関東地区に住む70代の佐藤俊男(仮名)さん夫妻は、老後資金として蓄えた3000万円を頭金に都心から2時間ほど離れたリゾート地に立つ、高級老人ホームに入居を決めた。
この施設は元々はリゾートホテルだったが、現在は福祉関連の事業を手がける法人が買い取り、高齢者が終身で入居できるよう運営しているとのことだった。月々11万円ほどの家賃で、食事込み。大浴場もあり、施設の福利厚生の一環として介護支援サービスを受けられるという。
入居当初は、豪華な食事に大浴場もあり満足していた佐藤さんだったが、入居後1年を過ぎたあたりから事態は急変する。経営者が交代になり、食事はもちろん、これまで受けていた”いたれり尽くせり”のサービスが、急に廃止されたのだ。仲の良かった施設スタッフに聞いたところ、スタッフ充ての文書には、目を疑うような内容が書かれていたという。
<今月も予算だけではお金が足りません。事務所には現金がほとんど残っておらず、入居者の飲み物さえも買えない状況です。
1人1人は良い人ばかりですが、入居者が全員が集まるとそれぞれの不満にみんなが賛同し、クレームに発展するので厄介です。入居者が自分の権利を主張するのは当然ですが、スタッフは経営状況を踏まえてこれに対応して頂きたい。
問題なのは、性格や人格が悪い入居者をどうするかです。その人たちについては、何か理由を付けて退居して頂きたいと思っていますが、なかなか明確な証拠が無くて困っています。複数の証人が必要ですので、皆さんが何か証拠を持っていたら教えて下さい。>
経営状況の悪化する現状や、入居者をあしざまに言う文言が並ぶ文書を目の当たりにし、俊男さんの運営会社に対する疑念は深まっていった。
Image by iStock
それが決定的になったのは、インターネット上で、施設が売りに出されているという書き込みを見たことだった。
入居者の間に動揺が広がったが、施設側に問いただしても、明確な説明はないばかりか、運営法人名義で「根拠のない噂を立てた入居者は一発で退居してもらう」と脅しの文句のような張り紙が食堂に張り出された。
しかし、俊男さんが施設と土地の登記簿を確認すると、いずれの所有権もこれまでの運営法人から聞いたこともない会社にすでに移転していた。
「彼らは、我々に何の相談もなく勝手に施設を売却して責任を逃れ、入居者たちを追い出そうとしている。いったいどういうつもりなのか、信用できない経営方針に怒りが収まりませんでした。
終の棲家だと思って、老後の蓄えの多くをつぎ込んでしまっているから、運営法人には当然何度も状況を尋ねたんです。だけど、その度にのらりくらりとかわされ、時には恫喝まがいの言葉を投げつけられる。
まったく納得はいってませんが、少しでもお金が帰って来るうちに手を打つしかないと出て行くことにしたんです」
俊男さんは頭金や前払いした家賃の返還が見込めるうちにと考え、入居からわずか2年半で施設を退居した。他の入居者も、経済的や体力的に余力のある人たちから、自主的に退居を決めていった。
Image by iStock
俊男さん夫婦は入居から3年以下で退居したので、契約では頭金の30%と前払いした家賃の残りの合計でおよそ1200万円が返還される計算だった。「施設側の運営の問題で出て行くハメになったので、頭金は全額を返金してほしいくらいでした。でも、契約は契約。このままここに暮らしていても状況は悪化する一方ですし、なによりも彼らにもう1円だって支払いたくない。納得はできませんが、1200万円が手元に残るだけでもと、この条件で了承したんです」退居の旨を伝えると交渉に応じた担当者は「部屋の修繕費用を見積もったら、すぐに手続きに入ります」と返金を了承していた。それが、徐々に「分割での返金を検討してもらえないか」、「あと1週間だけ」、「もう1週間だけ」と回答を先延ばしにするようになった。既に退居から2カ月ほど経ち、しびれを切らした俊男さんが「いい加減に具体的な返金の期日を示してほしい」と詰め寄ると、それまで穏やかな口調だった担当者は態度を一変させた。「あなたも施設内であらぬ噂を立てて、運営法人がもうダメだと入居者に触れ回ったメンバーの1人だ。そのせいで入居者がみんな不安になって、次々と施設を出て行く結果になった。いまの状況があるのはあなたのせいでもある」と語気を強めたという。 「こののち数回のやりとりの末に、この担当者からの連絡はぱったりと途絶え、メールを送っても返信さえしてこなくなりました。今も頭金などの返還金が戻ってくるかさえも分からない。私自身の判断が甘かったと言えばそれまでかもしれませんが、この年になってはとうてい勉強代とは割り切れない。若い頃ならやり直しもききますが、年金暮らしの私たちにとって、3000万円という金額がどれだけ大切なお金だったのか、運営法人の人たちには思いが至らないのでしょうか。一括で前払いした家賃も少ない額ではありません。今は少しでもお金が戻ってくるよう弁護士さんに相談して、法的手段を検討しています」俊男さんはこれまでの経緯を振り返りながらこう憤る。誰しもが願う「老後の悠々自適な生活」は儚い夢に終わるどころか、3000万円を失ってしまったのだ。さらに<【関連記事】60代夫が青ざめた…自宅を売って1000万円で「美しい農村」に引っ越し、家庭が崩壊した夫婦の悲劇>では、老後の選択の「思わぬ落とし穴」に陥った夫婦の実体験を明かしています。
俊男さん夫婦は入居から3年以下で退居したので、契約では頭金の30%と前払いした家賃の残りの合計でおよそ1200万円が返還される計算だった。
「施設側の運営の問題で出て行くハメになったので、頭金は全額を返金してほしいくらいでした。でも、契約は契約。このままここに暮らしていても状況は悪化する一方ですし、なによりも彼らにもう1円だって支払いたくない。納得はできませんが、1200万円が手元に残るだけでもと、この条件で了承したんです」
退居の旨を伝えると交渉に応じた担当者は「部屋の修繕費用を見積もったら、すぐに手続きに入ります」と返金を了承していた。
それが、徐々に「分割での返金を検討してもらえないか」、「あと1週間だけ」、「もう1週間だけ」と回答を先延ばしにするようになった。
既に退居から2カ月ほど経ち、しびれを切らした俊男さんが「いい加減に具体的な返金の期日を示してほしい」と詰め寄ると、それまで穏やかな口調だった担当者は態度を一変させた。
「あなたも施設内であらぬ噂を立てて、運営法人がもうダメだと入居者に触れ回ったメンバーの1人だ。そのせいで入居者がみんな不安になって、次々と施設を出て行く結果になった。いまの状況があるのはあなたのせいでもある」と語気を強めたという。
「こののち数回のやりとりの末に、この担当者からの連絡はぱったりと途絶え、メールを送っても返信さえしてこなくなりました。今も頭金などの返還金が戻ってくるかさえも分からない。私自身の判断が甘かったと言えばそれまでかもしれませんが、この年になってはとうてい勉強代とは割り切れない。若い頃ならやり直しもききますが、年金暮らしの私たちにとって、3000万円という金額がどれだけ大切なお金だったのか、運営法人の人たちには思いが至らないのでしょうか。一括で前払いした家賃も少ない額ではありません。今は少しでもお金が戻ってくるよう弁護士さんに相談して、法的手段を検討しています」俊男さんはこれまでの経緯を振り返りながらこう憤る。誰しもが願う「老後の悠々自適な生活」は儚い夢に終わるどころか、3000万円を失ってしまったのだ。さらに<【関連記事】60代夫が青ざめた…自宅を売って1000万円で「美しい農村」に引っ越し、家庭が崩壊した夫婦の悲劇>では、老後の選択の「思わぬ落とし穴」に陥った夫婦の実体験を明かしています。
「こののち数回のやりとりの末に、この担当者からの連絡はぱったりと途絶え、メールを送っても返信さえしてこなくなりました。今も頭金などの返還金が戻ってくるかさえも分からない。
私自身の判断が甘かったと言えばそれまでかもしれませんが、この年になってはとうてい勉強代とは割り切れない。
若い頃ならやり直しもききますが、年金暮らしの私たちにとって、3000万円という金額がどれだけ大切なお金だったのか、運営法人の人たちには思いが至らないのでしょうか。一括で前払いした家賃も少ない額ではありません。
今は少しでもお金が戻ってくるよう弁護士さんに相談して、法的手段を検討しています」
俊男さんはこれまでの経緯を振り返りながらこう憤る。誰しもが願う「老後の悠々自適な生活」は儚い夢に終わるどころか、3000万円を失ってしまったのだ。
さらに<【関連記事】60代夫が青ざめた…自宅を売って1000万円で「美しい農村」に引っ越し、家庭が崩壊した夫婦の悲劇>では、老後の選択の「思わぬ落とし穴」に陥った夫婦の実体験を明かしています。