成人を迎えられてから1年。天皇皇后両陛下の長女・愛子さまは最近、外出される機会が増えている。初対面の人に自ら声をかけ、笑顔で交流される愛子さまの知られざるコミュニケーション力と母娘の新たな距離感とは。
雲一つ無い青空のもと、3年ぶりに行われた新年一般参賀。お出ましの時刻が近づくと、宮殿東庭は静寂に包まれ、両陛下、上皇ご夫妻、秋篠宮ご夫妻に続き愛子さまの姿が見えると、静かなどよめきが起こった。
淡い水色のロングドレスは立ち襟で、皇后雅子さまもよくお召しになるスタイル。
成年皇族として今回が初めての出席で、愛子さまは背筋を伸ばして両陛下の横に立たれると、会場を広く見渡し、初めて見る景色を確かめられているようだった。
陛下のおことばにじっと耳を傾け、両陛下が会場に手を振られると、隣の秋篠宮さまが手を振り始められたことを確認してからご自身も手を振られていた。1回目、2回目と回数を重ねるごとに場に慣れ、表情も柔らかくなっていった。
両陛下と上皇ご夫妻に愛子さまが加わった「5ショット」、実は映像として拝見するのは初めてのこと。新年の際に秋篠宮ご一家とともにご家族集まっての映像はこれまでにもあったが、5方が並ばれたお姿を今回初めて目にし、改めて成年皇族となった愛子さまの凜とした清々しい存在感を実感した。
大学3年生の愛子さまは学習院大学入学以来、感染予防のため授業はオンラインのみ。リポートの作成などに意欲的に取り組み、徹底して外出を控られていたが、秋以降、少しずつ皇族として活動されるお姿が見られるようになった。
11月の最初の週末、皇居内で行われた雅楽の演奏会へ。去年、成年皇族となった愛子さまにとって単独での活動はこれが初めてで、少し緊張されている様子だったが、7歳年上の”いとこ”の佳子さまとアイコンタクトでタイミングを合わせながら取材に対応されていた。
今回の演奏会への出席は、日本の伝統芸能への関心から愛子さまが希望されたもの。楽器などについて熱心に質問を重ね、皇族としての活動を通して学びも深められられていた。
11月下旬には、国宝展が行われている博物館へ。家族揃って公の場で活動されるのはおよそ3年ぶり。淡いブルーの色調でコーディネートされた「3ショット」は、学業中心の愛子さまの貴重な活動を良い形で記録に残せるよう、両陛下のご配慮による「テイクツー」だった。
愛子さまはこれまで授業の教材で見てきたものの実物に目を輝かせ、食い入るように見つめられていたという。
陛下は家族一緒に文化に触れた貴重なひとときを「素晴らしい作品をゆっくり3人で見ることができて、豊かな時間を過ごせました」と喜ばれた。
12月に入ると外出の機会が大幅に増えた。1日にはご自身の21歳の誕生日で上皇ご夫妻に単身で挨拶へ。
直後の週末には、陛下と父娘で学習院大学の史料館や都内の美術館を閉館後にお忍びで訪れ、ここでも歴史や文化に触れられた。
20日と21日には学習院のキャンパスに登校し、初めて対面で授業や試験を受けられた。入学以来リモート一辺倒だった愛子さまにとって、教室に入ることに多少の緊張もおありだったかもしれないが、実際に先生や友人と空間を共にし、貴重な一歩となったことだろう。
そして仕事納めの28日夕方にはご家族揃って六本木の映画館へ。厳しい地域医療をテーマに命の尊さや人と人とのつながりを描いた『Dr.コトー診療所』のチャリティー上映会を鑑賞された。丸いピンクのファーのバッグが特別なお出かけの雰囲気を醸し、愛子さまの柔和な微笑みとよく似合っていた。
上映開始を待つ間には、主演俳優の吉岡秀隆さんに自ら声をかけて会話を弾ませ、鑑賞後の懇談でも積極的に会話に加わられたという。初対面の大人とごく自然に堂々と交流されるお姿からは、成長や内面の充実が感じられた。
懇談後、吉岡さんは「『愛子さまが『吉岡さんのフワッとした雰囲気はコトー先生にピッタリなんですね』と。さらにフワフワしてしまった」「とても素晴らしい感想をおっしゃったんですが、緊張のあまり機能してなくて・・・」と、どこか夢見心地のような表情で取材に応じた。
中江功監督も「すごくすてきな、今まで聞いたことのない、聞き惚れるような感想だった。表現も豊かで作品が2倍3倍良くなったように感じた」なのに誰もきちんと覚えていないと明かしている。
長いキャリアを持つ演技者や演出家が絶賛し、でも緊張のあまり思い出せないという愛子さまのご感想。作品を見ながら、僻地医療が抱える問題点、島民の結束、命の尊さなど色々なことを感じ、それをご自分の言葉で述べられたのだろう。感じ取る力とそれを相手に伝わるよう、適切な言葉で文章にする力。
ご両親の深い愛情のもとで育まれた豊かな感受性と、圧倒的な読書量による豊富な語彙は、去年3月の記者会見で多くの人の心を動かしたが、今回のような交流にも活かされている。いつか機会があれば、誰も思い出せない「とても素晴らしい感想」の内容をぜひ伺ってみたいが、愛子さまはその時の思いをごく自然に言葉にされたに過ぎない、と柔らかく微笑まれるかもしれない。
ひと月前の12月9日、皇后雅子さまが59歳の誕生日にあたって寄せられた文書には、愛子さまについての記述が無かった。愛子さま誕生以来、毎年綴ってこられた娘の成長の様子や母親としての思い。
その背景をある側近に尋ねると、「大切なお子さまだから細やかに心配りをされているのはこれまでと変わりない」とした上で、「成年を迎えられたことを”ひとつの区切り”として、今年はより公の部分に目を向けられたのだと思う」と話していた。
愛子さまの成長を実感してひとつの区切りを付け、親子であると同時に、”大人同士の関係”にバージョンアップされたのだろう。
皇后さまご自身も、去年後半にエリザベス女王の国葬や沖縄訪問など大事な行事を重ねられた。お互いの活動が充実していることによる”大人同士の新しい母娘の距離感”が文書に表れていたようだ。
映画館で愛子さまが自分の思いをしっかりと周囲に伝えられたことを知り、両陛下が娘の成長を実感し一人の大人として尊重しながら見守られているのだと感じた。21歳で初対面の人と自然体で交流するのは決して簡単なことではない。
成年に当たっての記者会見で「両親の物事に対する考え方や、人との接し方などからは学ぶことが多くございます」と述べられていたが、愛子さまの佇まいやお言葉は両陛下の背中を見て育まれたものなのだろう。
「小さい頃から人見知りのところがございますので、これから頑張って克服することができれば」とも明かされていたが、すでに努力によって克服されているのではないかと感じたお姿についても最後に触れておきたい。
愛子さまは以前から地域医療に関心がおありだったという。
中学1年生の時の表現の課題に、「私は看護師の愛子」という書き出しで、けがをしたカモメや海の生き物を次々と手当し助ける「海の上の診療所」の作文を書かれたことがある。架空のお話だが、診療所の情景や誰かを助けたいという思いが伝わる文章力は当時から光っていた。
帰り際、主催者がその作文に触れ、今後も素晴らしい文章をお書きくださいと伝えると、愛子さまは恥ずかしそうに「どうなることやら」とユーモアを交えて応えられ、両陛下にも笑顔が広がった。そして車に乗り込む直前に一人で引き返し、「きょうお誕生日ですよね?」と声をかけられると、両陛下も戻り、そろってお祝いを伝えて映画館を後にされた。
ご両親に伝えるのではなく、とっさにご自分で直接声をかけられた愛子さま。ごく自然な振る舞いで接した相手を温かい幸福感で包むお姿は両陛下と共通している。そこにはもはや人見知りの面影は無かった。
車に乗り込む前、両陛下と愛子さまは「映画はとても素晴らしかったです」「どうぞ良いお年をお迎えください」と話し、とても嬉しそうな笑顔を見せられていた。映画を通じて新たな気付きや感情をご家族で共にし、1年の最後を締めくくる外出が充実したひとときとなったことが感じられ、車を見送った駐車場には温かい余韻が残った。
凜として清々しく、そして場を和ませるコミュニケーション力も併せ持つ愛子さま。この春大学4年生になり、卒業論文の執筆などで学業は一段と忙しくなるが、その合間に今年もお一人で、またご家族で様々な場所に出かけて学びや交流を重ねられる機会に恵まれることを願っている。
(フジテレビ社会部・宮内庁担当 宮千歳)