廃業したホテルの一室。並べられた机の上には、電話や手書きのマニュアルが乱雑に置かれている。その部屋の隅でうずくまる金髪や坊主頭の男たち……。
下の画像は、’19年11月13日、フィリピン・マニラで特殊詐欺グループ36人が摘発された際に撮られた動画の一場面だ。この詐欺を首謀していたとされるのが、’22年10月から全国で相次いだ強盗事件の犢幕疆邉優樹容疑者(38)である。
「’19年の事件当時、渡邉が動かしていた特殊詐欺の事務所はマニラに4つあり、摘発されたのはそのうちの2つ。逮捕されたのは36人でしたが、全体で80人ほどが関与しており、被害額は35億円とも言われています。渡邉はその大ボスで、彼の下に幹部や現場を回す人間がいて、さらにその下に実行犯がいる。組織が大きすぎたため、指示系統を明らかにできず、この時、渡邉は逮捕を逃れています」(渡邉を知る関係者)
渡邉は北海道・別海町の出身。札幌すすきので客引きのバイトや飲食店経営をしていたが、’12年に窃盗で逮捕されている。その後、拠点をフィリピンに移し海外から大規模特殊詐欺を展開したが、’21年の3月頃、マニラのビクタン収容所に収容された。しかし収容所内からも、「ルフィ」などのコードネームを使用し、強盗や窃盗を指揮していた。
前述の詐欺では36人が逮捕、一連の強盗事件の逮捕者も30人以上にのぼる。渡邉はいかにして手下を集めていたのか。前出の関係者がその手口を明かす。
「特殊詐欺のグループにははじめ、渡邉の出身地・北海道の後輩が多かった。しかし、足がつくのを嫌ったのかツイッターで爛螢勝璽肇丱ぅ鉢瓩箸いμ礁椶琶臀犬鬚け、カネのない奴をフィリピンに呼んで働かせるようになりました。他にも牴圓欧襪蕕靴き瓩箸いΡ修鯤垢い振綵のヤクザが来ることもあって……人はどんどん集まりました。強盗に手を染めたあとも、SNSで手下を集めるという方法は同じだったと思います」
渡邉は、送ったメッセージがすぐに消去される「テレグラム」などのアプリで犯罪を指示していた。当然本名を名乗ることはなく、全員がコードネームでやり取り。日本国内で稼いだカネは、4000万~5000万円たまると牘燭啣悪瓩縫侫リピンまで現金で運ばせた。渡邉は収容所に入る前は毎月2億円を稼ぎ、幹部とキャバクラやカジノで豪遊していたという。
「毎日、ボディガードをつけて『シティ・オブ・ドリームズ』というカジノに通っていました。そこのレストランは本来禁煙なのですが、渡邉が来ると喫煙に替わる。そんなVIP待遇を受けるくらい、莫大なカネを使っていました」(同前)
渡邉は極めて頭のキレる男だったようだ。本来面識のない部下が逆らわぬよう、あらゆる手を使って犹拉朖瓩靴拭E邉の下で働いていた男性が語る。
「渡邉のグループは報酬も環境も良かった。驚いたのは拠点ビルの食堂に、日本食があったこと。ボス(渡邉)が皆のために日本食を用意していて、刺身、唐揚げ、味噌汁、納豆なんでもあって、全部うまかった。みんな喜んでましたよ」
良い環境を提供する一方で、カネの持ち逃げや警察への告げ口など、裏切り者への制裁は徹底的だった。
「拷問は日常茶飯事。私が知る限りでは一人殺されています。全裸で自慰行為させたり、歯ブラシを笑いながらお尻に突っ込まれて殴られたり。ボスに背いて自分でビジネスを始めようとした奴は、縛られて刃物で背中を何度も刺され、ズタズタにされていました。それを動画で撮って見せしめにするんです。ボスが直接手を下すことはないですが、みんな彼に気に入られたくて必死だったので指示されたら喜んでやっていましたね」(同前)
この元部下は、今回の強盗事件も渡邉たちの仕業だとすぐに気づいたという。
「親の職場まで電話して絶対に逃げられないようにする。テレビ電話で四六時中監視する。気に入らないことがあれば警察に情報提供して逮捕させる。これは完全に渡邉のやり方。あの男はそうやって言いなりになる人間を作っていくんです」
酒に酔うことはなく、ドラッグにも手を出さず常に冷静で、「俺には人が嫌がることがわかる」と周囲に豪語していた渡邉。カネと恐怖で手下を支配してきた男が、裁かれる日は近い。
『FRIDAY』2023年2月17日号より