テレビユー福島のニュースサイトは4月12日、「97歳被告に執行猶予付き有罪判決 車暴走5人死傷事故 被告は“超高齢者”『運転控えるべきだった』」の記事を配信、YAHOO!ニュースのトピックスに転載された。
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【写真を見る】97歳被告が5人を死傷させた現場 「正常な運転ができる状態ではなかった」 まずは改めて事故を振り返ろう。2022年11月、福島市の無職・波汐國芳(なみしお・くによし)被告(97)は、軽乗用車で市道を走行中、車道と間違えて歩道に進入した。
なおかつブレーキとアクセルを踏み間違え、少なくとも時速60キロまで加速。42歳の女性をはねて死亡させたほか、4人にケガを負わせた。波汐國芳被告 多くのメディアは波汐被告を無職と報じているが、歌人として高く評価されていたことも明らかになっている。 22年12月、福島地検は自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)で起訴。今年2月28日に福島地裁で初公判が開かれ、波汐被告は起訴事実を認めた。 3月15日には死亡した女性の夫が約25分間にわたって意見陳述を行い、マスコミ各社が大きく報道した。ごく一部ではあるが、ここにご紹介しよう(註)。《前回の裁判での供述で、運転しないと生活ができなくなるとありましたが、今議論になっている運転免許証返納は60代~80代の議論と私は感じております。97歳は議論の範疇ではなく、当然返納すべき年齢と考えます》《法律はどうであろうと、私の心情は、妻は被告人の暴走運転によって殺害されたと思っています。妻と共に子供達の自立を見届け、孫を見守る、そして穏やかな二人の時間を晩年に送るという生活が待っていたはずなのです。でも、もうそれは叶いません》《妻に会いたいです。私の最愛の妻をかえしてください。子供達にとってかけがえのないママをかえしてください。なぜ、妻の命を奪ったのですか》 夫は涙ながらに訴え、読み上げる紙を持つ手は終始震えていたという。判決批判は当然 4月12日、福島地裁の三浦隆昭裁判長は、検察側の禁錮3年6カ月の求刑に対し、禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。 判決内容が報道されると、ネット上では多数の異論が投稿された。Twitterでは以下のような具合だ。《人殺しといて執行猶予付き? これ殺された女性の家族、納得いかんやろ?》《運転ミスで人殺しても執行猶予五年つくのなら免許返納しなくても……なんて不謹慎な老人は居ないか?!》《人の命を奪っておいて執行猶予。裁判官に命の重さは理解出来てない様にしか思えない》 こうした投稿を“ネット私刑”と受け止める人もいるかもしれない。だが、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「今回の判決に多数の人が違和感を覚えているのは当然だと思います」と語る。「普通なら3年の執行猶予を5年にするなど、確かに裁判長も様々なことを考慮して判決を下したのでしょう。しかしながら、この事故は健康に問題のない運転手が、過失を原因として起こしたものではありません。もう車の運転は危険だと思われていた超高齢者による死亡事故です。そもそも運転するのが大問題だったわけで、一般的な交通事故とは異なることに注意する必要があります」池袋事故との違い 判決でも、波汐被告は正常な運転ができる状態ではなかったと認定されている。《97歳のいわゆる超高齢者で、事故前から自宅車庫に駐車する際、車と電柱を接触させるなど、判断能力や運動能力に衰えがあった》(前掲・テレビユー福島) さらに、車を運転しなくともタクシーなどを使って日常生活が送れたとも指摘している。《タクシーを利用することが金銭的に困難だったとは言い難く、運転を控えるべきだった》(同前)「運転能力に問題があったと事実認定しているのですから、実刑判決を下すべきでした。しかも遺族の男性は法廷で強い憤りを陳述しています。処罰感情は強かったでしょう。もし酒酔い運転で5人の死傷者が出たら、実刑判決の可能性は高い。波汐被告が起こした事故も根本的には同じはずです」(同・若狭氏) 2019年4月、東京・池袋で母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った自動車事故を起こした飯塚幸三元被告(当時87歳)は、21年9月に禁錮5年の実刑判決が下って収監された。担当記者が言う。「ネット上では、池袋と福島の事故を比較し、判決の違いにも多くの意見が投稿されています。その中で目立つのは、池袋の事故は被告が無罪を主張したが、福島の事故は罪を全面的に認めたことに注目するものです。『池袋は裁判官の心証が悪く、福島は心証が良かったのだろう』という指摘は少なくありません」ピントのずれた判決文 だが若狭氏は「二人の被告の罪状認否が違ったのは事実ですが、判決にそれほど大きな影響を与えたとは思いません」と指摘する。「池袋と福島の事故は、様態が類似しています。前者が実刑判決だったのですから、後者も実刑であるべきでした。福島の裁判も社会的な関心が極めて高いものでしたから、なおのこと裁判長は厳しい判決を下し、社会に警鐘を鳴らさなければならなかったと思います」 高齢者の被告に実刑判決が確定しても、「著しく健康を害するときや生命を保てない恐れがあるとき」、また「70歳以上」の場合などで、法務省は刑の執行を停止することができる。「執行猶予付き判決が出たのは、波汐被告が97歳という超高齢者だったことが影響したのでしょう。しかし、刑の執行停止は刑事訴訟法に明記されているのですから、この点からも実刑判決を下すべきだったと思います」(同・若狭氏) 判決には《高齢者が自動車を運転しなくても不便を感じることなく生活できるような社会の構築が望まれる》(同前)との指摘もあった。「この事故は被告が運転を続けていたことが大問題だったのです。社会の問題ではなく個人の問題であり、今回の事故の判決文に書く一文としては、ややピントがずれていると言わざるを得ません」(同・若狭氏)註:「かけがえのないママを返して」妻亡くした男性、法廷で訴えた25分 97歳暴走5人死傷事故裁判【詳報】(TBS NEWS DIG:3月16日)デイリー新潮編集部
まずは改めて事故を振り返ろう。2022年11月、福島市の無職・波汐國芳(なみしお・くによし)被告(97)は、軽乗用車で市道を走行中、車道と間違えて歩道に進入した。
なおかつブレーキとアクセルを踏み間違え、少なくとも時速60キロまで加速。42歳の女性をはねて死亡させたほか、4人にケガを負わせた。
多くのメディアは波汐被告を無職と報じているが、歌人として高く評価されていたことも明らかになっている。
22年12月、福島地検は自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)で起訴。今年2月28日に福島地裁で初公判が開かれ、波汐被告は起訴事実を認めた。
3月15日には死亡した女性の夫が約25分間にわたって意見陳述を行い、マスコミ各社が大きく報道した。ごく一部ではあるが、ここにご紹介しよう(註)。
《前回の裁判での供述で、運転しないと生活ができなくなるとありましたが、今議論になっている運転免許証返納は60代~80代の議論と私は感じております。97歳は議論の範疇ではなく、当然返納すべき年齢と考えます》
《法律はどうであろうと、私の心情は、妻は被告人の暴走運転によって殺害されたと思っています。妻と共に子供達の自立を見届け、孫を見守る、そして穏やかな二人の時間を晩年に送るという生活が待っていたはずなのです。でも、もうそれは叶いません》
《妻に会いたいです。私の最愛の妻をかえしてください。子供達にとってかけがえのないママをかえしてください。なぜ、妻の命を奪ったのですか》
夫は涙ながらに訴え、読み上げる紙を持つ手は終始震えていたという。
4月12日、福島地裁の三浦隆昭裁判長は、検察側の禁錮3年6カ月の求刑に対し、禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡した。
判決内容が報道されると、ネット上では多数の異論が投稿された。Twitterでは以下のような具合だ。
《人殺しといて執行猶予付き? これ殺された女性の家族、納得いかんやろ?》
《運転ミスで人殺しても執行猶予五年つくのなら免許返納しなくても……なんて不謹慎な老人は居ないか?!》
《人の命を奪っておいて執行猶予。裁判官に命の重さは理解出来てない様にしか思えない》
こうした投稿を“ネット私刑”と受け止める人もいるかもしれない。だが、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「今回の判決に多数の人が違和感を覚えているのは当然だと思います」と語る。
「普通なら3年の執行猶予を5年にするなど、確かに裁判長も様々なことを考慮して判決を下したのでしょう。しかしながら、この事故は健康に問題のない運転手が、過失を原因として起こしたものではありません。もう車の運転は危険だと思われていた超高齢者による死亡事故です。そもそも運転するのが大問題だったわけで、一般的な交通事故とは異なることに注意する必要があります」
判決でも、波汐被告は正常な運転ができる状態ではなかったと認定されている。
《97歳のいわゆる超高齢者で、事故前から自宅車庫に駐車する際、車と電柱を接触させるなど、判断能力や運動能力に衰えがあった》(前掲・テレビユー福島)
さらに、車を運転しなくともタクシーなどを使って日常生活が送れたとも指摘している。
《タクシーを利用することが金銭的に困難だったとは言い難く、運転を控えるべきだった》(同前)
「運転能力に問題があったと事実認定しているのですから、実刑判決を下すべきでした。しかも遺族の男性は法廷で強い憤りを陳述しています。処罰感情は強かったでしょう。もし酒酔い運転で5人の死傷者が出たら、実刑判決の可能性は高い。波汐被告が起こした事故も根本的には同じはずです」(同・若狭氏)
2019年4月、東京・池袋で母子2人が死亡、9人が重軽傷を負った自動車事故を起こした飯塚幸三元被告(当時87歳)は、21年9月に禁錮5年の実刑判決が下って収監された。担当記者が言う。
「ネット上では、池袋と福島の事故を比較し、判決の違いにも多くの意見が投稿されています。その中で目立つのは、池袋の事故は被告が無罪を主張したが、福島の事故は罪を全面的に認めたことに注目するものです。『池袋は裁判官の心証が悪く、福島は心証が良かったのだろう』という指摘は少なくありません」
だが若狭氏は「二人の被告の罪状認否が違ったのは事実ですが、判決にそれほど大きな影響を与えたとは思いません」と指摘する。
「池袋と福島の事故は、様態が類似しています。前者が実刑判決だったのですから、後者も実刑であるべきでした。福島の裁判も社会的な関心が極めて高いものでしたから、なおのこと裁判長は厳しい判決を下し、社会に警鐘を鳴らさなければならなかったと思います」
高齢者の被告に実刑判決が確定しても、「著しく健康を害するときや生命を保てない恐れがあるとき」、また「70歳以上」の場合などで、法務省は刑の執行を停止することができる。
「執行猶予付き判決が出たのは、波汐被告が97歳という超高齢者だったことが影響したのでしょう。しかし、刑の執行停止は刑事訴訟法に明記されているのですから、この点からも実刑判決を下すべきだったと思います」(同・若狭氏)
判決には《高齢者が自動車を運転しなくても不便を感じることなく生活できるような社会の構築が望まれる》(同前)との指摘もあった。
「この事故は被告が運転を続けていたことが大問題だったのです。社会の問題ではなく個人の問題であり、今回の事故の判決文に書く一文としては、ややピントがずれていると言わざるを得ません」(同・若狭氏)
註:「かけがえのないママを返して」妻亡くした男性、法廷で訴えた25分 97歳暴走5人死傷事故裁判【詳報】(TBS NEWS DIG:3月16日)
デイリー新潮編集部