初の女性宰相候補とまで呼ばれたはずだった。それがいまや、総務省の行政文書をめぐって窮地に陥り、先日の奈良県知事選では県連会長でありながら保守分裂を招き惨敗。泣きっ面に蜂の状況の高市早苗氏の周辺に、新たな問題が浮上している。
【写真19枚】巨大なクレーンも小さく見える広大な土地、白い壁で囲まれた建設中の天理市のゴミ処理場。他、天理教所有地であることを示す看板、平木氏の事務所、瓦屋根が幾重にもなる天理参考館いわくつきのゴミ処理施設 維新の会が大阪以外の知事選で初めて勝利を収めた奈良県知事選。維新の会から退いた松井一郎・前大阪市長が「自民党が割れた事による漁夫の利」とツイートしたように、その原因は自民党内の分裂にあった。

自民党奈良県連会長の高市早苗・経済安保大臣が新人の平木省氏を擁立したのに対し、現職の荒井正吾氏が引くことなくともに立候補、党内が割れたことで維新に敗れた。 高市氏の責任が問われているが、その裏では、高市氏の選挙区における重大問題が起きていた。「(土地代の)3倍にも上る高い金額での用地取得は、住民の納得を得られてるんでしょうか」「住民が知らない場で決められるというのはそもそもおかしいというふうに思います」 4月9日の奈良県知事選が迫った3月20日、荒井知事は定例記者会見で、県内の自治体が行なっているある事業に対し、大批判を展開。県としての補助金を再考する可能性などにも言及した。 その事業とは奈良県天理市内で、同市を含む10の自治体が共同でつくる「山辺・県北西部広域環境衛生組合」(以下、「組合」)が行なっている、新しいゴミ処理施設の建設工事だ。この工事にからんで、天理市内に本部を置く宗教団体・天理教を巻き込んだ騒動となっている。自民党関係者は「この工事が党分裂の原因の一つ。天理市が選挙区の高市氏にも関わってくる問題だ」と言う。“政治と宗教”をめぐって、新たな問題が持ち上がっていたのだ。「このゴミ処理施設建設に関しては今の土地、やり方ありきで話が進んでいるようにしか思えない」 そう話すのは、天理市とともに組合を構成する大和高田市の市議会議員・森本尚順氏(維新の会)だ。「この土地は天理教が所有している。そこを組合は購入ではなく、60年契約で借りて使うとしています。土地の評価額は約4億6000万円ですが、利回りが天理市のもともとの試算では3.5%に対し、市が採択した天理教側の試算は5%で計算されているため60年間の賃料の合計は約14億円にものぼる」(同前) 荒井知事が会見で「3倍にも上る高い金額」と表現したのは、この土地の評価額と賃料の差を指している。「高市大臣に状況を報告した」 一方、組合の管理者(代表)を務める天理市の並河健市長は、本誌の取材に対し“疑惑”の存在をきっぱりと否定する。「ゴミ処理施設のような大きな建物をすぐ建てられる造成済みの土地は、ここくらいしかなかったんです。高速のインターチェンジからも近く、自治体からゴミ収集車が集まるのにも便利です」 また、土地が賃借の理由は、こう言う。「天理教ではなく、地元住民の要望です。購入すると“迷惑施設”であるゴミ処理場が固定化されるため、賃借で進めてほしいとの声が強かった。天理教もゴミ処理施設を歓迎しておらず、一生懸命お願いして、賃料も決まったんです」(同前) 荒井知事の疑問の声については、こう言い切る。「新型コロナ禍で、私が『荒井知事のコロナ対策には不備もある』と指摘をしたら、敵視され始めたんです。組合の事業も槍玉にあげられ、おかしな“疑惑情報”が出回るようにもなった。組合に参加する自治体を中心に県内には荒井不信が広まり、高市会長ら自民党奈良県連も今回の知事選では平木氏を推す一方、荒井知事は強行出馬。私に言わせれば、何の問題もないゴミ処理施設建設を荒井知事が無理に“疑惑化”したことが、今回の自民の分裂と敗北の原因の一つです」 平木氏は高市氏の総務大臣時代の秘書官。並河氏は平木氏の後援会副会長を務め、「平木選対は高市・並河ラインで動いていた」(地元政界関係者)そうなのだが、平木氏は次点で落選。「高市大臣は県連会長として、党分裂を回避できなかった責任はある」「“子分”の平木氏をプッシュするのに忙しく、調整能力には疑問符がついた」と怒る県内の自民党支持者もいた。 さらに、今回入手した組合の会議録によると、並河氏は2015年6月、ゴミ処理施設への環境省の補助金に関する問題で高市氏を訪問したという。資料にはこう記されている。「全国市長会に合わせて上京した際に、高市大臣、堀井先生(編集部注:奈良選出の堀井巌・参議院議員)に状況を報告した」 さらに、昨年8月20日に行なわれたゴミ処理施設の起工式と安全祈願祭には、高市氏が最前列に招待されていたことも、組合の資料に残されている。高市事務所によると、「当日は地元秘書が代理で出席した」という。支部から教会本部に支出も そもそも高市氏にとって、選挙区である天理市に本部を置く公称信者数118万人の宗教法人・天理教の存在は大きい。以前、本誌(2015年1月1・9日号)では、高市氏が代表を務める「自民党奈良県第2選挙区支部」が教団本部に会費名目で2万円を支払ったほか、教団機関紙「天理時報」を発行する天理時報社に、封筒代や印刷代などを支出していたことを報じている。 2007年3月には、その「天理時報」で教団の資格を持つ信者を表わす「ようぼく」として紹介されたと共産党機関誌「赤旗」が報じたが、高市氏は信者であることを否定している。地元の政界関係者はこう言う。「このゴミ処理施設建設は、結果的に天理市周辺の自民党議員と天理教でウィン・ウィンの構図になっている。天理教にはカネが入り、議員側は天理教の票にいっそう期待できる。並河市長にいたっては天理教の信者であることを公言し、癒着関係が疑われても仕方ない」 もっとも並河氏は、自身が天理教の教団に所属していることを認めたうえで、「それとこれとは何の関係もない」と断言。また天理教本部に問い合わせると、「ごみ処理場ということで、当初より賃貸という前提でお話をいただいていました」(渉外広報課)と回答した。 並河氏は天理教の土地を購入しなかった理由を「地元住民の要望」と説明した。しかし、入手した天理市が行なった地元住民への説明会の記録によると、建設予定地にほど近い同市和爾町の役員と住民から「普通は(土地を)買収するのと違うのか」(2015年3月27日)、「土地が安い時代になぜ借地にするのか、腑に落ちない」(同年7月25日)などと疑問の声が相次ぎ、並河氏は「場合によっては購入する事も有り得るのだろうと思います」と答えている。 一方、それに先立つ同年3月12日に行なわれた市内の区長会の会議録によれば、並河氏は「最初に地権者の所にお話しに行きました」「借地という事で今、同意をいただいております」と説明したと記録されており、はじめから賃借ありきだったのは明らかだ。 敗れた現職の荒井知事を直撃すると、「何も話せない」と言うばかりだが、当選した維新の山下真・次期知事に話を聞くと、「(土地は)購入したほうが安くなるなら、購入する選択肢をまずは取るべきと思う。(賃料が)不当に高いのならば、問題になるケースはあるのでは」と語った。 そして、苦しい立場にある高市氏にとっては、この問題がさらなる重石としてのしかかる。 高市事務所は、土地の契約が問題になっていること、この問題が保守分裂の原因の1つではないかという問いについては「存じ上げません」とした上で、並河市長から説明を受けたかについても、「天理市長のみならず10市町村長とは度々面会し、環境省へのご相談のセットを致しましたが、土地の所有者や金額等については聞いておりません」との回答だった。 高市氏の師である安倍晋三・元首相は、国有地処分をめぐる森友学園問題(※注)で窮地に立たされた。今また、構図は違えど第二の森友問題ともいうべき土地問題が、愛弟子に降りかかろうとしている。今後も動向を見守る必要がある。【※注/2017年2月、大阪・豊中市の国有地が、小学校の建設用地として学校法人「森友学園」に鑑定価格より大幅に安く売却されていたことが発覚。9億5600万円の鑑定額に対し、国は地中のゴミの撤去費用などとして約8億円値引きし、1億3400万円で学園側に売却していた。国は当初、売却額を公表せず、学園との交渉記録も「規則に従って廃棄した」と説明。さらに小学校の名誉校長が安倍首相の妻の昭恵氏だったことなどから、国会では野党が売却の経緯や政治家の関与の有無などを追及する大問題になった】リポート/小川寛大(季刊『宗教問題』編集長)と本誌取材班※週刊ポスト2023年4月28日号
維新の会が大阪以外の知事選で初めて勝利を収めた奈良県知事選。維新の会から退いた松井一郎・前大阪市長が「自民党が割れた事による漁夫の利」とツイートしたように、その原因は自民党内の分裂にあった。
自民党奈良県連会長の高市早苗・経済安保大臣が新人の平木省氏を擁立したのに対し、現職の荒井正吾氏が引くことなくともに立候補、党内が割れたことで維新に敗れた。
高市氏の責任が問われているが、その裏では、高市氏の選挙区における重大問題が起きていた。
「(土地代の)3倍にも上る高い金額での用地取得は、住民の納得を得られてるんでしょうか」「住民が知らない場で決められるというのはそもそもおかしいというふうに思います」
4月9日の奈良県知事選が迫った3月20日、荒井知事は定例記者会見で、県内の自治体が行なっているある事業に対し、大批判を展開。県としての補助金を再考する可能性などにも言及した。
その事業とは奈良県天理市内で、同市を含む10の自治体が共同でつくる「山辺・県北西部広域環境衛生組合」(以下、「組合」)が行なっている、新しいゴミ処理施設の建設工事だ。この工事にからんで、天理市内に本部を置く宗教団体・天理教を巻き込んだ騒動となっている。自民党関係者は「この工事が党分裂の原因の一つ。天理市が選挙区の高市氏にも関わってくる問題だ」と言う。
“政治と宗教”をめぐって、新たな問題が持ち上がっていたのだ。
「このゴミ処理施設建設に関しては今の土地、やり方ありきで話が進んでいるようにしか思えない」
そう話すのは、天理市とともに組合を構成する大和高田市の市議会議員・森本尚順氏(維新の会)だ。
「この土地は天理教が所有している。そこを組合は購入ではなく、60年契約で借りて使うとしています。土地の評価額は約4億6000万円ですが、利回りが天理市のもともとの試算では3.5%に対し、市が採択した天理教側の試算は5%で計算されているため60年間の賃料の合計は約14億円にものぼる」(同前)
荒井知事が会見で「3倍にも上る高い金額」と表現したのは、この土地の評価額と賃料の差を指している。
一方、組合の管理者(代表)を務める天理市の並河健市長は、本誌の取材に対し“疑惑”の存在をきっぱりと否定する。
「ゴミ処理施設のような大きな建物をすぐ建てられる造成済みの土地は、ここくらいしかなかったんです。高速のインターチェンジからも近く、自治体からゴミ収集車が集まるのにも便利です」
また、土地が賃借の理由は、こう言う。
「天理教ではなく、地元住民の要望です。購入すると“迷惑施設”であるゴミ処理場が固定化されるため、賃借で進めてほしいとの声が強かった。天理教もゴミ処理施設を歓迎しておらず、一生懸命お願いして、賃料も決まったんです」(同前)
荒井知事の疑問の声については、こう言い切る。
「新型コロナ禍で、私が『荒井知事のコロナ対策には不備もある』と指摘をしたら、敵視され始めたんです。組合の事業も槍玉にあげられ、おかしな“疑惑情報”が出回るようにもなった。組合に参加する自治体を中心に県内には荒井不信が広まり、高市会長ら自民党奈良県連も今回の知事選では平木氏を推す一方、荒井知事は強行出馬。私に言わせれば、何の問題もないゴミ処理施設建設を荒井知事が無理に“疑惑化”したことが、今回の自民の分裂と敗北の原因の一つです」
平木氏は高市氏の総務大臣時代の秘書官。並河氏は平木氏の後援会副会長を務め、「平木選対は高市・並河ラインで動いていた」(地元政界関係者)そうなのだが、平木氏は次点で落選。「高市大臣は県連会長として、党分裂を回避できなかった責任はある」「“子分”の平木氏をプッシュするのに忙しく、調整能力には疑問符がついた」と怒る県内の自民党支持者もいた。
さらに、今回入手した組合の会議録によると、並河氏は2015年6月、ゴミ処理施設への環境省の補助金に関する問題で高市氏を訪問したという。資料にはこう記されている。
「全国市長会に合わせて上京した際に、高市大臣、堀井先生(編集部注:奈良選出の堀井巌・参議院議員)に状況を報告した」
さらに、昨年8月20日に行なわれたゴミ処理施設の起工式と安全祈願祭には、高市氏が最前列に招待されていたことも、組合の資料に残されている。高市事務所によると、「当日は地元秘書が代理で出席した」という。
そもそも高市氏にとって、選挙区である天理市に本部を置く公称信者数118万人の宗教法人・天理教の存在は大きい。以前、本誌(2015年1月1・9日号)では、高市氏が代表を務める「自民党奈良県第2選挙区支部」が教団本部に会費名目で2万円を支払ったほか、教団機関紙「天理時報」を発行する天理時報社に、封筒代や印刷代などを支出していたことを報じている。
2007年3月には、その「天理時報」で教団の資格を持つ信者を表わす「ようぼく」として紹介されたと共産党機関誌「赤旗」が報じたが、高市氏は信者であることを否定している。地元の政界関係者はこう言う。
「このゴミ処理施設建設は、結果的に天理市周辺の自民党議員と天理教でウィン・ウィンの構図になっている。天理教にはカネが入り、議員側は天理教の票にいっそう期待できる。並河市長にいたっては天理教の信者であることを公言し、癒着関係が疑われても仕方ない」
もっとも並河氏は、自身が天理教の教団に所属していることを認めたうえで、「それとこれとは何の関係もない」と断言。また天理教本部に問い合わせると、「ごみ処理場ということで、当初より賃貸という前提でお話をいただいていました」(渉外広報課)と回答した。
並河氏は天理教の土地を購入しなかった理由を「地元住民の要望」と説明した。しかし、入手した天理市が行なった地元住民への説明会の記録によると、建設予定地にほど近い同市和爾町の役員と住民から「普通は(土地を)買収するのと違うのか」(2015年3月27日)、「土地が安い時代になぜ借地にするのか、腑に落ちない」(同年7月25日)などと疑問の声が相次ぎ、並河氏は「場合によっては購入する事も有り得るのだろうと思います」と答えている。
一方、それに先立つ同年3月12日に行なわれた市内の区長会の会議録によれば、並河氏は「最初に地権者の所にお話しに行きました」「借地という事で今、同意をいただいております」と説明したと記録されており、はじめから賃借ありきだったのは明らかだ。
敗れた現職の荒井知事を直撃すると、「何も話せない」と言うばかりだが、当選した維新の山下真・次期知事に話を聞くと、「(土地は)購入したほうが安くなるなら、購入する選択肢をまずは取るべきと思う。(賃料が)不当に高いのならば、問題になるケースはあるのでは」と語った。
そして、苦しい立場にある高市氏にとっては、この問題がさらなる重石としてのしかかる。
高市事務所は、土地の契約が問題になっていること、この問題が保守分裂の原因の1つではないかという問いについては「存じ上げません」とした上で、並河市長から説明を受けたかについても、「天理市長のみならず10市町村長とは度々面会し、環境省へのご相談のセットを致しましたが、土地の所有者や金額等については聞いておりません」との回答だった。
高市氏の師である安倍晋三・元首相は、国有地処分をめぐる森友学園問題(※注)で窮地に立たされた。今また、構図は違えど第二の森友問題ともいうべき土地問題が、愛弟子に降りかかろうとしている。今後も動向を見守る必要がある。
【※注/2017年2月、大阪・豊中市の国有地が、小学校の建設用地として学校法人「森友学園」に鑑定価格より大幅に安く売却されていたことが発覚。9億5600万円の鑑定額に対し、国は地中のゴミの撤去費用などとして約8億円値引きし、1億3400万円で学園側に売却していた。国は当初、売却額を公表せず、学園との交渉記録も「規則に従って廃棄した」と説明。さらに小学校の名誉校長が安倍首相の妻の昭恵氏だったことなどから、国会では野党が売却の経緯や政治家の関与の有無などを追及する大問題になった】
リポート/小川寛大(季刊『宗教問題』編集長)と本誌取材班
※週刊ポスト2023年4月28日号