「失業給付金」の支給方式が大きく見直される方向だ。
現在は自己都合で退職した場合、給付までに原則2か月以上かかるが、それが短縮されることになりそうだ。政府は2023年年6月をめどに、新しい方式をまとめるという。まだ詳細は不明だが、多くの働く人にかかわる制度変更だけに、関心を集めている。
見直しの意向は2月15日、岸田文雄首相が表明した。日経新聞によると、労働移動の円滑化に向けて「自己都合で離職した場合の失業給付のあり方を見直す」という。自己都合でやめる場合は、解雇といった会社都合に比べて給付を受けられる条件が厳しいが、制度の見直しで、転職などを進めやすい環境を整えるのが狙いだ。
NHKによると、失業給付を受けられる区分は2つある。倒産や解雇などの「会社都合離職」と、転職やキャリアアップなどの「自己都合離職」だ。両者で、給付時期や期間などが異なる。
なかでも、受け取りが始まる時期については、「会社都合離職」と「自己都合離職」では大きく異なる。「会社都合離職」はハローワークで手続きをして、受給資格の決定を受けてから7日間を経て受け取れる。一方、「自己都合離職」は、7日間に加え、原則、2か月間の「給付制限」が設けられ、その後でないと受け取れない。
岸田首相の見直し表明について、「停滞している経済を活性化するため、成長分野や人手不足の業界への人材のスムーズな移動、つまり転職を促す狙いがあるとみられます」とNHKは説明している。
インターネット上で、この制度変更へのコメントを見ると、自己都合でもすぐに失業給付がもらえるなら、転職活動がしやすくなる、という声が多い。
果たして、人材の移動や労働市場の活性化が進むのか――。
野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、同総研のサイトで、「労働者が転職するインセンティブを高め、労働移動を促す措置として選択肢の一つとなるだろう」としつつ、以下のような問題点も指摘している。
失業給付の仕組みは先進国でもかなり異なり、単純比較が難しい。最も手厚いといわれているのが仏だ。失業手当の受給額が多く、受給期間も長い。
コロナ禍の米国も手厚かった。NHKによると、感染の急拡大を受けて、20年3月に失業保険の上乗せ措置が導入され、多いときでは通常の失業保険に加えて、日本円で月に25万円程度が給付された。
日本では3年前の法改正で、自己都合による退職者への給付条件がやや緩和された。
厚労省によると、「2020(令和2)年10月1日以降に離職した人は、正当な理由がない自己都合により退職した場合であっても、5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月」となっている。それまでは、給付制限期間が「原則3か月」だったので、1か月短縮された。
今回の制度改正で、給付制限期間が現在の「2か月」から「1か月」になるのか、ゼロになるのか、などが一つの焦点になりそうだ。