もし、知らぬ間に我が家の周囲が撮影され、その動画が販売されたり拡散されていたら?……今どきはネットで撮影場所を特定し、その場所を訪問する様子を配信しようという人が出現する可能性があるので、気づいたら片手にスマホを持った実況者が連日、集まってくるかもしれない。いつの間にか自宅前がロケ地にされてしまった住人の戸惑いを、ライターの宮添優氏がレポートする。
【写真】ほぼ女性客のカフェで勝手に撮影 * * *「実際やられると本当に気持ち悪いですよ。そのうち何か危険なことに巻き込まれるのではないか、そしてうちの近くで何やってんだという怒りがわきます。結局、そのモヤモヤは最後まで消えませんでした」

あるトラブルがきっかけで、つい最近引っ越したばかりだという、都内在住のアパレル関連会社経営・尾形佑さん(仮名・30代)。旧宅は古い分譲賃貸マンションだったが、オーナーの許可を得た上で好みの内装にリノベーション済みだったという思い入れのある我が家。週末は職場の仲間や旧友を招いてのホームパーティを幾度も開き、さらに結婚を考えている女性と同棲を始めた矢先のことだった。そこまで整えていた住処を出なければならなくなり、尾形さん自身、想像以上のダメージを受けたと訴える。「借りていた部屋は角部屋で、すぐ横に非常階段がありました。そこで、違法なAV(アダルトビデオ)の撮影が行われていたんです。しかも、私の彼女はその連中とニアミスしていたようで、ふざけるなと思うと同時に、まさかうちの真横でこんなことが行われるなんて、と脱力し、同時に恐ろしくなりました。いろんな感情を整理できなくなり、引っ越すしかなかったというのが正直なところです」(尾形さん) 偶然にも、尾形さん宅を何度も訪れていた成人向けビジネスに明るい同僚が、件の動画を視聴したのがコトの発端だった。モザイク加工などが施されていない違法な動画をネットで見かけた友人は、背景に写り込む見覚えのある階段の作り、そこから望む景色が、尾形さん宅のマンション玄関からのものと同一だと気がついたのだという。「最初は、これお前ん家だろ?って軽いノリで言われて、うわ、マジだ!って。そのときは、よく気がついたなあなんて強がっていましたが、どこにもぶつけようのない怒りというか焦りというか……もうあまり覚えてないほど頭に血が上りパニックになっていたと思います。すぐ彼女に連絡を取って、変なことは起きていないか、最近おかしなことはなかったかと聞きました」(尾形さん) すると彼女は二ヶ月ほど前に、自宅前の廊下を行ったり来たりする中年男性と、女子高生に見える制服を着た女性の姿を目撃していたと無邪気に話したのである。実際、問題の映像にも、同じような姿の女性が出演していたから、疑惑は確信に変わった。階段は共有部分ではあるが、古いマンションのため外からの出入りが割と容易で、都心に近くセキュリティの甘い物件だと知って狙ったのかは不明だが、映像には階段横の自宅も映り込んでいてゾッとしたという。いうまでもなく、事前に撮影の連絡などはなく、その違法動画はネット上で今でも閲覧できる状態のままのようだ。「問題の撮影をしたらしいグループのアカウントを特定し、知人の弁護士に相談、もちろん警察にだって行きました。でも、問える罪はせいぜい不法侵入で、万一受理されてもしっかり捜査されるか、雲行きは相当怪しいものでした。実際やられてみないと、この恐怖はわからないんです」(尾形さん) まさに降って湧いたようなトラブルではあるが、ネット上では、映像がどこで撮影されたものかなどをおもしろ半分で調べるユーザーが必ず出現するため、その動向によっては何が起きるか分からない。防犯体制が緩いと同業者間で共有され、ゲリラスポットとして違法な撮影部隊が押し寄せる可能性も考えた。今ではネットミームとなっている映像のロケ地に、毎年ネットユーザーが集うようになってしまい、近隣住人が警察を呼ぶ騒動に発展した有名な事例も、尾形さんは知っていた。自宅が晒される、とりわけそれがネガティブなイメージを伴っていた場合の恐怖は計り知れない。 映像が今なおネット上で公開されていることが頭をよぎると、自分の生活が脅かされる不安に常に苛まされるようになった。もちろん、その動画の泣き寝入りは避けたいと考え、マンションの管理組合にこの件を告げたが「黙っていて欲しい」と念押しされ唖然とした。「住人の多くはこのマンションを購入されているし、敷地内でこんな事が起きているとなれば噂が広まって資産価値が低下するかもしれない。高齢者も多く、むやみに不安にさせるべきではないと。私は賃貸で借りていただけですから出て行けば住むが、住人は逃げられないんです」(尾形さん)女性客が多いカフェのテラス席で勝手に撮影 関西でも同様のトラブルが起きていた。大阪府内でカフェを営む伊東あゆみさん(仮名・20代)は憤りを隠さない。「カフェのテラス席で撮影が行われていると、SNSでお客さんからメッセージを頂いたんです。動画を見ましたが、確かにうちの店のテラス席で撮影されていて、周囲のお客さんに見えないように、わいせつな行為までしていました。しかも、同じ男性が、何度も、カップルを装って別の女性を連れてきていたんです」(伊東さん) 女性客が8割だというカフェで、白昼堂々撮影をやられてはたまったものではなく、噂が広まれば客離れは必至だ。例の男が過去に何度やってきたか、防犯カメラ動画を見返すなどして証拠を集めた。当時接客にあたった従業員の証言も揃え、営業妨害であることを訴えたものの、警察や会社の顧問弁護士の反応は冷ややかだった。「どんな罪に問えるのか難しい、ということでした。また、撮影され販売されていたらしい動画は違法なものだったようで、そんな動画を撮影している人たちですから、反社勢力の可能性だってあると言われました。そうなると、通報で報復されるかもしれないという怖さもありました」(伊東さん) 対抗策もないまま、あの男がやってこないか、伊東さんやスタッフはビクビクしながら営業活動を続けるしかなくなっているが、こうした現状について、成人向け動画のベテラン監督・間宮二郎さん(仮名・50代)が苦言を呈す。「こうした撮影トラブルは、インディーズとか同人モノと呼ばれる、プロではない人々による映像制作の現場で頻発しています。我々はほとんどの場合スタジオを使いますが、不要なトラブルを避けるためにも、外ロケの場合は必ず許可を取りますよ。彼らは経費削減のためなのか、許可も取らずゲリラ的に撮影する。夜景で有名な高級ホテル、子供もいるテーマパークや動物園など、やりたい放題。やられた側も気がつきにくく、気がついたとしても怖くて通報できない」(間宮さん) 筆者も、間宮さんが「目に余る動画」としてピックアップしたものを数本確認したが、映り込んだ親子連れの顔にモザイク処理がされていなかった。それだけでなく、親子が談笑する前でわいせつな内容のインタビューを行ったり、都内のターミナル駅内で、やはりわいせつな行為に及ぶ様子を映したものなど、まさにやりたい放題。中には、ホテル備品などを毀損する様子が映る場合もあり、自身で「証拠」を残しているような有様だった。「連中に法律を守れとか言っても無駄です。そもそも違法な動画作品を違法に販売しているくらいですから、聞くわけがない。一部の連中は、逮捕されても懲りずにやっている。どうしようもありません」(間宮さん) もちろん、ここで紹介したのはある種の特殊例かもしれないが、普通に生活していても、似たようなトラブルに巻き込まれてしまう例もある。都内在住の会社員・吉本留未さん(仮名・20代)は、同じマンション内の居住者がSNS上で大炎上したばかりに引っ越しを余儀なくされたという。「過激な発言で炎上したユーチューバーみたいな男の人が、偶然同じマンションだったんです。警察も何度もきたし、夜中や明け方に外で花火が鳴らされたり、うちのポストにもその男の人に関するチラシが入れられていたり…。マンション内で不法に撮影された映像までSNS上で見かけ、夜も眠れなくなり引っ越したんですよ…」(吉本さん) 誰に相談しても「引っ越すしかない」と言われるばかりだったと振り返る吉本さん。交通事故に遭うような不運な出来事だと諦めて、対処法を学ぶしかないとすればあまりにも理不尽という他ない。だが、情報発信の手段は日々簡単になってきており、こうしたトラブルがさらに頻発する日は近いだろう。
* * *「実際やられると本当に気持ち悪いですよ。そのうち何か危険なことに巻き込まれるのではないか、そしてうちの近くで何やってんだという怒りがわきます。結局、そのモヤモヤは最後まで消えませんでした」
あるトラブルがきっかけで、つい最近引っ越したばかりだという、都内在住のアパレル関連会社経営・尾形佑さん(仮名・30代)。旧宅は古い分譲賃貸マンションだったが、オーナーの許可を得た上で好みの内装にリノベーション済みだったという思い入れのある我が家。週末は職場の仲間や旧友を招いてのホームパーティを幾度も開き、さらに結婚を考えている女性と同棲を始めた矢先のことだった。そこまで整えていた住処を出なければならなくなり、尾形さん自身、想像以上のダメージを受けたと訴える。
「借りていた部屋は角部屋で、すぐ横に非常階段がありました。そこで、違法なAV(アダルトビデオ)の撮影が行われていたんです。しかも、私の彼女はその連中とニアミスしていたようで、ふざけるなと思うと同時に、まさかうちの真横でこんなことが行われるなんて、と脱力し、同時に恐ろしくなりました。いろんな感情を整理できなくなり、引っ越すしかなかったというのが正直なところです」(尾形さん)
偶然にも、尾形さん宅を何度も訪れていた成人向けビジネスに明るい同僚が、件の動画を視聴したのがコトの発端だった。モザイク加工などが施されていない違法な動画をネットで見かけた友人は、背景に写り込む見覚えのある階段の作り、そこから望む景色が、尾形さん宅のマンション玄関からのものと同一だと気がついたのだという。
「最初は、これお前ん家だろ?って軽いノリで言われて、うわ、マジだ!って。そのときは、よく気がついたなあなんて強がっていましたが、どこにもぶつけようのない怒りというか焦りというか……もうあまり覚えてないほど頭に血が上りパニックになっていたと思います。すぐ彼女に連絡を取って、変なことは起きていないか、最近おかしなことはなかったかと聞きました」(尾形さん)
すると彼女は二ヶ月ほど前に、自宅前の廊下を行ったり来たりする中年男性と、女子高生に見える制服を着た女性の姿を目撃していたと無邪気に話したのである。実際、問題の映像にも、同じような姿の女性が出演していたから、疑惑は確信に変わった。階段は共有部分ではあるが、古いマンションのため外からの出入りが割と容易で、都心に近くセキュリティの甘い物件だと知って狙ったのかは不明だが、映像には階段横の自宅も映り込んでいてゾッとしたという。いうまでもなく、事前に撮影の連絡などはなく、その違法動画はネット上で今でも閲覧できる状態のままのようだ。
「問題の撮影をしたらしいグループのアカウントを特定し、知人の弁護士に相談、もちろん警察にだって行きました。でも、問える罪はせいぜい不法侵入で、万一受理されてもしっかり捜査されるか、雲行きは相当怪しいものでした。実際やられてみないと、この恐怖はわからないんです」(尾形さん)
まさに降って湧いたようなトラブルではあるが、ネット上では、映像がどこで撮影されたものかなどをおもしろ半分で調べるユーザーが必ず出現するため、その動向によっては何が起きるか分からない。防犯体制が緩いと同業者間で共有され、ゲリラスポットとして違法な撮影部隊が押し寄せる可能性も考えた。今ではネットミームとなっている映像のロケ地に、毎年ネットユーザーが集うようになってしまい、近隣住人が警察を呼ぶ騒動に発展した有名な事例も、尾形さんは知っていた。自宅が晒される、とりわけそれがネガティブなイメージを伴っていた場合の恐怖は計り知れない。
映像が今なおネット上で公開されていることが頭をよぎると、自分の生活が脅かされる不安に常に苛まされるようになった。もちろん、その動画の泣き寝入りは避けたいと考え、マンションの管理組合にこの件を告げたが「黙っていて欲しい」と念押しされ唖然とした。
「住人の多くはこのマンションを購入されているし、敷地内でこんな事が起きているとなれば噂が広まって資産価値が低下するかもしれない。高齢者も多く、むやみに不安にさせるべきではないと。私は賃貸で借りていただけですから出て行けば住むが、住人は逃げられないんです」(尾形さん)
関西でも同様のトラブルが起きていた。大阪府内でカフェを営む伊東あゆみさん(仮名・20代)は憤りを隠さない。
「カフェのテラス席で撮影が行われていると、SNSでお客さんからメッセージを頂いたんです。動画を見ましたが、確かにうちの店のテラス席で撮影されていて、周囲のお客さんに見えないように、わいせつな行為までしていました。しかも、同じ男性が、何度も、カップルを装って別の女性を連れてきていたんです」(伊東さん)
女性客が8割だというカフェで、白昼堂々撮影をやられてはたまったものではなく、噂が広まれば客離れは必至だ。例の男が過去に何度やってきたか、防犯カメラ動画を見返すなどして証拠を集めた。当時接客にあたった従業員の証言も揃え、営業妨害であることを訴えたものの、警察や会社の顧問弁護士の反応は冷ややかだった。
「どんな罪に問えるのか難しい、ということでした。また、撮影され販売されていたらしい動画は違法なものだったようで、そんな動画を撮影している人たちですから、反社勢力の可能性だってあると言われました。そうなると、通報で報復されるかもしれないという怖さもありました」(伊東さん)
対抗策もないまま、あの男がやってこないか、伊東さんやスタッフはビクビクしながら営業活動を続けるしかなくなっているが、こうした現状について、成人向け動画のベテラン監督・間宮二郎さん(仮名・50代)が苦言を呈す。
「こうした撮影トラブルは、インディーズとか同人モノと呼ばれる、プロではない人々による映像制作の現場で頻発しています。我々はほとんどの場合スタジオを使いますが、不要なトラブルを避けるためにも、外ロケの場合は必ず許可を取りますよ。彼らは経費削減のためなのか、許可も取らずゲリラ的に撮影する。夜景で有名な高級ホテル、子供もいるテーマパークや動物園など、やりたい放題。やられた側も気がつきにくく、気がついたとしても怖くて通報できない」(間宮さん)
筆者も、間宮さんが「目に余る動画」としてピックアップしたものを数本確認したが、映り込んだ親子連れの顔にモザイク処理がされていなかった。それだけでなく、親子が談笑する前でわいせつな内容のインタビューを行ったり、都内のターミナル駅内で、やはりわいせつな行為に及ぶ様子を映したものなど、まさにやりたい放題。中には、ホテル備品などを毀損する様子が映る場合もあり、自身で「証拠」を残しているような有様だった。
「連中に法律を守れとか言っても無駄です。そもそも違法な動画作品を違法に販売しているくらいですから、聞くわけがない。一部の連中は、逮捕されても懲りずにやっている。どうしようもありません」(間宮さん)
もちろん、ここで紹介したのはある種の特殊例かもしれないが、普通に生活していても、似たようなトラブルに巻き込まれてしまう例もある。都内在住の会社員・吉本留未さん(仮名・20代)は、同じマンション内の居住者がSNS上で大炎上したばかりに引っ越しを余儀なくされたという。
「過激な発言で炎上したユーチューバーみたいな男の人が、偶然同じマンションだったんです。警察も何度もきたし、夜中や明け方に外で花火が鳴らされたり、うちのポストにもその男の人に関するチラシが入れられていたり…。マンション内で不法に撮影された映像までSNS上で見かけ、夜も眠れなくなり引っ越したんですよ…」(吉本さん)
誰に相談しても「引っ越すしかない」と言われるばかりだったと振り返る吉本さん。交通事故に遭うような不運な出来事だと諦めて、対処法を学ぶしかないとすればあまりにも理不尽という他ない。だが、情報発信の手段は日々簡単になってきており、こうしたトラブルがさらに頻発する日は近いだろう。