女性には再婚禁止期間(離婚後100日間は再婚できない)があったのをご存知ですか? これを廃止する法案が、令和4年12月10日国会で成立しました。ただし、施行は令和6年4月1日からなので、現時点で女性が離婚をしたら、新しい相手と再婚するには100日間を経過しないといけないのです。 仲人をしながら婚活現場に関わる筆者が目の当たりにしている婚活事情を、さまざまなテーマ別に考えていく連載。今回は、この再婚禁止期間施行前に、100日を待たずして何とか再婚しようと奮闘した59歳の女性の話です。【画像】離婚理由ベスト10(家庭裁判所調べ)、法律が認める離婚要因ほか一覧表モラハラ夫と24年の結婚生活に疲れ果て えみこさん(59歳、仮名)は、結婚生活24年目に離婚をしました。「結婚24年と言っても、最後の10年は仮面夫婦でした。元夫は些細なことでキレる人。キレると、大声で私に罵詈雑言を浴びせながら、物にあたり散らし、部屋をメチャクチャにしてしまうんです。結婚当初からそうでした。ただ、私への肉体的暴力はなかったので、私が愛情をかけて彼に接していれば、いつかはその性格が直っていくのではないかと思っていました」

ところが、キレて暴言を吐きながら暴れる性格は一向に直らず、そのうちえみこさんは妊娠、出産をします。「子どもが授かったことはうれしかったし、子育ては楽しかった。でも、元夫がキレて暴れるのは日常茶飯事のことで、いっこうに改善されない。子どもが中1のときだったでしょうか。ある事でキレた元夫が、『この役立たずが。死ね、死ね、死ねー』と、“死ね”を大声で連呼されたんです。そのとき、“もうこの結婚生活は終わりにしよう”と離婚を決意しました」 ただ当時、子どもはまだ中学生。これから高校受験、大学受験があるし、入学したら学費もかかる。「元夫は好きなもの、愛するものへの執着が驚くほど強く、とにかく子煩悩でした。もし離婚となったら、絶対に子どもは手放さない。そうなると裁判になる。裁判で子どもを取り合うことで、子どもに精神的不安を与えたくなかった。また、弁護士を頼めば大きなお金もかかる。それならば、もう少し私が我慢をして、子どもが大学に入ったら行動を起こそうと思いました」 そして、子どもが大学に入った年に、えみこさんは家を出ました。そこから別居して1年、59歳になりました。そんなときに、再婚したい相手に出会ったのです。すぐにでも再婚したいのに立ちはだかる100日の壁「仕事がらみのイベントで出会った57歳の男性でした。彼も離婚経験者で、15歳になる男の子を育てていました。何度か食事をしているうちに、恋愛関係になりました。出会ったときに、『私には別居している夫がいる』ことを伝えていましが、それでも、『結婚を前提に真剣に付き合ってほしい』と言ってくださったんです。私も、穏やかで気取らない彼の人柄に触れているうちに、“残りの人生をこの人と一緒に過ごしたい”と思うようになりました」 “この男性を逃したら後悔する”と思ったえみこさんは、離婚に向けての行動を起こします。「揉めたくなかったので、弁護士を立てました。財産分与も慰謝料も年金分割も全て放棄。籍だけ抜いてほしいという条件でした。別居も1年を過ぎていましたし、お金の要求もなかったからか、元夫はあっさりと離婚を承諾しました」 離婚届を出したのが3月28日。そこから、1日も早く再婚したかったのですが、そこで立ちはだかったのが、再婚禁止期間でした。 ただ調べてみると、令和4年12月10日に再婚禁止期間が廃止される法案が、国会で成立したことがわかりました。ところが施行は令和6年4月1日なので、現時点では100日を待たないと、再婚ができませんでした。 そもそもなぜ女性にだけ再婚禁止期間が設けられているのか? それは、もし女性が妊娠をしていて出産をしたときの父親問題です。民法で、『離婚から300日以内に出産した子どもは、離婚前の夫の子と推定される』と定められているのです。 女性が離婚した翌日に妊娠したら、その子どもが新しい夫との間にできた子でも、300日以内に生まれてしまうので、法律上では元夫の子になってしまう。 では、なぜ再婚禁止期間が廃止されたかといえば、現在は医学が発達し、DNA鑑定などでも親子の証明ができる。また妊娠しているかどうかも、検査の精度が上がったためにかなりの初期段階で判定が可能になったからだそうです。 とはいえ、施工されるのは令和6年の4月1日ですから、現時点でえみこさんは100日待たないといけません。「ただネットで調べたら100日以内に入籍できる抜け道もあったんですね」 その抜け道とは、この7つでした。1. 離婚したときに妊娠していなかったことがわかる証拠がある場合2. 離婚前から妊娠していて、離婚後に出産した場合(ただこの場合は、再婚していても、子どもは前夫の子どもとなる)3. 離婚した前の夫と再婚する場合4. 高齢で、妊娠の可能性がない場合5. 夫が失踪宣言を受けた場合6. 夫の生死が3年以上不明で裁判離婚した場合7. 離婚後に避妊手術を受け、妊娠不能の意志の診断書を添えて届出した場合 えみこさんは、59歳、すでに閉経していたので妊娠する可能性はゼロ。4番に該当すると思ったのです。そこで、念のために役所の戸籍担当課に電話に問い合わせをしてみました。「そうしたら、『高齢の定義は、65歳から』だと言うじゃありませんか! となると、1番の“離婚したときに妊娠していないことを証明する”しかありませんでした」 またもネットで検索し、妊娠していないことを証明する診断書(不懐胎証明書)を産婦人科で出してもらえば良いことがわかりました。「そこからはもう、笑い話のような展開でしたよ」診断書をもらうのにこんなにお金がかかるの? まずは近所の産婦人科に出向いて、受付で、事情を話しました。「“離婚後100日以内に再婚をしたいので、妊娠していないことを証明する診断書が欲しい”と。この年齢になっての再婚。しかも、もう生理もないのに、『妊娠していないことの証明書を出してください』なんて言うのは、さすがに恥ずかしかったですよ(笑)」 えみこさんの言葉を聞いて、看護師さんは、ちょっと申し訳なさそうに言いました。「診断書を出すには尿検査をしていただくんですが、まずは初診料が2820円、尿検査が2500円、先生に書いていただく診断書が5500円、合計1万820円になりますが、大丈夫ですか?」 金額を聞いて、えみこさんは、びっくり。 “ひぇ~、妊娠していないのがわかりきっているのに、1万円以上のムダ金を使うのか。しかも来年の4月1日を過ぎたら、こんな検査しなくていいのに”と心の中で思ったそうです。しかし、診断書がなければ、現時点では100日以内の再婚はできないので、致し方ありません。「はい、大丈夫です」 すると、尿検査を受けるにあたっての問診票を渡されました。そもそもその問診票は、妊娠している可能性のある女性たちが書くためのもの。「“最終月経日がいつか”を記入する欄があって。どうしようかと思いましたが、月日なんて忘却の彼方。仕方ないから、“52歳のとき”と記入しました(笑)」 その後、紙コップを渡されトイレに行きました。えみこさんは採尿し、トイレの壁に設置されていた小窓にそのカップを入れました。 そこから待つこと20分、名前を呼ばれて診察室に入って行きました。えみこさんは着席してから言いました。「私、59歳なので妊娠できるはずもないのですが‥‥」 すると、問診票と検査結果の書類を見ていた医師が、微笑みながら言いました。「まあ、お役所仕事っていうのはねぇ。あ、でも再婚なさるんですね。おめでとうございます。不懐胎の診断書は出しますよ」「ありがとうございます」 えみこさんは、ペコリとお辞儀をして、診察室を出ました。 そして、受付で診断書を受け取り、1万820円を支払って、産婦人科を後にしたのでした。いろいろな問題をはらむ再婚禁止100日という期間「今回、100日以内に再婚する抜け道がないか、いろんなサイトを検索したんですが、“離婚前に再婚したいと思っている相手の子どもを妊娠してしまった。離婚後に出産しても、戸籍上は元夫の子どもになってしまう”と悩んでいる女性たちが大勢いるのには、びっくりしました」 現段階では、離婚してから300日以内に生まれた子どもは、元夫の子どもに法律上なるわけですが、その場合は、出生届を出してから“摘出否認”と言う手続きを取ることになります。その手続きは、女性側はできず、元夫に“摘出否認”の手続きを出してもらうようにお願いしなくてはいけません。 離婚したら、女性側は“もう元夫とは関わりたくない”と思うでしょうし、男性側は“他の男との間にできた子どもの否認手続きをする”のは、心地よくないはずです。ただこれも法律上、踏まなくてはいけない手続きです。「まあ、私はもう生理が上がっちゃってるんで、妊娠云々の面倒なことには巻き込まれることはなかったんですけど。それに、診断書の10820円は高くても、100日待たず離婚後すぐに再婚できたので、今は幸せですよ」 えみこさんは、笑ってこう言いました。 離婚後すぐに再婚したいと思っていた女性たちを悩ませていた、再婚禁止期間も廃止されるまで1年を切りました。でも、法案が通ったのが令和4年12月10日、施行が令和6年4月1日とは、施行まで、ずいぶん時間がかります。 本当に、お役所仕事ってのはねぇ~(笑)。鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。新刊『100日で結婚』(星海社)好評発売中。公式サイト『最短結婚ナビ』 YouTube『仲人はミタチャンネル』
女性には再婚禁止期間(離婚後100日間は再婚できない)があったのをご存知ですか? これを廃止する法案が、令和4年12月10日国会で成立しました。ただし、施行は令和6年4月1日からなので、現時点で女性が離婚をしたら、新しい相手と再婚するには100日間を経過しないといけないのです。
【画像】離婚理由ベスト10(家庭裁判所調べ)、法律が認める離婚要因ほか一覧表モラハラ夫と24年の結婚生活に疲れ果て えみこさん(59歳、仮名)は、結婚生活24年目に離婚をしました。「結婚24年と言っても、最後の10年は仮面夫婦でした。元夫は些細なことでキレる人。キレると、大声で私に罵詈雑言を浴びせながら、物にあたり散らし、部屋をメチャクチャにしてしまうんです。結婚当初からそうでした。ただ、私への肉体的暴力はなかったので、私が愛情をかけて彼に接していれば、いつかはその性格が直っていくのではないかと思っていました」

ところが、キレて暴言を吐きながら暴れる性格は一向に直らず、そのうちえみこさんは妊娠、出産をします。「子どもが授かったことはうれしかったし、子育ては楽しかった。でも、元夫がキレて暴れるのは日常茶飯事のことで、いっこうに改善されない。子どもが中1のときだったでしょうか。ある事でキレた元夫が、『この役立たずが。死ね、死ね、死ねー』と、“死ね”を大声で連呼されたんです。そのとき、“もうこの結婚生活は終わりにしよう”と離婚を決意しました」 ただ当時、子どもはまだ中学生。これから高校受験、大学受験があるし、入学したら学費もかかる。「元夫は好きなもの、愛するものへの執着が驚くほど強く、とにかく子煩悩でした。もし離婚となったら、絶対に子どもは手放さない。そうなると裁判になる。裁判で子どもを取り合うことで、子どもに精神的不安を与えたくなかった。また、弁護士を頼めば大きなお金もかかる。それならば、もう少し私が我慢をして、子どもが大学に入ったら行動を起こそうと思いました」 そして、子どもが大学に入った年に、えみこさんは家を出ました。そこから別居して1年、59歳になりました。そんなときに、再婚したい相手に出会ったのです。すぐにでも再婚したいのに立ちはだかる100日の壁「仕事がらみのイベントで出会った57歳の男性でした。彼も離婚経験者で、15歳になる男の子を育てていました。何度か食事をしているうちに、恋愛関係になりました。出会ったときに、『私には別居している夫がいる』ことを伝えていましが、それでも、『結婚を前提に真剣に付き合ってほしい』と言ってくださったんです。私も、穏やかで気取らない彼の人柄に触れているうちに、“残りの人生をこの人と一緒に過ごしたい”と思うようになりました」 “この男性を逃したら後悔する”と思ったえみこさんは、離婚に向けての行動を起こします。「揉めたくなかったので、弁護士を立てました。財産分与も慰謝料も年金分割も全て放棄。籍だけ抜いてほしいという条件でした。別居も1年を過ぎていましたし、お金の要求もなかったからか、元夫はあっさりと離婚を承諾しました」 離婚届を出したのが3月28日。そこから、1日も早く再婚したかったのですが、そこで立ちはだかったのが、再婚禁止期間でした。 ただ調べてみると、令和4年12月10日に再婚禁止期間が廃止される法案が、国会で成立したことがわかりました。ところが施行は令和6年4月1日なので、現時点では100日を待たないと、再婚ができませんでした。 そもそもなぜ女性にだけ再婚禁止期間が設けられているのか? それは、もし女性が妊娠をしていて出産をしたときの父親問題です。民法で、『離婚から300日以内に出産した子どもは、離婚前の夫の子と推定される』と定められているのです。 女性が離婚した翌日に妊娠したら、その子どもが新しい夫との間にできた子でも、300日以内に生まれてしまうので、法律上では元夫の子になってしまう。 では、なぜ再婚禁止期間が廃止されたかといえば、現在は医学が発達し、DNA鑑定などでも親子の証明ができる。また妊娠しているかどうかも、検査の精度が上がったためにかなりの初期段階で判定が可能になったからだそうです。 とはいえ、施工されるのは令和6年の4月1日ですから、現時点でえみこさんは100日待たないといけません。「ただネットで調べたら100日以内に入籍できる抜け道もあったんですね」 その抜け道とは、この7つでした。1. 離婚したときに妊娠していなかったことがわかる証拠がある場合2. 離婚前から妊娠していて、離婚後に出産した場合(ただこの場合は、再婚していても、子どもは前夫の子どもとなる)3. 離婚した前の夫と再婚する場合4. 高齢で、妊娠の可能性がない場合5. 夫が失踪宣言を受けた場合6. 夫の生死が3年以上不明で裁判離婚した場合7. 離婚後に避妊手術を受け、妊娠不能の意志の診断書を添えて届出した場合 えみこさんは、59歳、すでに閉経していたので妊娠する可能性はゼロ。4番に該当すると思ったのです。そこで、念のために役所の戸籍担当課に電話に問い合わせをしてみました。「そうしたら、『高齢の定義は、65歳から』だと言うじゃありませんか! となると、1番の“離婚したときに妊娠していないことを証明する”しかありませんでした」 またもネットで検索し、妊娠していないことを証明する診断書(不懐胎証明書)を産婦人科で出してもらえば良いことがわかりました。「そこからはもう、笑い話のような展開でしたよ」診断書をもらうのにこんなにお金がかかるの? まずは近所の産婦人科に出向いて、受付で、事情を話しました。「“離婚後100日以内に再婚をしたいので、妊娠していないことを証明する診断書が欲しい”と。この年齢になっての再婚。しかも、もう生理もないのに、『妊娠していないことの証明書を出してください』なんて言うのは、さすがに恥ずかしかったですよ(笑)」 えみこさんの言葉を聞いて、看護師さんは、ちょっと申し訳なさそうに言いました。「診断書を出すには尿検査をしていただくんですが、まずは初診料が2820円、尿検査が2500円、先生に書いていただく診断書が5500円、合計1万820円になりますが、大丈夫ですか?」 金額を聞いて、えみこさんは、びっくり。 “ひぇ~、妊娠していないのがわかりきっているのに、1万円以上のムダ金を使うのか。しかも来年の4月1日を過ぎたら、こんな検査しなくていいのに”と心の中で思ったそうです。しかし、診断書がなければ、現時点では100日以内の再婚はできないので、致し方ありません。「はい、大丈夫です」 すると、尿検査を受けるにあたっての問診票を渡されました。そもそもその問診票は、妊娠している可能性のある女性たちが書くためのもの。「“最終月経日がいつか”を記入する欄があって。どうしようかと思いましたが、月日なんて忘却の彼方。仕方ないから、“52歳のとき”と記入しました(笑)」 その後、紙コップを渡されトイレに行きました。えみこさんは採尿し、トイレの壁に設置されていた小窓にそのカップを入れました。 そこから待つこと20分、名前を呼ばれて診察室に入って行きました。えみこさんは着席してから言いました。「私、59歳なので妊娠できるはずもないのですが‥‥」 すると、問診票と検査結果の書類を見ていた医師が、微笑みながら言いました。「まあ、お役所仕事っていうのはねぇ。あ、でも再婚なさるんですね。おめでとうございます。不懐胎の診断書は出しますよ」「ありがとうございます」 えみこさんは、ペコリとお辞儀をして、診察室を出ました。 そして、受付で診断書を受け取り、1万820円を支払って、産婦人科を後にしたのでした。いろいろな問題をはらむ再婚禁止100日という期間「今回、100日以内に再婚する抜け道がないか、いろんなサイトを検索したんですが、“離婚前に再婚したいと思っている相手の子どもを妊娠してしまった。離婚後に出産しても、戸籍上は元夫の子どもになってしまう”と悩んでいる女性たちが大勢いるのには、びっくりしました」 現段階では、離婚してから300日以内に生まれた子どもは、元夫の子どもに法律上なるわけですが、その場合は、出生届を出してから“摘出否認”と言う手続きを取ることになります。その手続きは、女性側はできず、元夫に“摘出否認”の手続きを出してもらうようにお願いしなくてはいけません。 離婚したら、女性側は“もう元夫とは関わりたくない”と思うでしょうし、男性側は“他の男との間にできた子どもの否認手続きをする”のは、心地よくないはずです。ただこれも法律上、踏まなくてはいけない手続きです。「まあ、私はもう生理が上がっちゃってるんで、妊娠云々の面倒なことには巻き込まれることはなかったんですけど。それに、診断書の10820円は高くても、100日待たず離婚後すぐに再婚できたので、今は幸せですよ」 えみこさんは、笑ってこう言いました。 離婚後すぐに再婚したいと思っていた女性たちを悩ませていた、再婚禁止期間も廃止されるまで1年を切りました。でも、法案が通ったのが令和4年12月10日、施行が令和6年4月1日とは、施行まで、ずいぶん時間がかります。 本当に、お役所仕事ってのはねぇ~(笑)。鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。新刊『100日で結婚』(星海社)好評発売中。公式サイト『最短結婚ナビ』 YouTube『仲人はミタチャンネル』
えみこさん(59歳、仮名)は、結婚生活24年目に離婚をしました。
「結婚24年と言っても、最後の10年は仮面夫婦でした。元夫は些細なことでキレる人。キレると、大声で私に罵詈雑言を浴びせながら、物にあたり散らし、部屋をメチャクチャにしてしまうんです。結婚当初からそうでした。ただ、私への肉体的暴力はなかったので、私が愛情をかけて彼に接していれば、いつかはその性格が直っていくのではないかと思っていました」
ところが、キレて暴言を吐きながら暴れる性格は一向に直らず、そのうちえみこさんは妊娠、出産をします。
「子どもが授かったことはうれしかったし、子育ては楽しかった。でも、元夫がキレて暴れるのは日常茶飯事のことで、いっこうに改善されない。子どもが中1のときだったでしょうか。ある事でキレた元夫が、『この役立たずが。死ね、死ね、死ねー』と、“死ね”を大声で連呼されたんです。そのとき、“もうこの結婚生活は終わりにしよう”と離婚を決意しました」
ただ当時、子どもはまだ中学生。これから高校受験、大学受験があるし、入学したら学費もかかる。
「元夫は好きなもの、愛するものへの執着が驚くほど強く、とにかく子煩悩でした。もし離婚となったら、絶対に子どもは手放さない。そうなると裁判になる。裁判で子どもを取り合うことで、子どもに精神的不安を与えたくなかった。また、弁護士を頼めば大きなお金もかかる。それならば、もう少し私が我慢をして、子どもが大学に入ったら行動を起こそうと思いました」
そして、子どもが大学に入った年に、えみこさんは家を出ました。そこから別居して1年、59歳になりました。そんなときに、再婚したい相手に出会ったのです。
「仕事がらみのイベントで出会った57歳の男性でした。彼も離婚経験者で、15歳になる男の子を育てていました。何度か食事をしているうちに、恋愛関係になりました。出会ったときに、『私には別居している夫がいる』ことを伝えていましが、それでも、『結婚を前提に真剣に付き合ってほしい』と言ってくださったんです。私も、穏やかで気取らない彼の人柄に触れているうちに、“残りの人生をこの人と一緒に過ごしたい”と思うようになりました」
“この男性を逃したら後悔する”と思ったえみこさんは、離婚に向けての行動を起こします。
「揉めたくなかったので、弁護士を立てました。財産分与も慰謝料も年金分割も全て放棄。籍だけ抜いてほしいという条件でした。別居も1年を過ぎていましたし、お金の要求もなかったからか、元夫はあっさりと離婚を承諾しました」
離婚届を出したのが3月28日。そこから、1日も早く再婚したかったのですが、そこで立ちはだかったのが、再婚禁止期間でした。
ただ調べてみると、令和4年12月10日に再婚禁止期間が廃止される法案が、国会で成立したことがわかりました。ところが施行は令和6年4月1日なので、現時点では100日を待たないと、再婚ができませんでした。
そもそもなぜ女性にだけ再婚禁止期間が設けられているのか?
それは、もし女性が妊娠をしていて出産をしたときの父親問題です。民法で、『離婚から300日以内に出産した子どもは、離婚前の夫の子と推定される』と定められているのです。
女性が離婚した翌日に妊娠したら、その子どもが新しい夫との間にできた子でも、300日以内に生まれてしまうので、法律上では元夫の子になってしまう。
では、なぜ再婚禁止期間が廃止されたかといえば、現在は医学が発達し、DNA鑑定などでも親子の証明ができる。また妊娠しているかどうかも、検査の精度が上がったためにかなりの初期段階で判定が可能になったからだそうです。
とはいえ、施工されるのは令和6年の4月1日ですから、現時点でえみこさんは100日待たないといけません。
「ただネットで調べたら100日以内に入籍できる抜け道もあったんですね」
その抜け道とは、この7つでした。
1. 離婚したときに妊娠していなかったことがわかる証拠がある場合2. 離婚前から妊娠していて、離婚後に出産した場合(ただこの場合は、再婚していても、子どもは前夫の子どもとなる)3. 離婚した前の夫と再婚する場合4. 高齢で、妊娠の可能性がない場合5. 夫が失踪宣言を受けた場合6. 夫の生死が3年以上不明で裁判離婚した場合7. 離婚後に避妊手術を受け、妊娠不能の意志の診断書を添えて届出した場合
えみこさんは、59歳、すでに閉経していたので妊娠する可能性はゼロ。4番に該当すると思ったのです。そこで、念のために役所の戸籍担当課に電話に問い合わせをしてみました。
「そうしたら、『高齢の定義は、65歳から』だと言うじゃありませんか! となると、1番の“離婚したときに妊娠していないことを証明する”しかありませんでした」
またもネットで検索し、妊娠していないことを証明する診断書(不懐胎証明書)を産婦人科で出してもらえば良いことがわかりました。
「そこからはもう、笑い話のような展開でしたよ」
まずは近所の産婦人科に出向いて、受付で、事情を話しました。
「“離婚後100日以内に再婚をしたいので、妊娠していないことを証明する診断書が欲しい”と。この年齢になっての再婚。しかも、もう生理もないのに、『妊娠していないことの証明書を出してください』なんて言うのは、さすがに恥ずかしかったですよ(笑)」
えみこさんの言葉を聞いて、看護師さんは、ちょっと申し訳なさそうに言いました。
「診断書を出すには尿検査をしていただくんですが、まずは初診料が2820円、尿検査が2500円、先生に書いていただく診断書が5500円、合計1万820円になりますが、大丈夫ですか?」
金額を聞いて、えみこさんは、びっくり。
“ひぇ~、妊娠していないのがわかりきっているのに、1万円以上のムダ金を使うのか。しかも来年の4月1日を過ぎたら、こんな検査しなくていいのに”と心の中で思ったそうです。しかし、診断書がなければ、現時点では100日以内の再婚はできないので、致し方ありません。
「はい、大丈夫です」
すると、尿検査を受けるにあたっての問診票を渡されました。そもそもその問診票は、妊娠している可能性のある女性たちが書くためのもの。
「“最終月経日がいつか”を記入する欄があって。どうしようかと思いましたが、月日なんて忘却の彼方。仕方ないから、“52歳のとき”と記入しました(笑)」
その後、紙コップを渡されトイレに行きました。えみこさんは採尿し、トイレの壁に設置されていた小窓にそのカップを入れました。
そこから待つこと20分、名前を呼ばれて診察室に入って行きました。えみこさんは着席してから言いました。
「私、59歳なので妊娠できるはずもないのですが‥‥」
すると、問診票と検査結果の書類を見ていた医師が、微笑みながら言いました。
「まあ、お役所仕事っていうのはねぇ。あ、でも再婚なさるんですね。おめでとうございます。不懐胎の診断書は出しますよ」
「ありがとうございます」
えみこさんは、ペコリとお辞儀をして、診察室を出ました。
そして、受付で診断書を受け取り、1万820円を支払って、産婦人科を後にしたのでした。
「今回、100日以内に再婚する抜け道がないか、いろんなサイトを検索したんですが、“離婚前に再婚したいと思っている相手の子どもを妊娠してしまった。離婚後に出産しても、戸籍上は元夫の子どもになってしまう”と悩んでいる女性たちが大勢いるのには、びっくりしました」
現段階では、離婚してから300日以内に生まれた子どもは、元夫の子どもに法律上なるわけですが、その場合は、出生届を出してから“摘出否認”と言う手続きを取ることになります。その手続きは、女性側はできず、元夫に“摘出否認”の手続きを出してもらうようにお願いしなくてはいけません。
離婚したら、女性側は“もう元夫とは関わりたくない”と思うでしょうし、男性側は“他の男との間にできた子どもの否認手続きをする”のは、心地よくないはずです。ただこれも法律上、踏まなくてはいけない手続きです。
「まあ、私はもう生理が上がっちゃってるんで、妊娠云々の面倒なことには巻き込まれることはなかったんですけど。それに、診断書の10820円は高くても、100日待たず離婚後すぐに再婚できたので、今は幸せですよ」
えみこさんは、笑ってこう言いました。
離婚後すぐに再婚したいと思っていた女性たちを悩ませていた、再婚禁止期間も廃止されるまで1年を切りました。でも、法案が通ったのが令和4年12月10日、施行が令和6年4月1日とは、施行まで、ずいぶん時間がかります。
本当に、お役所仕事ってのはねぇ~(笑)。
鎌田れい(かまた・れい)◎婚活ライター・仲人 雑誌や書籍などでライターとして活躍していた経験から、婚活事業に興味を持つ。生涯未婚率の低下と少子化の防止をテーマに、婚活ナビ・恋愛指南・結婚相談など幅広く活躍中。自らのお見合い経験を生かして結婚相談所を主宰する仲人でもある。新刊『100日で結婚』(星海社)好評発売中。公式サイト『最短結婚ナビ』 YouTube『仲人はミタチャンネル』