「こどおじ」「こどおば」に関しては定義が不明瞭だ。だから実家に住んでいさえすれば「こどおじ」扱いされてしまうこともあり得る。それについて「不当。抗議したい」という男性が現れた。
ついに彼女ができたのに抗議の主は、都内在住のカズマさん(41歳)だ。親の作った会社に属し、不動産の管理関係の仕事をしている。彼の仕事はシステムを活用したビル等の管理業務なので「実労働」はそれほどない。さらに、複数の人数で管理しているため、彼自身が数時間、業務を離れてもどうということはない。
「親からの資産で暮らしているだけでしょとよく言われるんです。当たっていないとは言えないけど当たっているとも言えない。一応、会社の管理職ではあるし」
しかし実務的には、今も父がほとんど取り仕切っている。父はカズマさんに会社を大きくしてほしい、そのために冒険するのもやむを得ないと伝えてくれたが、彼自身は冒険ができないタイプ。だから大きくするよりは現状維持に走りがちだという。
「親の会社を手伝って、住まいも実家。高校や大学の友人は、みんな僕を『単なるお坊ちゃん』と言うんですよね。もともと出社が多いほうではなかったけど、コロナ禍ではほぼ在宅勤務という状態だったから、最新ニュースに敏感な母は、『あなたみたいな人をこどおじって言うんでしょ』と笑っていた。ちょっとムカッときましたね」
コロナ禍にあえて婚活もしていた。こういう危機のときにこそ、人の本性が見えてくる。だからコロナ禍で恋人を探すんだと彼は考えていたという。
「実際、マッチングアプリで5歳年下、当時34歳の女性と知り合いました。彼女は僕の境遇よりも、僕自身が興味があると言った将棋の話に食いついてきてくれて。コロナ禍前には将棋教室に通っていて、周りからヘンな女だと言われていたとも語っていました。気が合うかもと思って、少し状況が落ち着いてきたころにデートしたんです」
実際に会ったときも、彼女は彼の家庭の資産などには触れてこなかった。むしろ「将棋を指したいですね」と盛り上がっていた。碁会所はあるのに、将棋ができる場所は少ない。彼はこんなこともあるかもと考え、将棋ができる場所を調べておいた。ふたりは楽しく将棋を指し、その後、食事へ。いい雰囲気だったという。
「その帰りに『また会ってもらえますか?』と聞いたら、ぜひと彼女がうれしそうに答えてくれたんです」
彼女確定、と彼は内心、ガッツポーズをしていた。
男の実家住まいはダメなのかところが彼女は、なぜか彼がひとり暮らしだと思い込んでいたらしい。次は「カズマさんの家で将棋をしませんか」と連絡があった。
「僕は実家暮らしなのですが、それでもよければとメッセージを送ると、彼女はびっくりしたようです。『40歳にもなろうという大の大人がどうして実家住まいなのですか』と聞かれました。たまたま家を出るような機会がなかっただけなんです。僕はひとりっ子だから、なんとなくここまで親と一緒にいただけで……」
正直にそう書いて送り、のちには電話でも説明したのだが、それを機に彼女の気持ちは引いてしまったようだ。ノリのいいメッセージが来なくなったので、彼は不安を感じて彼女にメッセージを送った。ぜひまた会いたい、と。すると彼女から、「カズマさんって、いわゆる“こどおじ”ですか」と聞かれた。
「僕は子ども部屋に住んでいるわけでもないしとムッとしたんですが、考えてみたら、初めて個室を与えられた中学生のときから、ずっと同じ部屋に住んでいるんですよ(笑)。家のリフォームをしたときも、僕の部屋に関してはほぼそのまま。あれ、オレって母や彼女が言うように“こどおじ”なのかもしれないと思いました。
でも一方で、実家住まいなら“こどおじ”というわけでもないだろう。親に依存しているわけでもないしと考えたんだけど、自立心がないといえばないしとも思って混乱しましたね」
相手がそう考えるなら、彼自身にそれを覆す気力はなかった。親の財産に頼って生活していると思われたとしてもしかたがない環境にいるのは確かなのだから。だからといって、財産目当てに近づかれるのも苦痛だし、さっさとひとり暮らしをすればいいと言われるのもつらい。
「結局、僕は実家に住んで今の生活をしているのがいちばん幸せなのかもしれない。そのときはそう思って、彼女とは別れたんです。でも最近、また婚活しようかなと思っているんです。今度は最初から『“こどおじ”ですけど、いいですか』とでも言ってみますかね」
もともと生活にゆとりのある環境で生きてきたカズマさんにとって、相手の女性が「“こどおじ”の何をいけないと思っているのか」がわからないのだ。だから自分を受け入れてくれない人とはわかりあえないとショックを受けてしまう。
「最近、本当に生きづらいなと思っています。インドア派の僕にとって、この生活を維持しながら結婚相手を見つけることがいかに大変か、身に染みて感じています」
生きづらさも多様だ。経済的に苦境だからというだけではなく、ゆとりがあったとしてもその環境だからこそ生きづらいこともあり得るようだ。