娘(9)に食事を与えず低血糖症で入院させ、共済金をだまし取ったとして詐欺容疑で逮捕された母親の縄田佳純(かすみ)容疑者(34)が、退院後の「ご褒美」として娘と外食の約束をしていたことが25日、捜査関係者への取材で分かった。
入院前に強いられる絶食や体調不良の辛さから娘の目をそらすため、スマートフォンでこうしたメッセージを送り、娘の心理を巧みに操っていたとみられる。
大阪府警によると、娘は平成30年から令和5年2月までの間に、空腹によって起きるケトン性低血糖症などの症状で43回も入退院を繰り返し、縄田容疑者は保険金や共済金として計約570万円を受領していた。
捜査関係者によると、娘が今年1月22日に入院した際は、その3日前に学校給食を食べて以降、翌日は学校も欠席し、祖父母からもらったわずかな駄菓子を口にしただけだった。縄田容疑者が指示し、ほぼ絶食状態に置くことで意図的に体調不良に陥らせていた疑いがある。
この間の縄田容疑者と娘のスマホなどのやり取りを府警が解析したところ、娘に対し「退院したら、ご褒美でどこか食べに行こう」と激励するかのようなメッセージを送っていたことが分かった。
共済金詐取のために娘を入院させるという目的を遂げた後は、比較的自由に食事をとらせて体調を管理していたとみられ、学校の健康診断では、娘の身長や体重はいずれも正常値だったという。
空腹に勝る「見捨てられる恐怖」
もらったトマトは食べてもいいですか-。小学生の娘はわずかな食べ物を口にするのもためらい、まず母親の縄田容疑者に敬語で許可を仰いだ。育ち盛りの子供が食欲を我慢するというのは並大抵のことではないが、娘はかたくなに絶食の指示を守り続けていた。
9歳までの約5年間で入退院は40回以上。「小学2年のころから、急にママからピンク色の変な薬を飲まされて、げーする(ようになった)」。娘は府警などの聞き取りにこう説明した。捜査関係者によると、娘はある時期から食事を制限されるだけでなく、下剤も飲まされるようになり、体調不良で嘔吐(おうと)を繰り返した。
今年1月、絶食を強いられた末に入院する3日前のこと。娘は縄田容疑者のスマートフォンにこんなメッセージを送った。
《お菓子を食べていいですか》
《トマトもらったのは食べてもいいですか》
だが、縄田容疑者の返信は《やめとき》。その翌日、縄田容疑者が食事をしているのを横目に見た娘は、そのときの心境を後にこう語っている。「ママはもやしを食べていて『いいな』と思ったけど、怒られるから言わなかった」
2月になって娘は再び体調不良で入院。病院でも食事は控えるよう縄田容疑者からスマホのメッセージで指示されていた。その間のやり取りからは、娘が言うことを聞かずに「ごはん」を食べたと疑った縄田容疑者が、強い口調で心理的に追い詰めていく様子が見てとれる。
《ずっと病院でくらし》
《かえってこなくていいよ。うそつきやから》
娘の入院日数を稼ぐことで縄田容疑者が受け取った共済金や保険金は500万円以上。友人や交際相手を岩盤浴や旅行に誘っていたことが分かっている。
「幼い子供にとって親は絶対的存在。親から見捨てられるという恐怖が空腹に勝るため、服従するしかなくなる」。児童虐待に詳しい東京通信大の才村純名誉教授はこう指摘した。
縄田容疑者は娘と2人暮らしだった。娘は母親からの愛情に確信が持てず、「見捨てられるという不安を慢性的に抱えていたのではないか」と才村氏はみる。そうした強い不安感が母親の言うことに絶対服従する、特殊な親子関係につながった可能性があるという。
2月5日、入院中の娘の携帯電話を縄田容疑者が鳴らした。看護師がいる部屋で、娘は電話のスピーカー機能をオンにしたという。「食うなよ、寝とけ」。漏れ聞こえる異常な内容に看護師が気づき、ついに事件が発覚した。