特性がある。それが夫婦の相互理解を難しくすることもある。よく見られるのは次のようなことだ。

・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。 こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
発達障害には、相手の気持ちが読めない、特定のことに固執する、注意が散漫になるなどといった特性がある。それが夫婦の相互理解を難しくすることもある。よく見られるのは次のようなことだ。

・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。 こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
発達障害には、相手の気持ちが読めない、特定のことに固執する、注意が散漫になるなどといった特性がある。それが夫婦の相互理解を難しくすることもある。よく見られるのは次のようなことだ。
・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。 こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
・思い込みが激しく、それ以外の意見をいっさい聞こうとしない。・1つのことにのめりこみすぎて、家庭を顧みようとしない。・空気を読まず、自分の思いや欲望だけを押しつけてくる。・頼みごとをしても数分後には忘れて違うことをしている。・家事や片付けができずに家がゴミ屋敷になる。
こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。 1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
こうしたことが夫婦関係に亀裂を生み、場合によっては離婚につながるのだ。今回、集英社オンラインに寄せられた当事者の証言によれば、発達障害が及ぼす影響は夫婦間の性生活にも色濃く表れているという。実際の事例を紹介したい。
1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
1日おきに1時間きっかり性行為 ●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
●A子さん(30代女性) 20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
●A子さん(30代女性)
20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。 写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
20代前半で、A子さんはSNSで知り合った男性と交際3か月で結婚した。11歳年上の夫は、後に発達障害であることが判明するが、出会ったころは「ちょっと変わった人」くらいの印象しかなかったらしい。
写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
写真はイメージです 結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
写真はイメージです
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結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。 A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
結婚後に一緒に暮らしはじめると、A子さんはだんだん夫の融通の利かなさが目に付くようになった。片付けや物の置き場所に異常なくらい固執し、髪の毛が落ちているだけでパニックになった。食事への執着も尋常ではなく、朝昼は自分で毎回同じものを作って食べ、夕飯は細かく献立を決めてA子さんに調理させた。
A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。 彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
A子さんは若かったこともあってがんばって要求に応えたが、夜の営みはまた別だった。夫は必ず1日おきに23時~24時までいつもまったく同じ順序で性行為をしようとした。しかも決まって60分ちょうど。たとえ、A子さんの体調が悪くても、いっさいお構いなしで、断られれば激昂する。それは子どもが生まれ、育児で大変な時期も変わらなかった。
彼女は言う。 「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
彼女は言う。
「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。 私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」 そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「赤ん坊が夜泣きしていても、私が風邪をひいていいても、強引に体を求めてくるんです。行為もすごく一方的で、なんかロボットがやっているみたいな感じでした。愛情が感じられないんです。
私は肌を重ねることが本当につらくなって、何度か『無理してまでやらなくていいじゃん』と言ったんですが、その度に猛烈に怒りはじめて2時間も3時間も説教されるんです。それでケンカになるくらいならと、心を無にして受け入れることにしたんです」
そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。 もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
そんな夫婦関係が揺らぐのは、30代前半だった。A子さんは子宮の病気が判明して手術を受けることになった。だが、夫は術後で体調不良がつづくA子さんにすら、無理やり性行為を求めてきた。
もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。 「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
もう耐えられない。A子さんは直に夫に話しても理解されないので、これまでのことを義理の両親に相談した。義理の両親からは離婚を決める前に、一度夫を病院へ連れて行こうと提案された。義理の両親も彼の言動にずっと違和感を覚えていたらしい。
「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。 「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
病院へ行ったところ、医師からはこう言われた。
「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」 話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「発達障害です。この特性は治るものではありません。周りも本人もそれをきちんと理解し、どうすれば仲良くやっていけるかを相談して決めていってください」
話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。 写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
話し合ったところ、夫はルーティンの1つとして1日おきに性行為をするものだと考え、それを頑なに守っていたらしい。そこでA子さんは、そんなふうに考える必要はないから、性行為はしばらく控えようと提案した。
写真はイメージです ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
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ある日、A子さんはこう言った。 「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
ある日、A子さんはこう言った。
「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」 夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「ねえ、夏休みの一日くらい家族サービスしてよ」
夫は答えた。 「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
夫は答えた。
「嫌だ。自分の時間がなくなるから」 それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「嫌だ。自分の時間がなくなるから」
それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。 ――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
それを聞いたとき、A子さんは、夫の視界には自分たちは存在してないのだと確信した。これまでは義務として行っていた性行為によってかろうじてつながっていたが、それがなくなったことで、夫は自分の世界だけに没入し、家族への関心を失ったのだ。
――もう無理だ。 A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
――もう無理だ。
A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。 「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
A子さんは再び義理の両親に会って、離婚を考えていると話した。義理の両親はもう少し話し合ってみてはどうかと提案した。だが、A子さんには夫を変えられる自信はなく、離婚することにした。
「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」 「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「前夫は真面目だし、仕事ができる人なので、可能なら一緒にいられたらと思っていました。でも、発達障害って話し合って解決するのがすごく難しいものだと思うんです。もし話し合って家族サービスをしてくれるようになったところで、彼にとってはそれも義務の一つとしてやっているだけで、本当の意味で私や子どものことを思って動いてくれるわけじゃない。そんな関係がずっとつづくことがつらくて離婚を決めたのです」
「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「性欲はあるけど、抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメで…」 断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。 ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
断っておくが、発達障害があったからといって、すべての人がこの夫と同じようなことをするわけではない。発達障害に加えて、本人のさまざまな特性や生まれ育った環境などが複雑に絡み合い、こういう状況が生まれるということだ。
ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。 A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
ただ、A子さんにしてみれば、これまでの結婚生活のさまざまな状況から、話し合って解決できる問題ではないという結論に至ったのだろう。それが離婚の決定的な動機となった。
A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
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A子さん夫婦とは逆に、発達障害ゆえに性行為を極度に苦手とし、遠ざけようとする人もいる。次はその例を紹介したい。 B美さんは高校生のころに発達障害だと診断され、薬の服用をはじめたという。その後20代半ばで結婚を前提としたマッチングアプリで出会った3歳年上の男性と結婚した。 B美さんは20代前半の時に2回だけ性行為をして別れた彼氏がおり、その次に付き合ったのがこの夫だったらしい。結婚を前提としたマッチングアプリで出会ったため、実質3週間で結婚に至ったそうだ。 同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
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同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。 「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
同じマンションに暮らしはじめて彼女が気づいたのは、自分には性行為が合っていないということだった。彼女には発達障害の症状の一つである感覚過敏があり、男性の体のにおいだとか、体毛が触れるザラザラとした感触が耐えられないほど不快に感じるのだ。それは夫だろうと例外ではなかった。
「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん) さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
「性欲がないわけではないのですが、それ以上に抱かれた時のにおいとか感覚がどうしてもダメなんです。もうちょっと頭がおかしくなっちゃうくらい嫌なんです。結婚当初は数週間に1度は我慢して受け入れていたんですが、しばらくしてどうしようもなくなって拒むようになりました」(B美さん)
さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。 風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
さほど性体験がない状態で結婚したがゆえに、結婚後に自覚することになったのだろう。
風俗OKで子どもは人工授精か養子で… 夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。 夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
夫のほうからすれば寝耳に水だ。結婚した後になって感覚過敏だから夫婦の営みができないと言われても納得できることではないだろう。
夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。 冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
夫婦の間で何度か話し合いがもたれた。B美さんの主張は、風俗へ行くことは許すから性行為は外でしてくれというものであり、子どもがほしいなら人工授精か養子ではどうかというものだった。だが、夫はそれを受け入れられず、結婚から2年後に離婚することになった。
冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online

冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。 もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
冒頭で述べたように、発達障害の概念が広がることによって、夫婦がそれを離婚の理由に挙げることが増えた。
もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。 発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
もちろん、発達障害であるとわかったことによって、理解をより深められるようになることもあるだろうが、A子さんのように「治らない」と考えて絶望したり、B美さんの夫のように限界を感じたりするケースも少なくない。特に「性」の分野では、すれ違いが大きくなる傾向がある。
発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。 取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
発達障害への理解とはよく言われることではあるが、そこには性の問題も含まれていることも考えなくてはならないだろう。
取材・文/石井光太 ★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
取材・文/石井光太
★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。 メールアドレス:[email protected] Twitter:@shueisha_online
★取材協力者募集シリーズ「発達障害アンダーグラウンド」では、発達障害の人々が抱えている生きづらさが社会の中で悪用されている実態を描いています。発達障害は、時として売春、虐待、詐欺、依存症などさまざまな社会問題につながることがあります。もしそうしたことを体験された人、あるいは加害者という立場にいた方がいれば、著者が取材し、記事にしたいと考えています。プライバシーや個人情報を厳守することはお約束しますので、取材に協力したいと思う場合は下記までご連絡下さい。
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