開成中に灘中、桜蔭中……中国のSNSに続々とアップされる難関校の合格通知。さらに大学でも名門校に続々と中国人留学生が。いったい、何が起きているのか?◆過熱する中学受験戦争に在日中国人が「参戦」の怪
2月、中国SNS「小紅書」にある投稿が相次いだ。在日中国人が、開成中や灘中など名門中学校の合格証書を数多くアップしていたのだ。
「息子が第一志望の開成に合格!7年前に家族で来日したとき日本語は一言も話せなかったのに!」
「子供は志望通りに理数系でいちばんの灘中に進学することになった」
どれも自慢げに我が子が合格したことを報告しているが、秀才中国人が続々と名門中学に入っているということなのか。教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏は言う。
「名門校に取材に行くと中国系の学生をよく見かけ、増えていると感じます。7~8年前からでしょうか。保護者からも、クラスに1~2人は中国系の生徒がいると聞きます」
◆学習塾に入塾する中国人も年々増加
一方、ジャーナリストの周来友氏も「私の子供も受験しましたが、その頃よりも確実に増えている」と同調する。
実態はどうなのか。学校に聞いてみると「国籍での統計は取っていません。中国を含めた外国にルーツを持つ入学者は一定数存在します」(灘中)、「中華圏にルーツを持つ学生は以前から多く、1クラス約40人の中に1~3人はいます」(巣鴨中)と回答。
日本国籍を取得しているケースや、片方の親が日本人である場合、名字が日本名になるので統計を取るのが難しいという事情はある。だが、中国系の生徒が一定数いることは間違いないようだ。
中学受験対策を専門とする学習塾はどうか。サピックスは「在籍生の国籍調査はしておらず、正確な回答は難しい」(小学部広報企画部)とのこと。しかし、子供を通わせている中国人に話を聞くと、たしかに増えているようだ。
埼玉県に住む鄭さん(仮名)の小学5年生の娘は、大手学習塾の新越谷校に通っている。
「5年生は6クラス、約100人いますが、中国人父母のSNSグループの人数は30人もいる。入塾する中国人は年々、増えていますよ」
◆中学受験のためのコミュニティが乱立
一方、中学受験のためのコミュニティも多数存在する。都内に住む夏さん(仮名)は、中国版LINE、WeChat内のグループに助けられた。
「受験ではわからないことも多いですが、グループ内での情報交換が助かりました。志望校ごとにグループがありますが、1グループ最大500人という制限があるため数が足りず、いくつものグループが乱立している状態です」
オンラインでの交流から冒頭のSNSへの投稿に行き着くのは自然な流れだが、前出の周氏は苦言を呈す。
「日本でお受験ママをやっている中国人は、学校や塾での成績表をSNSで晒し、子供が勉強する姿まで投稿していてやりすぎです。こうした親自身が中国の学歴戦争で失敗したため、日本で自分の夢を子供に託し、承認欲求を満たしているのでしょう」
◆競争レベルが上がり、子供にとって重荷に
近年、ただでさえ中学受験をする日本人も増えており、競争は加熱する一方だ。
「受験ノウハウの蓄積でメソッドが確立されており、競争レベルが上がりすぎているため、子供の負荷が増えています」(おおた氏)
受験向けの学習塾はレベルが高いため、多くの人が家庭教師もつけている。前出の鄭さんの場合、塾代などの教育費が年間150万円にも及ぶ。なぜ中国人はそこまでして日本の名門校にこだわるのだろうか。受験を経験した中国人に話を聞いた。
◆学歴がないと生きていけない
「『学歴がないと生きていけない』が口癖でした。学歴に対する考え方は、周りの日本人の友達の母親と比べて圧倒的に厳しく、母からは『日本で進学する以上、中国でも知名度の高い東大や早稲田、慶應のいずれかでないと入る意味がない』と言われました」
横浜で貿易会社を営む50代の中国人男性は、長男と次男が巣鴨中学に入学した。
「2人ともサピックス+家庭教師で、各々小学校高学年の頃は年間で150万~200万円かかりました。私の家系は代々医者なので、医学部進学に定評のある巣鴨中にしました。2人には立派な医師になってほしいですね」
◆自分が勉強漬けの辛い日々を送ったからこそ…
一方で学歴が第一ではない家庭もある。神奈川県内に暮らす40代前半の中国人夫婦は、長男が鶴見大学付属中学、次男が関東学院大学付属中学に進学した。受験をさせた理由は、勉強以外の時間も大切にしたいからだと言う。
「日本の学校のよいところは、選択肢の多さと文武両道の点です。どの学校でも勉強と同じくらい部活動に力を入れています。私たち夫婦は中国で学生だったときに勉強漬けの日々を送り、辛い思い出しかありません。
子供たちには中高一貫で学ばせ、大学受験までは勉強や部活動に勤しみ、のびのびした学生生活を送ってほしいと思ったのです」
中学受験をする中国人は今後、ますます増えそうだ。
「日本の学校でも、ライバルは日本人だけじゃないということ。最近はあまりに過熱しています。日本人にしても中国人にしても、もっと冷静になってもらいたい。中学受験なんかで人生が決まるわけないのですから」(おおた氏)
名門校が中国人子女だらけになる日が来るかも!?
◆もはや虐待か!?スパルタ式中国人ママも
中学受験に関して悩みを抱える中国人ママも少なくない。SNSを見ると、塾のクラス分けテストに一喜一憂し、勉強と遊び時間の配分に頭を悩ませている親も多い。一方、なかにはスパルタママに陥ってしまうケースも。
「塾のお迎えで中国系のママが子供に大声で怒鳴り、ペットボトルのお茶をかけていたのを見たことがあります。テスト結果が悪かったんでしょうね」
こう話すのはサピックスに我が子を通わせている日本人ママだ。
「息子の小学校の同じクラスに秀才中国人がいるんですが、ゲーム禁止を言い渡されiPadを二つ折りに破壊されたそう。中受にかける本気度がケタ違いですよ」
◆「血を吐きそうな成績表。私、うつになりそう」
ほかにも「塾のテスト成績が悪いとしばらく家に入れない」(都内在住の塾講師)など虐待ともとられかねない行為も。
だが、親は親で「血を吐きそうな成績表。私、うつになりそう」という中国人ママの書き込みもあった。
異常な世界と言わざるを得ない。
【教育ジャーナリスト・おおたとしまさ氏】男性の育児や、子育て夫婦のパートナーシップ、受験など幅広いジャンルで活躍。著書に『中学受験「必笑法」』(中公新書ラクレ)など
【ジャーナリスト・周来友氏】’63年、中国生まれ。ジャーナリスト。’87年に来日、東京学芸大学大学院を卒業。テレビや週刊誌で中国事情について論評している
取材・文/週刊SPA!編集部