こんにちは。元ラブホ従業員の和田ハジメです。およそ6年もの間、渋谷区道玄坂にあるラブホテルにて受付業務および清掃業務に従事してきました。 ラブホの従業員と聞くとなんとなく暇そうな印象を抱く方も多いことかと思われますが、筆者が働いていたのは都内でも屈指の繁華街であり、なおかつ近隣他店と比較しても相当にリーズナブルな価格帯でお部屋を提供している激安店。
多少の繁閑差こそあれど、基本的にはせわしくお客様の応対に追われる日々を過ごしてきました。そして土地柄からか、“お行儀の悪い”お客様もかなりの頻度で来店され、トラブルを引き起こすこともしばしば……。 多種多様なお客様が来店されるラブホテル。従業員も負けず劣らず個性的な面々が揃っておりました。今回は激安ラブホの従業員……つまり筆者の元同僚について少しだけお話をさせていただければと思います。
◆ラブホスタッフに応募してくる“ワケあり”の人たち
筆者が勤めていたラブホはその立地ゆえ、決められた業務以外にも数多くのトラブルや不測の事態に対応しなければならず、精神をすり減らしたスタッフが頻繁に退職するといった状況でした。
そのため欠員補充を行うものの、世間体の悪さからか、ラブホスタッフにわざわざ応募してくる方は極めて少なく、集まってくるのは“ワケあり”の人が大半を占めていました。
ちょっとした職歴のブランクがある人から、“やらかして”一般企業での就職が困難な人まで様々でしたが、今回は後者のケースである“Xさん”について、以下に記していきます。
◆深夜帯のアルバイトとして入ってきた謎の中年男性
Xさんは深夜帯のフロント業務に従事していた当時40代後半の人物。正直な話、筆者はXさんと初めて会った時から彼にいい印象を抱いておりませんでした。
と言いますのも、Xさんがアルバイトとして入ってくるきっかけとなった求人の募集要項は“深夜帯の清掃スタッフ募集”というもの。なぜ彼がフロントで勤務していたのかといいますと、それは筆者とポジションの交代をしたからでした。
Xさん初出勤の日、当時夕勤のフロント業務だった筆者は、彼の教育係という名目でその日は夕勤後に深夜帯の清掃業務として入ることになっていました。
相当に長い時間働くことになっていたので、新人の方が要領よく業務を覚えてくれて、仮眠を少しでも取れたらいいなと、出勤前にぼんやりと考えておりました。
◆開始予定時刻より5時間も早く出勤、初対面で“シャウト”!
出勤すると、既にXさんはその場にいました。筆者を見るや否や、「はじめまして! これからよろしくお願いします!!」と、大声で“叫び”、握手を求めてきました。仕方なく応じると、握力を強め、「頑張ります」と一言。
勤務予定時間より5時間も早くきていたこともあり、随分とやる気がある方だなという思いも若干ありましたが、それ以上に“厄介なヤツ”という印象が先行し、その時点で帰りたい気持ちで頭がいっぱいでした。
◆武勇伝を連発「昔の俺は凄かった」
初仕事の前に、とりあえず彼の人となりを少しでも知っておきたいと考えた筆者は、自己紹介を兼ねた雑談をすることに。好きな芸能人などの当たり障りのない話題を振るも、どれもXさんはいまいちピンときていない様子。
しばらく会話を続けていくうちに、どうやらXさんは直近の出来事について全くの無知であるということが判明しました。スマホはおろか、ガラケーすらも所持しておらず、いわく、“興味がないから”だそう。

人を見た目で判断してはいけないと常々考える筆者ですが、頭髪は薄れ、前歯は欠け、下っ腹が目立つだらしない体型のXさんにそんな過去があるとはとても信じられませんでした。感心したフリだけをして、Xさんの勤務開始時間まで筆者は黙ることに。Xさんがひっきりなしに吸っている缶ピースのせいで、受付室には白い“もや”がかかっておりました。
◆口先だけで全く仕事ができない…
いよいよXさんの初仕事。結論から言いますと、彼の仕事ぶりは最低としかいえないものでした。
自分から動こうともしなければ、指示を出しても従わず、“オリジナルの方法で”やろうとする、コンビニボックスに補充する備品は“100%”入れ間違える、清掃後のベッドに勢いよく座りこむ(そのせいでベッドメイクはやり直し)、頻繁に受付室に戻ってタバコ休憩……などなど。
挙句の果てには「自分はこの仕事に向いてない」、「フロントでなら結果を出せる(なんの結果だろう)」と言い出す始末。
彼に清掃を任せられないと考えた筆者は、Xさんとポジション交代してみたのですが、フロント業務での仕事ぶりはと言いますと、これもまたひどいものでした。
釣り銭を頻繁に間違える、客室に飲み物を届ける時にノックせずに入室する、勤務中に爆睡……一事が万事こんな調子なので、最終的には筆者がフロントと清掃を兼任する状態となっておりました。
深夜帯フロントと清掃の掛け持ちに疲れ果てた筆者は、夜勤の清掃を別の方にお願いし、夕勤のフロント業務に戻りました。
毎回出勤予定時間よりも1時間早く来て、筆者の後ろでタバコをふかしながら勤務の開始を待つXさんと過ごした時間は、なかなかきついものでした。
◆履歴書は合計25年もの空白期間、アルバイト先を転々とした後に…
ある日のこと、筆者が出勤するとデスクの上にはTさんの履歴書が。どのような“輝かしい経歴”が記されているのだろうかと思って見てみると……。
Xさんの履歴書は、空白の期間が多くを占めていました。
大学を7年通ったのちに中退。そこから20年もの空白期間を経て、コンビニ店員のアルバイトへ。そこから職種をいくつか変えるも、全てが3ヶ月も経たずに退職しており、その後再び5年の空白期間があり、現職へ。
分かりきってはいたのですが、Xさんの輝かしい武勇伝は全て作り話。理想像を語ることで溜飲を下げていたのでしょう。そう考えると筆者は急に悲しくなってきて、「今の職場でXさんが少しでも自信をつけてくれれば。同情と言えばそれまでだが、これからはXさんに優しく接しよう」と、その時は誓ったのです。
しかし結果として、優しく接するほどにXさんは傲慢になっていき、最終的には筆者に意見したり、人生訓を語るようになっていきました。
◆5年間の空白の理由は…
次第に態度が大きくなっていったXさんは頻繁に「俺を怒らせると恐いぞ」と発するようになっていきました。
単なる威嚇だと思って流していたのですが、ある日“彼には何かしらの前科があるのかもしれない”という直感が働き、Xさんの名前をインターネットで検索してみたところ、姓名・住所の一部・年齢が一致したとある事件がヒット。罪状は「殺人未遂」。
記事によると、近隣住民と口論などのトラブルがあったとのこと。筆者は急にXさんの存在が恐ろしくなり、どうにかして怒らせないように最大限気遣ったのでした。
その後、Xさんは半ばクビという形でラブホテルを後にしましたが、筆者は今でも、“Tさんに優しく接していてよかった”と考えます。もし口論にでもなっていたら、背後から刺されていたのかもわかりませんから。
<文/和田ハジメ>
―[和田さんのラブホよもやま話]―