裁判を傍聴していると、議員、警察官、スポーツ選手が罪に問われる場面に遭遇することがある。絶対やってはいけない立場の人間が、一体なぜなのか。
2022年10月、大阪地裁にて麻薬特例法違反に問われたのは、小学校の元校長だった。あろうことか、現職時代から覚醒剤を使用していたことも明らかになった。法廷で語った呆れた弁明とは。(裁判ライター:普通)
被告人は60代の男性。小学校校長まで勤め上げ、定年後も教員補助として学校で勤務していたが、今回の事件をきっかけに職を失った。問われている罪名は「麻薬特例法違反」。覚醒剤0.2gをインターネットの掲示板で購入し、郵便物として受け取った譲受の行為に問われている。ただし、本人は覚醒剤の購入、使用を認めていたものの、購入した薬物は廃棄されていたため立証が困難と判断したからか、覚醒剤取締法違反ではなく、麻薬特例法での起訴となった。
細身で、メガネをかけた被告人は、どこにでもいそうな普通の60代男性だ。朝、校門の前で児童らに挨拶をする姿も想像に難くない。違法薬物に手を染めているとは、その見た目からは考えにくい。
初めて覚醒剤を使ったのは50歳のころ。教頭から校長に就任するころの話だと供述した。仕事が増えたのと同時に、離婚して子どもと別居、同居する両親の介護が始まり、公私ともに大きなストレスにさらされることになった。薬物使用を肯定することは到底できないが、当時の憔悴ぶりは十分に伝わるものがあった。
その後、具体的な年数は不明だが、覚醒剤と距離を置いた時期もあったものの、定年を迎えてまた手を出してしまう。今まで行ってきた業務のはずなのに、校長という重責から解放されたからかミスが続いた。普段なら再婚した妻との外出などで気を紛らわすが、コロナ禍となり家に留まっている内に心が荒んでいったという。
そして、覚醒剤にふたたび手を出してしまったのである。
使用を再開してからは2~3カ月に1度ほどのペースでインターネットの掲示板で購入した。一度使うと「身体が嫌悪感などを覚える」ため、残りはトイレに捨てていたと明かした。
弁護人「違法とわかっているのにどうして使ってしまうのでしょう?」被告人「頭の中で違法という考えと、もう片一方でいつも捨てられているし、すぐやめられるだろうという思いがあり」 弁護人「やめられるじゃなくて、1回でも使ってはいけないんです」被告人「1回でもやったらアウトだと、CMなどを見てわかってはいたのですが」 検察官「子どもを相手にする立場としてふさわしくないと思わなかったのですか?」被告人「もちろん、そういう気持ちはありました。でも在任中は、夏休みとかにやっていただけなので」
違法薬物をひと夏のちょっとした経験くらいに思っていたのだろうか。これには、さすがに検察官も黙っていられず、改めて犯行時の状況や社会復帰後の生活環境などを確認した。被告人は再婚した妻に、今回の事件については自らの口からきちんと説明していないという。
最後に検察官から、覚醒剤を選んだ理由、その依存性について確認をした。
検察官「いろんな違法薬物がある中で覚醒剤を選んだのは何故ですか?」被告人「覚醒剤を探していたのでなく、掲示板で『ストレス解消』とか『バキバキになる』という効果がある薬ということで選びました」 検察官「そんな得体の知れない薬をどうして使う気になれるんですか?」被告人「そのときのストレスと、すぐやめられるという思いからです」 検察官「1回使ったら捨てると言っていましたけど、どうしてまた買っちゃうんですか?」被告人「それが、自分でもわからないんですよね」 検察官「それが依存していたということなのではないですか?」被告人「そうなんだと思います」
今後、辛いことがあったら、すぐ周囲に相談すると証言した被告人。最後まで薬物脱却のための病院へ通うといった意見は出なかったのは、まだ自分で辞められると思っているからだろうか。
裁判の結審を前に、最後に被告人が意見陳述を行った。
「2度と違法薬物は使用しません。ただ、なかなか依存症というのは、ゴールにするのは難しいので、プロセスを大事にして歩んでいきたいです」
判決は懲役1年、執行猶予3年だった。
【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。