◆昼食中の校内放送で『君が代』ネット上で議論に 5月29日、大分県の中学校での出来事。昼食中の校内放送で『君が代』を流したところ、教師から「ふさわしくない」と指導されたとのニュースが報じられました。指導を受けた生徒の一人が体調不良を訴え早退したという事実も判明し、ネットがざわついています。
基本的にポップス系の選曲が中心とのことですが、その日は時間が余ったために放送を担当する広報委員会の生徒の判断で『君が代』を流したのだそう。
学校は<生徒が悪ふざけで『君が代』を流したわけではないと思われるが、昼食の時間はふさわしくない。教師の指導も適切だった。>とコメントを出しています。(OBS大分放送 2023年5月30日)
こうした学校側の対応について、ネット上では大半が疑問に思っているようでした。“教師なら昼食時にふさわしくないとする理由を説明しなければいけない”とか、大分県特有の事情として日教組の強さを指摘する声もあり、思想信条の問題からNGを出したのではないかと推測する人もいました。
確かにいきなり放送室にやってきて“その音楽を止めなさい”と叱られたらびっくりするでしょう。一方、ごはんを食べながらの『君が代』も妙と言えば妙です。もしかしたら先生も“国歌に対して礼を欠く行為だ”と思ったのかもしれない。
詳細が判明していないため、断定的なことは言えません。いずれにせよいまだに国歌『君が代』が議論を呼ぶシチュエーションが起こり得るのだと再認識させられます。
◆世界各国でも同様のケースが
さて、こうしたニュースがあると、“日本の教育から愛国心が失われている”と嘆く声が多くあがりますが、世界各国でも同様のケースが見受けられるのです。
2018年にはアメリカ、カリフォルニア州の高校が壮行会で国歌『星条旗よ永遠なれ』を演奏しないと決めました。
歌詞の中に奴隷制を肯定するような部分(No refuge could save the hireling and slave from the terror of flight and or the gloom of the grave. 敗走の恐怖と死の闇の前ではどんな慰めも傭兵や奴隷達の救いたりえず サイト『世界の民謡・童謡』による訳)を問題視したのです。全米有色人種地位向上協議会(NAACP)からの訴えもあり、人種差別に抗議するメッセージとしての決断でした。
生徒の反応は様々。「式典で国歌が流れないことは言われるまで全く気づかなかった。そもそもそんなことを気にするのは年寄りだけでしょ」という声の一方、「この判断に至った経緯や思想は理解できるけど、でも国のために戦って命を落とした人たちを学校をあげて称えることの方がもっと大事だと思う」と、国歌を歌わないことに疑問を投げかける声もありました。(『THE CALIFORNIAN』2018年2月9日、『KTVU FOX2』2018年2月13日 筆者訳、まとめ)
◆オーストラリアでも…
同様のケースはオーストラリアでも。国歌『進め 美しのオーストラリア』を歌わなくなっているのです。なかには、歌詞が先住民族に対して攻撃的であると教わり、「オーストラリアは人種差別主義の国だ」と親に話した子供もいたといいます。こうした話が保護者から保守系のマーク・レイサム元議員に伝わり、議論を呼んだのです。
レイサム氏は学校が国家の尊厳を正しく教えていないことに不満を漏らし、その理由としてオーストラリア首都特別地域(ACT)特有の事情が働いていると指摘しています。特別地域内の学校には独自に裁量権があり、教育内容が政府の意向に左右されないという背景があるのです。

レイサム氏はこう語り、国歌を拒否する学校に対してターンブル政権(当時)が資金を拠出してきたことに疑問を投げかけていました。
◆大分県でのケースと異なるのは「理由が明示されている」こと
このように、国歌をめぐってはいまも世界の各地で賛否両論があります。ただ、大分県のケースと違うのは、否定する側から何が問題であるのかがはっきりと明示されていることです。“私はこういう理由で国歌を拒否する”と言っている。
それに対して、国歌を尊重すべきだと考えている人たちから反対意見が出てくる。カリフォルニアの高校生のコメントからも、そうした健全性がうかがえます。
だから、ただお昼ごはんにふさわしくないとしか言わず、理由を説明しなかった先生や、それを認めてしまった中学校には問題があると思うのです。
『君が代』への思想的な立場どうこうではなく、議論することすら許さない状況にしてしまったからです。
“先生は本当にお昼ごはんにふさわしくないと思うから『君が代』はやめなさいと言ったんだろうか?”
筆者が中学生なら、こう思うでしょう。
文/石黒隆之