日本サッカー協会(以下、JFA)に9人いる常勤役員の報酬がこのほど大幅にアップした。月額報酬250万円が300万円にアップ。これは大相撲の横綱・照ノ富士とほぼ同額にあたる。現在、JFAトップの田嶋幸三会長(65)の給与はあがらないが、今後、会長職につく人材の年俸が3600万円であることが明らかになった。
JFAはまだ完全収束していないコロナ禍の中、大幅減収に苦しんでいる。’22年度(1月1日から12月31日)決算は、約48億8000万円の赤字となったことを発表した。昨年12月、日本代表が過去ワールドカップ優勝国のドイツ、スペインを撃破する奮闘を見せ、自社ビルJFAハウス(東京都文京区)を100億円以上で売却したにもかかわらず、この大幅赤字だ。そんな状況下での役員報酬の引き上げに、JFA内部だけでなく、他の競技団体も驚きを隠せない。
日本中が、まだ野球の栗山ジャパンのWBC制覇に沸く3月下旬のことだった。JFAの今後の方針を決める意志決定機関の定時評議員会が行われた。その席上で常勤役員の「報酬」の大幅アップが決まっていた。
「これからJFAにより優秀な人材の方に来ていただくため決定です。(月額報酬があがるかわりに、退職金はなくなるが)それをフォローするための報酬アップでもありません」
’02年W杯日韓大会、続く’06年ドイツ大会で日本代表主将をつとめ、今年2月1日から協会のNO.3の職位になった宮本恒靖専務理事がこう説明した。
JFAで理事が有給になったのは川淵三郎氏が日本サッカー協会会長になって以降の’02年から、当時トップの川淵氏の年俸も推定2000万円とされていた。今回の定時評議員会で月収は50万円アップの300万円になり、かわりに役員退職慰労金制度(退職金)の廃止が決まった。
あわせて、これまでJFAの常勤理事職という立場で、本業以外に講演などの副収入をあわせて収入の総額は2億円と定められていたが、その上限が年間3億円以内と引き上げられ、この報酬アップも今回の評議員会であっさり決議された。
しかし地方協会の関係者は「ありえないこと。JFAハウスを売却するほど協会の財政は不安定。評議員会で異議が出ないことが信じられなかった」と落胆した。JFAは’22年度の決算で約48・8億円の赤字となったことを発表した席上で、宮本専務理事は売却するJFAハウスの修繕積立特定預金(約45・3億円)を取り崩して赤字補填にあてたことも明かし、「実際は(48億円ではなく)約3・5億円の赤字です」としたという。
この宮本専務理事の説明に前出の地方協会の関係者は「今後JFAは売却する不動産は一切なくなる。次の年度も赤字だった場合の準備ができていない。そんな中で理事報酬アップは他の競技団体はもちろん、一般の会社組織では絶対ありえないことだ」と憤懣やるかたない表情で話した。
月額報酬300万円、単純換算すると年俸3600万円。一般のサラリーマンにとっては理解しづらいだろう。他の競技団体と比べてみると、大相撲の横綱(照ノ富士)とほぼ同額にあたる。日本相撲協会では‘90年代の若貴フィーバー以後、多くの不祥事や観客動員の不振なども続き、関取衆からの「給与値上げ」の要望に一切に耳を貸さなかった時期があったが、’18年11月、8年ぶりの値上げを決め、この時に横綱の月給が18万円増えての300万円となった。
ではプロ野球はどうなのか。日本サッカー協会と同じような組織に相当するのは日本プロ野球機構(NPB)になるが、スポーツ紙の野球担当記者はこう明かす。
「NPBは各球団の拠出金で成り立っているので、単純な比較はできませんが、日本サッカー協会のような高額になることはあり得ないでしょう。トップのコミッショナーでも年俸3000万はありえないし、NPBの常勤職員がプロ野球の球団社長より多くのお金をいただいていることはまずないはずです」
では、プロ野球12球団の社長の報酬の相場はいくらぐらいなのか。前出の球団担当者がこう続ける。
「親会社から出向で来ている人が社長になっている場合、その会社の部長クラスの給与と変わりません。年俸2000万円をもらっている社長は少ないと思います」
9月にフランスでW杯が開幕する行われるラグビーについてはどうだろうか。
スポーツ紙デスクはこう明かす。
「日本協会の会長はほぼ無給です。森喜朗さんや東芝、経団連で要職についていた岡村正さんをはじめ、歴代の会長は本業で重責を担っている人が多く、協会に常勤できないという事情もあったのではないかと思います。サントリーで重責を担う現会長の土田雅人さんも、協会からはほとんどもらってないと思いますよ。少し前の話ですが、協会に常勤している専務理事の場合、年俸1200万円と聞きました」
日本ラグビー協会で幹部をつとめた経験のある人はこう続ける。
「理事に対して月額300万円? それは、いいとか悪いではなく、サッカー協会さんの考え方であって、ひとつのやり方としてはアリなんでしょうけど……。まあ、ラグビーでは難しいですね」
昨年末、W杯カタール大会で快進撃を続けた森保ジャパンは3月に再始動した。南米の強豪を迎えた2試合(対ウルグアイ、コロンビア)では2戦未勝利(1分1敗)で終わったが、2試合合計で観客8万1860人を動員した。JFA宮本専務理事は「声出し声援が可能になった。国立では6万人を超えるお客様にも来ていただいた。今後に期待していきたい」と赤字回復には自信ありとした。
ただ、森保ジャパンの不振が続けば、観客動員やTV視聴率の低迷などJFAの財政に一気に響く構図はかわらないだろう。こんな状況下でひっそり決まったJFA常勤役員の報酬アップ……。日本代表の結果だけでなく、日本サッカー界を引っ張る役員の面々の仕事ぶりにもこれからは注目が集まりそうだ。