「闇バイト事件」発覚以来、強盗事件の報道が相次いでいる。が、それらは氷山の一角に過ぎない。東京や埼玉にある「チャイナエステ店」では、”報じられない事件”が頻発している。
「関東のチャイナエステの経営者は、SNS上にコミュニティを作って随時情報を共有している。そこでは、昨年の頭からの1年半弱の間に、強盗被害が約20件も報告されている。我々のコミュニティに参加している店舗数は約100店。つまり、チャイナエステの5店に1店が被害に遭っていることになる」
そう明かすのは、埼玉県内でエステ店を経営する中国人女性の王氏(仮名・40代)だ。今年1月、王氏の店も強盗被害に遭ったという。
「強盗は、店に従業員の女の子が一人しかいないときに客を装ってやってきて、施術を受け終わってから『カネを出せ』と脅してきた。ワンオペのときを狙って来るのが、奴らの典型的な手口。うちの女の子は抵抗しなかったのに、殴られて怪我をさせられた」
5月3日には、東京・池袋にあるマッサージ店を訪れた男が、中国人女性店員に刃物を突きつけ、2万円とスマホを奪って逃走する事件が起きた。しかしほとんどの店は、強盗に遭っても警察に被害届を出せないという。王氏が続ける。
「灰色区域(グレーゾーン)で商売をしているので、警察沙汰にはしたくない。日本の裏風俗店なら、こういうときにヤクザに頼るけど、多くの中国エステは彼らとは付き合いがない」
警察にも裏社会にも頼れないチャイナエステ店経営者だが、彼らとてこのまま泣き寝入りするつもりは毛頭ない。強盗に対抗するため、エステ店同士で連携して立ち上がった。「チャイエス自警団」の発起人を務める中国人経営者の李氏(仮名・50代)が言う。
「被害が多い浦和、西川口、池袋、上野のエリアには格闘技経験のある団員をそれぞれ配置した。通報があれば10分以内に駆けつける。犯人が武装していることもあるので、警棒も所持させている」
李氏が自警団を立ち上げたのは、今年3月、池袋のマンションで起きた強盗事件がきっかけだという。中国人の会社経営者が強盗グループに刃物で抵抗し、犯人の一人が死亡したという事件だ。
「ニュースを見て、『我々も強盗に屈してはならない』と盛り上がり資金を出し合って自警団を立ち上げた。現在、自警団が雇っている団員は約10人だが、これからどんどん増えていく。団員のギャラは日給1万円だが、犯人を捕獲したら5万円のボーナスを支払う契約なので、モチベーションは極めて高い」(李氏)
すでに強盗グループと自警団の「暗闘」も始まっているという。
「予約の際に使った電話番号や防犯カメラの映像を共有して犯人の割り出しをしている。すでに何人かは突き止めた。口調からして、強盗たちが日本人なのは間違いない。裏には半グレやヤクザがいるかもしれないが、そんなことは関係ない。徹底的に抵抗する」(同前)
前出の女性経営者・王氏も、
「以前は強盗が来たら抵抗しないよう従業員に言っていたけど、今は店に常備してある催涙スプレーで、自警団が来るまで時間を稼ぐよう言っている。汗水垂らして稼いだカネを奪う奴は許せない!」
と、自警団に期待を寄せる。
だが、自警団が過激化すれば、さらなる事件が起きる可能性もある。刑事事件に詳しい『加藤・浅川法律事務所』の加藤博太郎弁護士が警鐘を鳴らす。
「盗犯防止法により、侵入強盗に対しては正当防衛が広く認められています。ただ、警察に救助を求める余裕があるにもかかわらず、積極的に反撃を行った場合には正当防衛が否定され、逆に暴行罪などに問われる可能性もあります」
もちろん一番悪いのは強盗犯だが、被害を受けた際に堂々と警察を頼れる立場でいてほしいものだ。
『FRIDAY』2023年6月2日号より
取材・文:ライター・奥窪優木