患者への暴力で看護師が逮捕された東京・八王子市の精神科病院「滝山病院」。「何があったのか知りたい」弟を亡くした姉が私たちの取材に語った言葉です。弟の顔を写した写真には大きなアザが…他にも被害を訴える患者家族が相次ぎ、弁護士は「救助」を訴えています。【写真を見る】死んだ弟の顔に“アザ”が…遺族が疑念 東京・八王子市の精神科病院で患者虐待常態化か 高い死亡退院率なぜ? 院長は過去に診療報酬不正請求で保険医資格取り消し【news23】遺族の疑念 “あるはずのない”大きなアザ…弟が滝山病院で死亡退院した女性「(写真を見せながら)アザがよくわかると思うんですけど、目の周りがまだ赤いです」5年前の2018年、滝山病院に入院中の弟(当時49歳)が心肺停止になったと連絡を受けた女性。

駆けつけると、弟の顔には“あるはずのない”大きなアザがありました。弟が滝山病院で死亡退院した女性「看護師に聞いたところ『理由はわからない』と言われて、わからないって何だろうと。病院にいるのに傷病に対して『わからない』って返事があるのかなと」2週間後、女性の弟は亡くなりました。病院から知らされた死因は「心筋梗塞」。アザの原因は今もわからないままです。滝山病院の関係者が撮影した内部映像には…職員「(患者を枕で2回叩く)うるせえ、みんな寝てんだろ」別の映像でも…職員「しゃべるなって言ってんだろ」患者「大丈夫です」職員「(患者を叩く)しゃべるなって言ってんだろ」患者「怖い怖い痛い」職員「黙ってろ、メシ来るまで」また残された音声には…患者「痰とってください」職員「イヤです(笑い声)お前の言う事なんか聞かねえよ」職員「憎たらしい、このばか男。しょんべんかけてやるぞ、あんたのしょんべんを」職員「そんな痛くねえから。もっと本気でいくぞ、なあ」(大きな音)職員「こうだよ、本気でいったら」職員「このくらいで勘弁してもらって、ありがとうだろ。本気でいったらもっと痛えぞ」患者「痛い」職員「おい、おい、これ本当に暴力か?本気でいくぞ。腕の骨折るぞ、お前」喜入友浩キャスター「細い山道を10分ほど登ってきました。周りに住宅はなく木々に囲まれています。人気はほとんどなく車の往来が時折あるくらいで、この山の上の方にぽつんとあるのが滝山病院です。カーテンはほとんど閉まっていますね」東京・八王子市の精神科病院「滝山病院」。50代の看護師の男が、患者への暴行の疑いで2023年2月に逮捕されたほか、別の3人の職員についても警視庁が捜査しています。精神科の病床が9割を占める病院。ホームページには「患者様は家族である」と謳われています。弟が滝山病院で死亡退院した女性「(報道を見て)やっぱりなって思いました。ひょっとしたらうちも?って」滝山病院で入院中の弟を亡くした女性。弟は知的障がいと診断されていて、統合失調症や糖尿病を患っていました。弟が滝山病院で死亡退院した女性「(転院したくても)透析をしているのでなかなか移転先が見つからず、そのままの状態でずっと入院することになった」女性の弟の看護記録を見せてくれたのは、精神科で勤務経験があり、患者の支援にあたる相原弁護士です。亡くなる数か月前までさかのぼっても、看護記録にアザのことは書かれていません。患者や家族を支援相原啓介弁護士「当然治療もするだろうから、治療歴があるはず」「残せない理由として一番考えられるのは、殴られてあざができたので記載していないという可能性が高い」ただ、女性とのやりとりだけは残されていました。女性の弟の看護記録「『顔面の内出(血)はどうしたんですか』と質問あり、転棟時にはあったと伝える」弟が滝山病院で死亡退院した女性「原因を知りたい。おかしいなと思ってこの5年間ずっといるので、そこがはっきりするといいなと」”不適切な治療”と高い”死亡退院率”… 元職員の証言は暴力や暴言だけでなく“不適切な治療”が疑われるケースもありました。相原弁護士「(資料を見せながら)こちらの方は、最後の褥瘡(じょくそう)が骨まで露出している」ーー今はどういう状況?「残念ながらお亡くなりになっています」2022年1月、入院中に亡くなった77歳の男性。男性の死後、家族がカルテの開示請求をしたところ、寝たきりの人にできることがある「褥瘡(じょくそう)」、いわゆる「床ずれ」ができていることが分かりました。腰のあたり10センチ四方の皮膚が壊死し、内部が露出してしまうほど重度の状態でした。相原弁護士「この方のカルテをどんな医療関係者に見せても、こんな褥瘡は見たことがないというレベル。病院で寝たきりの人は職員が体位を変える、そういったことを適切にやっていれば褥瘡はもちろん防げる。死因との関係はわからないが、かなり死因との関係も疑われる可能性があると」民間団体の調査では、滝山病院で死亡・退院する人の割合が約65%という年もありました。全国の精神病床の平均8.2%と比べると、非常に高い水準です。なぜ、こうした事態が起きていたのか。私たちは15年ほど前まで滝山病院で働いていた非常勤の看護師に話を聞くことができました。滝山病院の元非常勤看護師「非常勤職員の多さから情報共有の質や責任感は低く、色々な意味で荒廃した環境だった」「必要な頻度で見回りを行っている看護師も、ほとんどいなかったと記憶しています」医師の指示がない不当な身体拘束。車いすに患者を拘束し、車椅子ごと横向きに倒すといったこともあったといいます。こうした問題は過去にも…「無理矢理縛る」過去にも問題に 院長は保険医取り消しになるも…2001年、違法な身体拘束が問題となり、数多くの患者が不審な死を遂げたとされる「朝倉病院」。朝倉病院の元看護師(当時)「無理矢理縛るから。夕方5時から朝の8時9時までですよ。足も胴体もバッチリって感じ」さらに診療報酬を不正請求したとして、埼玉県などは朝倉病院の保険医療機関の指定と、院長の保険医登録を取り消す処分を行い、朝倉病院は廃院となりました。この朝倉病院の院長だったのが、今回事件があった滝山病院の院長です。滝山病院の元看護師はこう証言します。滝山病院の元非常勤看護師「院長は診療報酬に偏重し、過度な医療提供を行う傾向にある印象」「わずかな血液検査の異常値も『心不全』と診断し、過剰に抗凝固薬を投与する。最大の虐待は過剰な医療提供であると感じている」保険医は登録を取り消されても5年経てば、再登録できる仕組みですが、今回再び問題が発覚したことについて厚労大臣は…加藤勝信厚労大臣「個別事案になるから差し控えたいと思うが、引き続き規定等に則って適切に対応していきたい」患者の家族などから相談を受けている相原弁護士は、新たに複数の職員などを刑事告発する準備を進めています。相原弁護士「(滝山病院に)今残っている患者がまだ150人ぐらいいるのではないか。その方たちの”救助”が最初かなと考えている。外部の目がなければ変わらない病院・施設であるのは現実としてある」病院側は、「捜査機関などの調査に全面的に協力し、事実関係が明らかになった時点で当該職員に対して必要な対応を行う」としています。喜入キャスター:入院している患者の家族でさえも、会いたいときに病院が面会させてくれない、こういった事態もあるようで、相原弁護士のもとには「病院から家族を救ってほしい」そういった声が多く寄せられています。小川彩佳キャスター:明らかになっている音声を聞いていても戦慄が走ります。患者さんがどれだけ恐ろしかったかというふうに感じますけれども、宮田さんはこの事件をどうご覧になっていますか?データサイエンティスト宮田裕章氏:そうですね。人権上深刻な話であって、本当にあってはならないことですよね。そして院長が以前にも同じようなことを起こしていたのに、なぜ再発防止ができなかったのか。あるいはもっと早い段階で予見できなかったのか。これ以外にも例えば在院死亡率の高さというデータがあるんですけども、そういったものもモニタリングできるはずなんですよ。他にもこういった可能性があるのかどうかも含めて、早急に検討していくべきだろうなと思います。喜入キャスター:生活保護を担うケースワーカーなど行政の担当者などを介して入院する患者さんもいらっしゃいますが、相原弁護士はこの滝山病院について、行政側が頼ってしまう病院だと指摘しています。他の病院では受け入れてくれない患者も滝山病院であったら受け入れてくれる。ですから評判が悪いことをわかっていても頼らざるを得ない状況もあるのではないかと指摘されています。小川キャスター:滝山病院の環境に問題があったということが大いに考えられるわけですけれども、こうした悲劇が続いてしまった背景には構造的な問題があるのではないかという指摘がありますが、どう受け止めますか?宮田氏:精神科医療に関わる複数の人たちとも、この問題を話したんですが、やはり口を揃えて言うのはシステム全体のしわ寄せが特定の病院に行く傾向があるということ。行き場のない患者さんを受け入れる中で、この評価が適切になされていないと、医療の質そのものも低くなってしまうというケースが起こりうるんですよね。必要なのは風通しがいいというか透明化されていて、その上で患者さんの人格が尊重されたり、その人らしい暮らしができているかどうかということを評価する必要があると。やはり病院という中、あるいは特定の病院へのしわ寄せというような形だけではなくて、地域全体を巻き込んで、風通しの良さというのをこの社会で作っていく必要があるのかなというふうに思います。小川キャスター:外部の目がないと変われないというふうに弁護士の方がおっしゃってましたね。宮田氏:やはりこの目の届かないところにこういった問題を置いてしまったっていうことも、この問題の一つの原因になってるんじゃないかなと思います。
患者への暴力で看護師が逮捕された東京・八王子市の精神科病院「滝山病院」。「何があったのか知りたい」弟を亡くした姉が私たちの取材に語った言葉です。弟の顔を写した写真には大きなアザが…他にも被害を訴える患者家族が相次ぎ、弁護士は「救助」を訴えています。
【写真を見る】死んだ弟の顔に“アザ”が…遺族が疑念 東京・八王子市の精神科病院で患者虐待常態化か 高い死亡退院率なぜ? 院長は過去に診療報酬不正請求で保険医資格取り消し【news23】遺族の疑念 “あるはずのない”大きなアザ…弟が滝山病院で死亡退院した女性「(写真を見せながら)アザがよくわかると思うんですけど、目の周りがまだ赤いです」5年前の2018年、滝山病院に入院中の弟(当時49歳)が心肺停止になったと連絡を受けた女性。

駆けつけると、弟の顔には“あるはずのない”大きなアザがありました。弟が滝山病院で死亡退院した女性「看護師に聞いたところ『理由はわからない』と言われて、わからないって何だろうと。病院にいるのに傷病に対して『わからない』って返事があるのかなと」2週間後、女性の弟は亡くなりました。病院から知らされた死因は「心筋梗塞」。アザの原因は今もわからないままです。滝山病院の関係者が撮影した内部映像には…職員「(患者を枕で2回叩く)うるせえ、みんな寝てんだろ」別の映像でも…職員「しゃべるなって言ってんだろ」患者「大丈夫です」職員「(患者を叩く)しゃべるなって言ってんだろ」患者「怖い怖い痛い」職員「黙ってろ、メシ来るまで」また残された音声には…患者「痰とってください」職員「イヤです(笑い声)お前の言う事なんか聞かねえよ」職員「憎たらしい、このばか男。しょんべんかけてやるぞ、あんたのしょんべんを」職員「そんな痛くねえから。もっと本気でいくぞ、なあ」(大きな音)職員「こうだよ、本気でいったら」職員「このくらいで勘弁してもらって、ありがとうだろ。本気でいったらもっと痛えぞ」患者「痛い」職員「おい、おい、これ本当に暴力か?本気でいくぞ。腕の骨折るぞ、お前」喜入友浩キャスター「細い山道を10分ほど登ってきました。周りに住宅はなく木々に囲まれています。人気はほとんどなく車の往来が時折あるくらいで、この山の上の方にぽつんとあるのが滝山病院です。カーテンはほとんど閉まっていますね」東京・八王子市の精神科病院「滝山病院」。50代の看護師の男が、患者への暴行の疑いで2023年2月に逮捕されたほか、別の3人の職員についても警視庁が捜査しています。精神科の病床が9割を占める病院。ホームページには「患者様は家族である」と謳われています。弟が滝山病院で死亡退院した女性「(報道を見て)やっぱりなって思いました。ひょっとしたらうちも?って」滝山病院で入院中の弟を亡くした女性。弟は知的障がいと診断されていて、統合失調症や糖尿病を患っていました。弟が滝山病院で死亡退院した女性「(転院したくても)透析をしているのでなかなか移転先が見つからず、そのままの状態でずっと入院することになった」女性の弟の看護記録を見せてくれたのは、精神科で勤務経験があり、患者の支援にあたる相原弁護士です。亡くなる数か月前までさかのぼっても、看護記録にアザのことは書かれていません。患者や家族を支援相原啓介弁護士「当然治療もするだろうから、治療歴があるはず」「残せない理由として一番考えられるのは、殴られてあざができたので記載していないという可能性が高い」ただ、女性とのやりとりだけは残されていました。女性の弟の看護記録「『顔面の内出(血)はどうしたんですか』と質問あり、転棟時にはあったと伝える」弟が滝山病院で死亡退院した女性「原因を知りたい。おかしいなと思ってこの5年間ずっといるので、そこがはっきりするといいなと」”不適切な治療”と高い”死亡退院率”… 元職員の証言は暴力や暴言だけでなく“不適切な治療”が疑われるケースもありました。相原弁護士「(資料を見せながら)こちらの方は、最後の褥瘡(じょくそう)が骨まで露出している」ーー今はどういう状況?「残念ながらお亡くなりになっています」2022年1月、入院中に亡くなった77歳の男性。男性の死後、家族がカルテの開示請求をしたところ、寝たきりの人にできることがある「褥瘡(じょくそう)」、いわゆる「床ずれ」ができていることが分かりました。腰のあたり10センチ四方の皮膚が壊死し、内部が露出してしまうほど重度の状態でした。相原弁護士「この方のカルテをどんな医療関係者に見せても、こんな褥瘡は見たことがないというレベル。病院で寝たきりの人は職員が体位を変える、そういったことを適切にやっていれば褥瘡はもちろん防げる。死因との関係はわからないが、かなり死因との関係も疑われる可能性があると」民間団体の調査では、滝山病院で死亡・退院する人の割合が約65%という年もありました。全国の精神病床の平均8.2%と比べると、非常に高い水準です。なぜ、こうした事態が起きていたのか。私たちは15年ほど前まで滝山病院で働いていた非常勤の看護師に話を聞くことができました。滝山病院の元非常勤看護師「非常勤職員の多さから情報共有の質や責任感は低く、色々な意味で荒廃した環境だった」「必要な頻度で見回りを行っている看護師も、ほとんどいなかったと記憶しています」医師の指示がない不当な身体拘束。車いすに患者を拘束し、車椅子ごと横向きに倒すといったこともあったといいます。こうした問題は過去にも…「無理矢理縛る」過去にも問題に 院長は保険医取り消しになるも…2001年、違法な身体拘束が問題となり、数多くの患者が不審な死を遂げたとされる「朝倉病院」。朝倉病院の元看護師(当時)「無理矢理縛るから。夕方5時から朝の8時9時までですよ。足も胴体もバッチリって感じ」さらに診療報酬を不正請求したとして、埼玉県などは朝倉病院の保険医療機関の指定と、院長の保険医登録を取り消す処分を行い、朝倉病院は廃院となりました。この朝倉病院の院長だったのが、今回事件があった滝山病院の院長です。滝山病院の元看護師はこう証言します。滝山病院の元非常勤看護師「院長は診療報酬に偏重し、過度な医療提供を行う傾向にある印象」「わずかな血液検査の異常値も『心不全』と診断し、過剰に抗凝固薬を投与する。最大の虐待は過剰な医療提供であると感じている」保険医は登録を取り消されても5年経てば、再登録できる仕組みですが、今回再び問題が発覚したことについて厚労大臣は…加藤勝信厚労大臣「個別事案になるから差し控えたいと思うが、引き続き規定等に則って適切に対応していきたい」患者の家族などから相談を受けている相原弁護士は、新たに複数の職員などを刑事告発する準備を進めています。相原弁護士「(滝山病院に)今残っている患者がまだ150人ぐらいいるのではないか。その方たちの”救助”が最初かなと考えている。外部の目がなければ変わらない病院・施設であるのは現実としてある」病院側は、「捜査機関などの調査に全面的に協力し、事実関係が明らかになった時点で当該職員に対して必要な対応を行う」としています。喜入キャスター:入院している患者の家族でさえも、会いたいときに病院が面会させてくれない、こういった事態もあるようで、相原弁護士のもとには「病院から家族を救ってほしい」そういった声が多く寄せられています。小川彩佳キャスター:明らかになっている音声を聞いていても戦慄が走ります。患者さんがどれだけ恐ろしかったかというふうに感じますけれども、宮田さんはこの事件をどうご覧になっていますか?データサイエンティスト宮田裕章氏:そうですね。人権上深刻な話であって、本当にあってはならないことですよね。そして院長が以前にも同じようなことを起こしていたのに、なぜ再発防止ができなかったのか。あるいはもっと早い段階で予見できなかったのか。これ以外にも例えば在院死亡率の高さというデータがあるんですけども、そういったものもモニタリングできるはずなんですよ。他にもこういった可能性があるのかどうかも含めて、早急に検討していくべきだろうなと思います。喜入キャスター:生活保護を担うケースワーカーなど行政の担当者などを介して入院する患者さんもいらっしゃいますが、相原弁護士はこの滝山病院について、行政側が頼ってしまう病院だと指摘しています。他の病院では受け入れてくれない患者も滝山病院であったら受け入れてくれる。ですから評判が悪いことをわかっていても頼らざるを得ない状況もあるのではないかと指摘されています。小川キャスター:滝山病院の環境に問題があったということが大いに考えられるわけですけれども、こうした悲劇が続いてしまった背景には構造的な問題があるのではないかという指摘がありますが、どう受け止めますか?宮田氏:精神科医療に関わる複数の人たちとも、この問題を話したんですが、やはり口を揃えて言うのはシステム全体のしわ寄せが特定の病院に行く傾向があるということ。行き場のない患者さんを受け入れる中で、この評価が適切になされていないと、医療の質そのものも低くなってしまうというケースが起こりうるんですよね。必要なのは風通しがいいというか透明化されていて、その上で患者さんの人格が尊重されたり、その人らしい暮らしができているかどうかということを評価する必要があると。やはり病院という中、あるいは特定の病院へのしわ寄せというような形だけではなくて、地域全体を巻き込んで、風通しの良さというのをこの社会で作っていく必要があるのかなというふうに思います。小川キャスター:外部の目がないと変われないというふうに弁護士の方がおっしゃってましたね。宮田氏:やはりこの目の届かないところにこういった問題を置いてしまったっていうことも、この問題の一つの原因になってるんじゃないかなと思います。
弟が滝山病院で死亡退院した女性「(写真を見せながら)アザがよくわかると思うんですけど、目の周りがまだ赤いです」
5年前の2018年、滝山病院に入院中の弟(当時49歳)が心肺停止になったと連絡を受けた女性。
駆けつけると、弟の顔には“あるはずのない”大きなアザがありました。
弟が滝山病院で死亡退院した女性「看護師に聞いたところ『理由はわからない』と言われて、わからないって何だろうと。病院にいるのに傷病に対して『わからない』って返事があるのかなと」
2週間後、女性の弟は亡くなりました。病院から知らされた死因は「心筋梗塞」。アザの原因は今もわからないままです。
滝山病院の関係者が撮影した内部映像には…
職員「(患者を枕で2回叩く)うるせえ、みんな寝てんだろ」
別の映像でも…
職員「しゃべるなって言ってんだろ」患者「大丈夫です」職員「(患者を叩く)しゃべるなって言ってんだろ」患者「怖い怖い痛い」職員「黙ってろ、メシ来るまで」
また残された音声には…
患者「痰とってください」職員「イヤです(笑い声)お前の言う事なんか聞かねえよ」
職員「憎たらしい、このばか男。しょんべんかけてやるぞ、あんたのしょんべんを」
職員「そんな痛くねえから。もっと本気でいくぞ、なあ」(大きな音)職員「こうだよ、本気でいったら」
職員「このくらいで勘弁してもらって、ありがとうだろ。本気でいったらもっと痛えぞ」患者「痛い」職員「おい、おい、これ本当に暴力か?本気でいくぞ。腕の骨折るぞ、お前」
喜入友浩キャスター「細い山道を10分ほど登ってきました。周りに住宅はなく木々に囲まれています。人気はほとんどなく車の往来が時折あるくらいで、この山の上の方にぽつんとあるのが滝山病院です。カーテンはほとんど閉まっていますね」
東京・八王子市の精神科病院「滝山病院」。50代の看護師の男が、患者への暴行の疑いで2023年2月に逮捕されたほか、別の3人の職員についても警視庁が捜査しています。
精神科の病床が9割を占める病院。ホームページには「患者様は家族である」と謳われています。
弟が滝山病院で死亡退院した女性「(報道を見て)やっぱりなって思いました。ひょっとしたらうちも?って」
滝山病院で入院中の弟を亡くした女性。弟は知的障がいと診断されていて、統合失調症や糖尿病を患っていました。
弟が滝山病院で死亡退院した女性「(転院したくても)透析をしているのでなかなか移転先が見つからず、そのままの状態でずっと入院することになった」
女性の弟の看護記録を見せてくれたのは、精神科で勤務経験があり、患者の支援にあたる相原弁護士です。
亡くなる数か月前までさかのぼっても、看護記録にアザのことは書かれていません。
患者や家族を支援相原啓介弁護士「当然治療もするだろうから、治療歴があるはず」「残せない理由として一番考えられるのは、殴られてあざができたので記載していないという可能性が高い」
ただ、女性とのやりとりだけは残されていました。
女性の弟の看護記録「『顔面の内出(血)はどうしたんですか』と質問あり、転棟時にはあったと伝える」
弟が滝山病院で死亡退院した女性「原因を知りたい。おかしいなと思ってこの5年間ずっといるので、そこがはっきりするといいなと」
暴力や暴言だけでなく“不適切な治療”が疑われるケースもありました。
相原弁護士「(資料を見せながら)こちらの方は、最後の褥瘡(じょくそう)が骨まで露出している」
ーー今はどういう状況?
「残念ながらお亡くなりになっています」
2022年1月、入院中に亡くなった77歳の男性。男性の死後、家族がカルテの開示請求をしたところ、寝たきりの人にできることがある「褥瘡(じょくそう)」、いわゆる「床ずれ」ができていることが分かりました。
腰のあたり10センチ四方の皮膚が壊死し、内部が露出してしまうほど重度の状態でした。
相原弁護士「この方のカルテをどんな医療関係者に見せても、こんな褥瘡は見たことがないというレベル。病院で寝たきりの人は職員が体位を変える、そういったことを適切にやっていれば褥瘡はもちろん防げる。死因との関係はわからないが、かなり死因との関係も疑われる可能性があると」
民間団体の調査では、滝山病院で死亡・退院する人の割合が約65%という年もありました。全国の精神病床の平均8.2%と比べると、非常に高い水準です。
なぜ、こうした事態が起きていたのか。私たちは15年ほど前まで滝山病院で働いていた非常勤の看護師に話を聞くことができました。
滝山病院の元非常勤看護師「非常勤職員の多さから情報共有の質や責任感は低く、色々な意味で荒廃した環境だった」「必要な頻度で見回りを行っている看護師も、ほとんどいなかったと記憶しています」
医師の指示がない不当な身体拘束。車いすに患者を拘束し、車椅子ごと横向きに倒すといったこともあったといいます。
こうした問題は過去にも…
2001年、違法な身体拘束が問題となり、数多くの患者が不審な死を遂げたとされる「朝倉病院」。
朝倉病院の元看護師(当時)「無理矢理縛るから。夕方5時から朝の8時9時までですよ。足も胴体もバッチリって感じ」
さらに診療報酬を不正請求したとして、埼玉県などは朝倉病院の保険医療機関の指定と、院長の保険医登録を取り消す処分を行い、朝倉病院は廃院となりました。
この朝倉病院の院長だったのが、今回事件があった滝山病院の院長です。滝山病院の元看護師はこう証言します。
滝山病院の元非常勤看護師「院長は診療報酬に偏重し、過度な医療提供を行う傾向にある印象」「わずかな血液検査の異常値も『心不全』と診断し、過剰に抗凝固薬を投与する。最大の虐待は過剰な医療提供であると感じている」
保険医は登録を取り消されても5年経てば、再登録できる仕組みですが、今回再び問題が発覚したことについて厚労大臣は…
加藤勝信厚労大臣「個別事案になるから差し控えたいと思うが、引き続き規定等に則って適切に対応していきたい」
患者の家族などから相談を受けている相原弁護士は、新たに複数の職員などを刑事告発する準備を進めています。
相原弁護士「(滝山病院に)今残っている患者がまだ150人ぐらいいるのではないか。その方たちの”救助”が最初かなと考えている。外部の目がなければ変わらない病院・施設であるのは現実としてある」
病院側は、「捜査機関などの調査に全面的に協力し、事実関係が明らかになった時点で当該職員に対して必要な対応を行う」としています。
喜入キャスター:入院している患者の家族でさえも、会いたいときに病院が面会させてくれない、こういった事態もあるようで、相原弁護士のもとには「病院から家族を救ってほしい」そういった声が多く寄せられています。
小川彩佳キャスター:明らかになっている音声を聞いていても戦慄が走ります。患者さんがどれだけ恐ろしかったかというふうに感じますけれども、宮田さんはこの事件をどうご覧になっていますか?
データサイエンティスト宮田裕章氏:そうですね。人権上深刻な話であって、本当にあってはならないことですよね。そして院長が以前にも同じようなことを起こしていたのに、なぜ再発防止ができなかったのか。あるいはもっと早い段階で予見できなかったのか。これ以外にも例えば在院死亡率の高さというデータがあるんですけども、そういったものもモニタリングできるはずなんですよ。他にもこういった可能性があるのかどうかも含めて、早急に検討していくべきだろうなと思います。
喜入キャスター:生活保護を担うケースワーカーなど行政の担当者などを介して入院する患者さんもいらっしゃいますが、相原弁護士はこの滝山病院について、行政側が頼ってしまう病院だと指摘しています。他の病院では受け入れてくれない患者も滝山病院であったら受け入れてくれる。ですから評判が悪いことをわかっていても頼らざるを得ない状況もあるのではないかと指摘されています。
小川キャスター:滝山病院の環境に問題があったということが大いに考えられるわけですけれども、こうした悲劇が続いてしまった背景には構造的な問題があるのではないかという指摘がありますが、どう受け止めますか?
宮田氏:精神科医療に関わる複数の人たちとも、この問題を話したんですが、やはり口を揃えて言うのはシステム全体のしわ寄せが特定の病院に行く傾向があるということ。行き場のない患者さんを受け入れる中で、この評価が適切になされていないと、医療の質そのものも低くなってしまうというケースが起こりうるんですよね。必要なのは風通しがいいというか透明化されていて、その上で患者さんの人格が尊重されたり、その人らしい暮らしができているかどうかということを評価する必要があると。やはり病院という中、あるいは特定の病院へのしわ寄せというような形だけではなくて、地域全体を巻き込んで、風通しの良さというのをこの社会で作っていく必要があるのかなというふうに思います。
小川キャスター:外部の目がないと変われないというふうに弁護士の方がおっしゃってましたね。