天下り大国、ニッポン。その温床は霞が関だけにあらず。
目下、国土交通省OBによる民間会社人事介入問題が国会で紛糾している。本田勝元国土交通事務次官(69、現東京メトロ会長)らが、同省と利害関係の深い民間企業「空港施設」の人事に介入し、国交省OBの副社長を社長に立てるように要求していた問題が取り沙汰されているのだ。
空港施設によると、本田氏は自らを「OBの名代」だとして、「社長に就任させれば国交省としてサポートする」とも述べたという。国交省の威光を背にした、露骨な人事介入と言うほかない。
「’07年に国家公務員法が改正され、省庁が天下り先を組織的にあっせんすることを規制しました。むろんこれは表向きの対応で、役人たちがあの手この手で天下り先を探している実情は変わりません。
ところが、半ば天下りを黙認されている公務員がいます。『東京都職員』です。東京都職員は国家公務員法の範囲外。’15年に施行された『東京都職員の退職管理に関する条例』で都職員の退職管理がなされているはずが、実際は外郭団体や関連の深い企業などに何事もなく天下っています」(都政担当記者)
その象徴ともいえる人事があった。今年4月1日付で、前東京都交通局長の武市玲子氏(60)が「はとバス」の代表取締役社長に就任したのだ。武市氏は一橋大学商学部卒業後、’86 年4月に東京都に入都。’15年7月に生活文化局総務部長、’22 年4月には交通局長に昇進し、「東京臨海高速鉄道」や「ゆりかもめ」など、都が出資する第三セクターの取締役も歴任している。
はとバスは1948年(昭和23年)、東京都から営業権を得て発足。都の出資額は1億7070万円で、持ち株比率37.9%の筆頭株主だ。同社は都営バス38路線の運行管理を行なっており、関係は深い。
「はとバスの社長ポストは東京都職員の『指定席』です」と声を潜めて言うのは、ある都庁職員。たしかに武市氏の前任は、都主税局長だった塩見清仁氏(63・’20年10月就任)。塩見氏の前任は、同交通局長や都知事本局長を歴任した中村靖氏(69・’19年9月就任)が務めている。
さらにその前の社長は、交通局長だった金子正一郎氏(71・’11年9月就任)であり、’98年に社長に就任した元交通局長の宮端清次氏は『はとバスをV字回復させた社長の習慣』(祥伝社)なる本まで執筆している。
都との関係がどれだけ深くても、はとバスはあくまで民間企業だ。国家公務員の霞が関官僚と違い、都職員は「地方公務員」であるものの、確認できるだけで5代にわたって局長級が社長に就任しているとあれば、立派な天下りの温床と言えよう。
東京都報道課に質問を送ると以下の返答があった。
「はとバスは、都の事業協力団体であり、『東京都職員の退職管理に関する条例』に基づき、外部有識者による退職管理委員会への諮問を経た上で、適切な人材を推薦することが必要な団体として指定されており、これまで都庁で培ってきた知識、経験、能力などを踏まえ、適切な人材を推薦しています。その上で、都退職者を採用するかを含め、再就職先である企業の人事については、企業自らの経営判断により決定しています」
なお、はとバスからは「人格・経歴を含め適正な方を適法に選任しております」という回答があった。
前出の都庁職員が、匿名を条件に実情を語る。
「霞が関のキャリア官僚の天下り先と比べると、給料はやや少なめです。局長の年収は1600万円ほどですが、はとバス社長に就任すると3割減の1千万円程度になる。なお、天下り先では退職金は出ません。フォローする訳ではありませんが、都の局長級は激務。誰もやりたがらないのです。それをわかっているからこそ、『あれだけ働いたのだから、次のポスト(天下り先)が与えられてもいいのでは』と都庁内には黙認する雰囲気が醸成された側面はある」
ちなみに、武市新社長の夫の武市敬前副知事(63)も、今年5月から「東京都人材支援事業団」理事長に就任する。
「武市前副知事は財務局長などを歴任し、’21年に小池百合子都知事(70)が過労で入院した際には知事代理も務めました。副知事の年収は2200万円程度で、次のポストではその7割程度の給料を受け取るそうです。省庁のキャリア官僚ほどでないにしても、武市夫妻は合計年収3000万円に迫る天下り生活を2、3年送ることになる」(同前)
2人の天下りは氷山の一角にすぎない。「伏魔殿」と称されることも多い東京都だが、来年任期満了を迎える小池都知事は見て見ぬふりを続けたまま、逃げ切るつもりだろうか。
取材・文:岩崎大輔