松江市の宍道湖で5、6日にあった「松江水郷祭湖上花火大会」で、昨年の約10倍にあたる計2万6000席用意された有料観覧席の3割強が売れ残る見通しになっている。
同大会では、コロナ禍の物価高騰に伴う花火の製造原価に加え、雑踏事故への対策費が増加。主催者側は「有料エリアの拡大は持続可能な開催には不可欠」として理解を求めたが、市民に浸透しなかった格好だ。(松田栄二郎)
■物価高や警備費
松江市や松江商工会議所などでつくる主催者の松江水郷祭推進会議が有料観覧席の大幅増加を打ち出したのは、昨年12月。コロナ禍で3年ぶりの開催となった昨夏の花火大会で、物価高騰や警備の人件費などが膨らんだことが主な原因だった。
推進会議によると、花火の製造原価は高騰しており、2019年と同じ1万3000発で試算した場合、打ち上げ経費は19年比の約1・5倍となる約3500万円余りに増加。警備費もコロナ禍明けで夏のイベントが集中し、約2・6倍の約2300万円まで膨らむ見通しになった。
一方、財源の大きな割合を占める企業協賛金も「頭打ちの状態」(事務局)で、長引くコロナ禍でさらなる負担を求めることも難しい。このため、推進会議は「持続可能な開催には事業収入が不可欠」と判断、有料観覧席の大幅増に踏み切ることにした。
■混乱助長
有料観覧席は昨年、宍道湖大橋南側の「白潟エリア」で初日に限り、2635席を用意。今年は、一畑電車松江しんじ湖温泉駅周辺から県立美術館周辺を「湖北」「湖南」エリアとして新たに加え、例年の約10倍となる計2万6000席を確保し、1億3700万円の事業収入を見込んでいた。
ところが、新規の有料エリアは昨年まで無料だったこともあり、市民から「これまで無料で見られた場所から閉め出された」と批判が噴出。中でも芝生や階段で譲り合って座るブロック席は、1人5500円と有料ながら場所取りが必要になることもあり、大幅に売れ残ってしまった。
さらには、有料観覧席を敬遠する一部の市民らが当日、歩行者天国となった宍道湖大橋付近の車道にシートを敷く想定外の事態が発生。主催者側は昨秋に韓国・ソウルの繁華街で起きた雑踏事故を受け、県警の指導もあって立ち止まって鑑賞することを禁止していたにもかかわらず、人々の滞留が起きてしまったという。
事務局側は、有料エリアの拡大に理解を得ようと、花火の数も昨年より6500発増やし、両日で計2万発に増加。両日の人出は昨年より約25万人多い延べ約65万人となったものの、計画に対する見通しの甘さが混乱を助長させたと言わざるを得ない結果となった。
■説明不十分
最も大きな要因の一つは、市民への理解醸成の取り組みが不十分だったことだ。事務局には、大会前だけでなく当日も「市民の祭りなのに有料化はおかしい」「祭り自体をやめた方がいい」などの声が多数寄せられたという。
推進会議は「各エリアにどう席を割り振るかに時間をかけすぎた」としてPR不足を認めた上で、売り上げが不振だったことについて「想定よりもマイナスになることは避けられない」と説明。現在、実際にかかった費用や有料観覧席の収益などを集計中で、その穴埋め方法なども検討するという。一方、有料観覧席は市民に理解を求めながら来年以降も継続し、価格やエリアを見直す方針という。
松江商工会議所まちづくり推進部の佐々木護室長は「花火だけでなく、来場者の安全確保にかかる費用も昔と比べて高コスト化しており、来場者の負担がなければ大会継続は困難だ。地域の理解を得られる方法を模索したい」と話している。