もはやコロナ禍は終わったのか、旅行する人が増えている。旅行大手「近畿日本ツーリスト」の発表によると、2023年のゴールデンウィークの国内旅行販売高は、前年同時期と比べて「2.5倍」と大幅な回復傾向にあるという。
しかし、中には「根回し」を求められる人もいるようだ。弁護士ドットコムには「海外に行くときは事前に上司に行き先、滞在ホテル等を伝えなくてはならないと言われました」という相談が寄せられていた。
「飛行機遅延等も含めたトラブルに巻き込まれた場合に仕事を休む可能性がある」ことを理由として説明されたという。同様の理由から「海外には職員同士で行ってはいけない」とも伝えられたそうだ。
せっかくの連休なのに、プライベートの領域に踏み込まれたくない従業員もいるだろう。就業規則にも定めのないルールに従う必要はあるのだろうか。山田長正弁護士に聞いた。
–従業員は休日の旅行先や宿泊先まで会社に伝える必要はありますか
原則的に、従業員が休日の旅行先や宿泊先まで会社に伝えるという必要はありません。
(ここでいう「休日」には、労働基準法35条1項のいわゆる「法定休日」や、就業規則で定められる「所定休日」を総称しています。以下、これを前提とした記載とします)
まず、休日は、労働義務のない日を指し、労働者が会社の一切の拘束から解放される日です。そのため、プライベートでどこに行こうと、労働者の自由ないし権利であり、旅行先や宿泊先まで事前に会社に伝えておく必要はありません。プライバシーを侵害するとも考えられます。
このことを踏まえると、今回の相談内容にある旅行先や宿泊先の申告による干渉は極力避けるべきです。
また、「職員同士で海外旅行に行ってはいけない」という規制は、就業時間外のプライベートの行動を強く拘束しており、特段の事情がない限り、会社としては厳に慎むべきです。
–業種や職種によっては、会社に伝えることもやむなしとされるケースもありますか
ここまでは、原則的なお話をしてきましたが、職務上必要とされる合理的理由がある場合は、その限りではないと考えるべきです。
会社には一定の要件下で、休日労働を命ずる権利があります(労働基準法36条1項)。職種によっては、緊急性があり、休日であっても労働者に連絡を取らざるをえない状況や出社を求めることがありえるため、適切な範囲内で、会社が休日に労働者の所在や連絡先等を把握したとしても、違法にならないと考えられます。
たとえば、病院に勤める勤務医の場合、担当している重症患者の病状について、担当医でなければ不測の事態に対応できず、患者の生命に危険が及ぶ可能性もあるでしょう。
このようなケースでは、会社(病院)は、労働者の権利に配慮しながら方針を検討し、所在や連絡先の申告を求める必要性を明示した上で、実施すべきです。
【取材協力弁護士】山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士山田総合法律事務所 パートナー弁護士企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。事務所名:山田総合法律事務所事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/