保険金不正請求が横行していた中古車販売大手ビッグモーター(東京)で長年トップに君臨し、一代で業界大手に成長させた創業者が25日、記者会見で辞意を表明した。
同社では過剰な営業目標が課せられる一方、異常な降格人事が行われ、不正の内部告発も放置された。会見では組織ぐるみの関与を否定した兼重宏行社長(71)だが、企業統治(ガバナンス)の専門家は「経営陣が把握していないこと自体、内部統制ができていない証拠」と指弾する。
兼重氏は25日の会見で、一連の不正が行われた原因について「不合理な目標設定がノルマとなった」と認めつつ、「目標を勘違いした本部長が押しつけたことが不正につながった」との認識を示した。6月に外部弁護士の調査報告書を受けるまで不正は認識していなかったといい、責任の所在は板金・塗装(BP)部門にあるとした。
オーナー企業のトップである兼重氏は強いリーダーシップを発揮する一方、同社には現場の声を拾い上げようとしない?上意下達?の空気が広がっていたとされる。同社関係者は「不正の内部告発があっても、管理職と従業員の確執の問題とみなされ、露呈することはなかった」と振り返る。
報告書では「経営陣に盲従し忖度(そんたく)する歪な企業風土」の背景に同社の異常な人事制度を挙げた。営業成績を過度に重視した昇格人事について、兼重氏は「創業当初から抜擢(ばってき)人事」と説明。降格処分についても「まだ十分な力がないという場合はすぐ降格する」「復活した人間もいる」とこともなげに語った。
兼重氏は息子の兼重宏一副社長(35)とともに引責辞任するが、企業統治に詳しい久保利英明弁護士は「自分が辞めれば何とかなり、会社が存続すると考えているとしたら大きな間違い。経営陣が刷新されたとはいえない」と厳しい見方を示す。創業家が今も大半の株式を保有しており、株主構成に変化がないためだ。兼重氏は株主としても経営には口を出さないと明言したが、上意下達の社風や企業統治の改善は見通せていない。
久保利氏は「ガバナンス以前の問題として、取締役会も監査役会も機能しておらず、会社の体をなしていない」とも指摘しており、失墜した信頼の回復には組織のありようを根本から見直す必要がありそうだ。(大竹直樹)