こんにちは。元ラブホ従業員の和田ハジメです。およそ6年もの間、渋谷区道玄坂にあるラブホテルにて受付業務および清掃業務に従事してきました。 ラブホの従業員と聞くとなんとなく暇そうな印象を抱く方も多いことかと思われますが、筆者が働いていたのは都内でも屈指の繁華街であり、なおかつ近隣他店と比較しても相当にリーズナブルな価格帯でお部屋を提供している激安店。
多少の繁閑差こそあれど、基本的にはせわしくお客様の応対に追われる日々を過ごしてきました。そして土地柄からか、“お行儀の悪い”お客様もかなりの頻度で来店され、トラブルを引き起こすこともしばしば……。
とはいえ、迷惑客が明確な悪意を持ってトラブルを起こすケースよりも、じつは“意図せずにトラブルを引き起こしてしまった”ケースの方がタチが悪かったりします。
そこで今回は、これまでのラブホ勤務で実際に起こった「トンデモ事件」のうちのひとつをお話をさせていただければと思います。
◆「120分」を選択した高齢男性
過去に一度、“デリバリー”利用で来店した方がプレイ中に心臓発作を起こしたケースに遭遇したことがあります。以下に詳細を記していきます。
ある日のこと。午前0時を少し過ぎたころに、どう見ても後期高齢者と思しきおじいさんが来店されました。おぼつかない足取りで受付まできた彼は、休憩コースの最長時間である「120分」を選択して入室。“欲”というものは案外衰えないものなんだなと感心したのを今でも覚えております。
ほどなくしてデリバリーの女性の方が到着し、おじいさんのいる客室へ。ここまでは普通の流れでした。
◆“デリバリー”の女性が足早に退室
「120分コースを選択したのだから、しばらくは退室しないだろうな」と筆者はぼんやりと考えながら、フロントで次のお客様を静かに待っておりました。
“お連れの方”が入室して20分ほど過ぎた頃でしょうか。突然、部屋を飛び出してくると、足早にホテルから去ろうとする姿を筆者は捉えました。
筆者が勤務していたラブホでは、防犯対策のために休憩利用の場合はペアでの同時退室をお願いしています。大慌てといった様子の女性を引き止めて同時退室の旨を伝えたところ、「ごめんなさい急いでいるので。連れは今着替え中で、じきに退室するはずです」と早口で言い、半ば筆者の制止を振り切るような形でホテルから出ていきました。
“どこか様子がおかしい”と感じた筆者は、おじいさんが入室している部屋まで見にいくことに。
◆ベッドの上で痙攣
「もしかしたら同時退室のルールを忘れているだけなのかもしれない、というよりむしろそうであってほしい」と考えながら、清掃しようとして誤って入室してしまったという“てい”で、勢いよくおじいさんがいる客室のドアを開けました。
なんと客室には、下半身にタオルを巻いたままベッドの上で痙攣しているおじいさんの姿が。
筆者は大慌てでおじいさんの容態を確認したのち(とはいえ救命に関する知識は皆無なので声掛けだけに留まりましたが)、119番に連絡をして救急隊員を待つことに。
10分ほどで救急隊員の方が駆けつけてくれたのですが、筆者にとってはその時間があまりにも長く感じました。
◆財布の中にはボロボロの紙切れが
このようなケースに遭遇してしまった“運”の悪さ、自身の力でおじいさんを助けることができない不甲斐なさ、デリバリー女性の薄情さ……。
様々な感情がごちゃ混ぜになり、筆者自身も倒れそうなほどに疲弊してしまっておりました。

その後、おじいさんの身元を調べるために彼の財布を(無許可で)見させていただきました。財布の中に入っていたのは数万円の現金とカード類、それとボロボロの紙切れだけ。四つ折りにされた紙切れを開くと、自宅の電話番号と、その脇には妻の名前が記載されておりました。
◆“夫”がラブホにいた事実を伝えるかどうか…
筆者と救急隊員は困惑しました。妻に「おじいさんがラブホで心臓発作を起こしたという事実」を伝えるか否か。
仮におじいさんが助かったとしても、これからの彼の夫婦関係に亀裂が生じるかもわからない。救急隊員の方と相談した結果、“おじいさんは路上で倒れ、筆者が第一発見者として119番に連絡”と事実を捏造する形で妻に連絡することに。
妻への連絡とそれ以降のケアは全て救急隊員の方にお任せし、この騒動はひとまず終了という形になりました。
もしもデリバリーの方がこの記事を読んでくださっているのなら、元スタッフとして一言言わせていただきたい。相手の体調に変化が生じたら、逃げずに必ずスタッフに連絡してください。こちらが全て対処いたしますので……。
<文/和田ハジメ>
―[和田さんのラブホよもやま話]―