【写真を見る】下に見られがちな仕事…「クセェんだから、早くどけよ!」と言われたことも『あなたとコンビニとニッポン』滝沢秀一×渡辺広明 全国5万8,000店舗、年間155億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。 今回のゲストは、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一氏(46)。10年前からゴミ清掃員としても働き、現在は「ごみ研究家」としても活動している。コンビニ1店舗当たりの1日のゴミ廃棄量は約50kgと言われ、コンビニ業界にとってゴミ削減は大きな課題だ。ゴミのスペシャリストはコンビニをどう捉えているのだろうか……?

真の金持ちはゴミの量が少ない!渡辺広明(以下、渡辺):僕はよく「コンビニは社会の縮図」という言葉を使うのですが、ゴミはコンビニ以上に社会の縮図だと思うんです。 滝沢秀一(以下、滝沢):わかります。エリアによってゴミの量や種類がガラッと変わりますからね。 渡辺:滝沢さんの著書(白夜書房「このゴミは収集できません」)を読んで印象的だったのが「金持ちほどゴミが少ない」という内容でした。 滝沢:本気の豪邸、それこそ図書館か何かの施設かと見間違えるような高級住宅が並ぶエリアは、本当にゴミが少ないんですよ。ホンモノの金持ちは節約してるんでしょうね。お金持ちにもグレードがあると思いますが、少しグレードが下がると家庭内に持ち込むような商品の消費が増えるためか、ゴミの量が増えていきます。 渡辺:その、ややグレードの下がったお金持ちたちは、何を消費しているんですか?滝沢:少し前は、古いシャワーヘッドや新品のシャワーヘッドの空き箱をよく見かけました。 渡辺:流行りましたね、細かいバブルの出るシャワーヘッド。みんな交換したんですね(笑)。 滝沢:我々清掃員は使った消費をダイレクトに見られるので、「本当に売れているモノが何か」がわかっちゃいますよね。アルコール類ならば、一時期はレモンサワーの空き瓶や空き缶がめちゃめちゃ増えましたし、その中でも「この商品が売れているんだな」と。逆に、特定の商品のゴミが減れば「少しブームが落ち着いたのかな?」とか。 渡辺:僕はコンビニ時代に15年間ほどバイヤーをしていたんですが、ゴミ清掃員はコンビニバイヤーに向いていると思います。コンビニは流行の最先端ではなく、世の中で流行っているモノをマスに広げるような商品開発が求められるんです。消費者のニーズを把握できる能力は貴重です。 滝沢:たしかに、意識しなくてもトレンドには敏感になるかもしれません。「ごみ研究家」としてコンビニ業界に提案したいこととは住民のモラルは「コンビニのゴミ箱」でわかる!?渡辺:現在、ゴミ箱を設置していないコンビニもありますが、このきっかけは1995年に遡るんですよ。「レジ袋有料化」には賛成だという滝沢:1995年って何がありましたっけ?渡辺:地下鉄サリン事件です。 滝沢:なるほど……! あの事件以降、駅の構内からゴミ箱が撤去されましたよね。渡辺:そうなんです。駅だけでなく、街のゴミ箱も減っていきました。結果的に、コンビニのゴミ箱に捨てる人が増えたんですよ。さらに、家庭ゴミを持ち込む人もいるでしょう? その後、環境意識も強まって分別が厳しくなり、コンビニ側は人手不足も重なって対応できない店舗が増えました。そのため、ゴミ箱を撤去したり店内に移動させたりする店舗が増えたんです。 滝沢:分別と言えば、僕の家の近くのコンビニ店員がビニール傘を一生懸命分解していたことがあったんですよ。話を聞いたら「みんな壊れたビニール傘をコンビニに捨てていくけど、廃棄にお金がすごいかかる。分解するとその費用が減るんです」と。 渡辺:ゴミ回収をお願いしている業者さんのルールかもしれませんね。エリアや店舗ごとにゴミ回収業者は異なるので、その業者との間に「傘を捨てるときは細分化しないと費用上乗せ」などの条件があるのだと推察されます。コンビニとは無関係のゴミを捨てられると、こうした負担がかかってしまうのも困りものです。 滝沢:コンビニを利用する人のマナーが問われますよね。よく賃貸物件を探すときに「物件のゴミ捨て場を見ろ」って言うじゃないですか? 渡辺:ゴミ捨て場のマナーが守られていないとか、注意書きの張り紙が多い物件は、住民の質が低いから避けた方がいいという話ですね。滝沢:そうです。とある不動産屋さんは、その物件だけじゃなくて「近隣のコンビニのゴミ箱も見た方が良い」と話していたことがあって、なるほどなと。あとは、近隣の自動販売機の横のリサイクルボックスもチェックッポイントらしいです。そこにオムツとか捨ててしまう人がいるらしいんですよ。渡辺:たしかに、そのエリアで暮らす人たちのモラルがわかりますね。有料化でコンビニのレジ袋辞退率が急増滝沢:そう言えば、レジ袋の有料化(2020年7月開始)が始まって2年以上が経ちましたけど、それ以前はコンビニ側が負担してたんですか?渡辺:レジ袋はオーナー負担なので、有料化以前は月5万円くらい経費でかかっていました。でも、有料レジ袋になって1年後には、レジ袋の辞退率が2割程度から7割以上に急増し、現在は「1万5,000円くらいのプラス」になっている店舗もあります。滝沢:プラスですか!? 渡辺:経費が減り、かつ有料化されたので、わずかながら店舗の利益になっているんですね。滝沢:今って、すべてのコンビニが有料レジ袋なんですよね? 渡辺:北海道のセイコーマートは無料レジ袋を続けています。バイオマス素材を30%配合していて、有料レジ袋の対象外という扱いです。 滝沢:なるほど、そういう方法もあるんですね。最近は「土に還る」と謳われているゴミ袋も増えているようですが、条件次第でかなり年数がかかるんですけどね……。 渡辺:セイコーマートは顧客満足度の非常に高いコンビニですが、環境面で言うならば、無料レジ袋を続けているのは賛成しづらいです。しばしば「プラスチックゴミに占めるレジ袋の割合は微々たるものだから、脱プラとしての効果は低い」といった反論も耳にしますが、日本人の行動変容において非常に大事だと思うんですよ。 滝沢:仰るとおりだと思います。 渡辺:まずは脱プラに向けて国民の意識を変えることが大事。消費者にとって身近な存在であるコンビニが足並みを揃えて社会問題に取り組むことによって、大きな影響を与えられるはずなんです。 滝沢:無料サービスに慣れすぎてしまって、簡単に捨てている感はあります。プラスチックのスプーンやフォークも有料になれば、1回で捨てずに家で洗って何回か使いますよ。 渡辺:次にコンビニで有料化されるとしたら、スプーンやストローなど、その辺りの可能性が高いでしょうね。コロナ禍で芽生えたゴミ清掃員に対する感謝渡辺:ゴミ収集の仕事中、コンビニを利用することはありますか? 滝沢:食事を買ったり、帰宅時に寄ったりすることが多いです。ゴミ清掃員はニオイの問題で飲食店を利用できないので、コンビニや弁当屋は重宝しています。渡辺:なるほど、ニオイの問題か……。 滝沢:僕がゴミ清掃員を始めたのが10年前ですが、まだ当時は仕事中に差別的な言葉をかけられることもありました。ゴミ収集中、うしろの車から「クセェんだから、早くどけよ!」的な。あとは、ギリギリでゴミを捨てに来る際、僕たちに向かって乱暴にゴミ袋を放っていく人もいます。 渡辺:コンビニ店員も下に見られることが多い仕事です。ストレスのはけ口かのように、乱暴な言葉を吐いてくるお客さんがいますからね。僕は今でも現場を知るため、年に10回くらいコンビニで働いていますが、その際は「実習生」のバッジを付けているんですよ。少しレジ対応が遅くなってしまうと、「早くしろよ、リストラじじい」的な反応がね(笑)。 滝沢:それはキツイっすよね。ゴミ清掃員に対する印象は、コロナ禍でだいぶ変わったかもしれません。当初「清掃崩壊が起きるかも」という話題が出たじゃないですか。1週間ゴミが回収されなければ、町はゴミだらけになってしまうわけで、そうした意識が働いたのか「いつもありがとうね」といわれる機会が増えました。 渡辺:肌感だと、厳しい言動は年配の人が多くないですか?滝沢:そうですね。悪気はないと思うんですけどね。 渡辺:そう、悪気はないんだよね。育ってきた時代で形成された性格や習慣って、なかなか変えられない。滝沢:昔の旅行雑誌で「ゴミが出たら現地に埋めましょう」って書かれていたことがあったのを思い出しました(笑)。時代背景でゴミに対する意識も全然違いますね。コンビニでリチウムイオン電池の回収を!渡辺:何かコンビニに要望したいことはありますか?滝沢:ゴミ箱は何とか残してほしいです。コンビニの近くはゴミが多いので、テレビ番組でゴミ拾い系の企画で出演するとき、まずはゴミを探してコンビニに向かうことが多いんですよ。あと、ホットスナックの紙袋とかを近隣のゴミ集積場にポイ捨てする人もいます。夜に雨が降ると、地面に貼り付いちゃうから、それを剥がすのが大変なんですよね。 渡辺:店内設置でもゴミ箱は必要ですね。コンビニ側は大変だと思うけど。滝沢:あとは、モバイルバッテリーやリチウムイオン電池を回収してくれると非常に助かります。これらを普通の燃えるゴミなどに混ぜてしまうと、清掃車で圧縮されてから40分後くらいに発火することがあり、清掃車火災の原因となります。自治体によってはリチウムイオン電池などを回収していない場合もあるので、コンビニで店頭回収してもらえるとめちゃめちゃありがたいです。 渡辺:行政とルールを統一化していく必要がありますよね。全国で一斉にやるのは難しいけど、まずは23区だけでも実行するとか。滝沢:自治体によって分別のルールが異なると思いますが、そこは何とか自治体同士で連携をはかってほしいです。 渡辺:ペットボトルの回収も、横浜市がセブン-イレブン、コカ・コーラと組んだり、ローソンはキリンと組んだり、バラバラなんですよね。もちろん、取り組み自体はとても素晴らしいんですけど。滝沢:縦だけじゃなくて、もう少し横が繋がってほしいですよね。 渡辺:あとはペットボトルの消費自体を減らすことも大事です。コンビニにドリンクディスペンサーを置いて、マイボトルを利用するとか。滝沢:1人当たりのペットボトル消費が年間数本減るだけでも大きな効果です。 渡辺:たしか滝沢さんご自身も、家庭のゴミの量を減らしたんですよね?滝沢:お金持ちのゴミが少ないので、僕も真似したら節約できるかなと思って(笑)。生ゴミを黒土コンポストしたり、いろいろ工夫してみました。そうしたら、滝沢家のゴミは1週間で45リットル6袋だったのが、1袋まで減ったんですよ。 渡辺:それはすごい! さすがに6分の1に減らすのは難しいかもしれませんが、渡辺家も挑戦してみます。滝沢:ゴミを減らすのって、意外とゲーム感覚で楽しいんですよ。みなさんも、ぜひ取り組んでみてほしいです。滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)お笑い芸人。ごみ研究家。1976年東京都足立区生まれ。1988年、西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年からは、芸人の傍らでゴミ収集会社で清掃員として勤務。近年はゴミ収集を通じて感じた社会問題などをSNSや講演で発信する「ごみ研究家」として活躍。『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』(学研プラス)、『このゴミは収集できません』(角川文庫)など著書多数。渡辺広明(わたなべ・ひろあき)流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。デイリー新潮編集部
【写真を見る】下に見られがちな仕事…「クセェんだから、早くどけよ!」と言われたことも『あなたとコンビニとニッポン』滝沢秀一×渡辺広明 全国5万8,000店舗、年間155億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。 今回のゲストは、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一氏(46)。10年前からゴミ清掃員としても働き、現在は「ごみ研究家」としても活動している。コンビニ1店舗当たりの1日のゴミ廃棄量は約50kgと言われ、コンビニ業界にとってゴミ削減は大きな課題だ。ゴミのスペシャリストはコンビニをどう捉えているのだろうか……?

真の金持ちはゴミの量が少ない!渡辺広明(以下、渡辺):僕はよく「コンビニは社会の縮図」という言葉を使うのですが、ゴミはコンビニ以上に社会の縮図だと思うんです。 滝沢秀一(以下、滝沢):わかります。エリアによってゴミの量や種類がガラッと変わりますからね。 渡辺:滝沢さんの著書(白夜書房「このゴミは収集できません」)を読んで印象的だったのが「金持ちほどゴミが少ない」という内容でした。 滝沢:本気の豪邸、それこそ図書館か何かの施設かと見間違えるような高級住宅が並ぶエリアは、本当にゴミが少ないんですよ。ホンモノの金持ちは節約してるんでしょうね。お金持ちにもグレードがあると思いますが、少しグレードが下がると家庭内に持ち込むような商品の消費が増えるためか、ゴミの量が増えていきます。 渡辺:その、ややグレードの下がったお金持ちたちは、何を消費しているんですか?滝沢:少し前は、古いシャワーヘッドや新品のシャワーヘッドの空き箱をよく見かけました。 渡辺:流行りましたね、細かいバブルの出るシャワーヘッド。みんな交換したんですね(笑)。 滝沢:我々清掃員は使った消費をダイレクトに見られるので、「本当に売れているモノが何か」がわかっちゃいますよね。アルコール類ならば、一時期はレモンサワーの空き瓶や空き缶がめちゃめちゃ増えましたし、その中でも「この商品が売れているんだな」と。逆に、特定の商品のゴミが減れば「少しブームが落ち着いたのかな?」とか。 渡辺:僕はコンビニ時代に15年間ほどバイヤーをしていたんですが、ゴミ清掃員はコンビニバイヤーに向いていると思います。コンビニは流行の最先端ではなく、世の中で流行っているモノをマスに広げるような商品開発が求められるんです。消費者のニーズを把握できる能力は貴重です。 滝沢:たしかに、意識しなくてもトレンドには敏感になるかもしれません。「ごみ研究家」としてコンビニ業界に提案したいこととは住民のモラルは「コンビニのゴミ箱」でわかる!?渡辺:現在、ゴミ箱を設置していないコンビニもありますが、このきっかけは1995年に遡るんですよ。「レジ袋有料化」には賛成だという滝沢:1995年って何がありましたっけ?渡辺:地下鉄サリン事件です。 滝沢:なるほど……! あの事件以降、駅の構内からゴミ箱が撤去されましたよね。渡辺:そうなんです。駅だけでなく、街のゴミ箱も減っていきました。結果的に、コンビニのゴミ箱に捨てる人が増えたんですよ。さらに、家庭ゴミを持ち込む人もいるでしょう? その後、環境意識も強まって分別が厳しくなり、コンビニ側は人手不足も重なって対応できない店舗が増えました。そのため、ゴミ箱を撤去したり店内に移動させたりする店舗が増えたんです。 滝沢:分別と言えば、僕の家の近くのコンビニ店員がビニール傘を一生懸命分解していたことがあったんですよ。話を聞いたら「みんな壊れたビニール傘をコンビニに捨てていくけど、廃棄にお金がすごいかかる。分解するとその費用が減るんです」と。 渡辺:ゴミ回収をお願いしている業者さんのルールかもしれませんね。エリアや店舗ごとにゴミ回収業者は異なるので、その業者との間に「傘を捨てるときは細分化しないと費用上乗せ」などの条件があるのだと推察されます。コンビニとは無関係のゴミを捨てられると、こうした負担がかかってしまうのも困りものです。 滝沢:コンビニを利用する人のマナーが問われますよね。よく賃貸物件を探すときに「物件のゴミ捨て場を見ろ」って言うじゃないですか? 渡辺:ゴミ捨て場のマナーが守られていないとか、注意書きの張り紙が多い物件は、住民の質が低いから避けた方がいいという話ですね。滝沢:そうです。とある不動産屋さんは、その物件だけじゃなくて「近隣のコンビニのゴミ箱も見た方が良い」と話していたことがあって、なるほどなと。あとは、近隣の自動販売機の横のリサイクルボックスもチェックッポイントらしいです。そこにオムツとか捨ててしまう人がいるらしいんですよ。渡辺:たしかに、そのエリアで暮らす人たちのモラルがわかりますね。有料化でコンビニのレジ袋辞退率が急増滝沢:そう言えば、レジ袋の有料化(2020年7月開始)が始まって2年以上が経ちましたけど、それ以前はコンビニ側が負担してたんですか?渡辺:レジ袋はオーナー負担なので、有料化以前は月5万円くらい経費でかかっていました。でも、有料レジ袋になって1年後には、レジ袋の辞退率が2割程度から7割以上に急増し、現在は「1万5,000円くらいのプラス」になっている店舗もあります。滝沢:プラスですか!? 渡辺:経費が減り、かつ有料化されたので、わずかながら店舗の利益になっているんですね。滝沢:今って、すべてのコンビニが有料レジ袋なんですよね? 渡辺:北海道のセイコーマートは無料レジ袋を続けています。バイオマス素材を30%配合していて、有料レジ袋の対象外という扱いです。 滝沢:なるほど、そういう方法もあるんですね。最近は「土に還る」と謳われているゴミ袋も増えているようですが、条件次第でかなり年数がかかるんですけどね……。 渡辺:セイコーマートは顧客満足度の非常に高いコンビニですが、環境面で言うならば、無料レジ袋を続けているのは賛成しづらいです。しばしば「プラスチックゴミに占めるレジ袋の割合は微々たるものだから、脱プラとしての効果は低い」といった反論も耳にしますが、日本人の行動変容において非常に大事だと思うんですよ。 滝沢:仰るとおりだと思います。 渡辺:まずは脱プラに向けて国民の意識を変えることが大事。消費者にとって身近な存在であるコンビニが足並みを揃えて社会問題に取り組むことによって、大きな影響を与えられるはずなんです。 滝沢:無料サービスに慣れすぎてしまって、簡単に捨てている感はあります。プラスチックのスプーンやフォークも有料になれば、1回で捨てずに家で洗って何回か使いますよ。 渡辺:次にコンビニで有料化されるとしたら、スプーンやストローなど、その辺りの可能性が高いでしょうね。コロナ禍で芽生えたゴミ清掃員に対する感謝渡辺:ゴミ収集の仕事中、コンビニを利用することはありますか? 滝沢:食事を買ったり、帰宅時に寄ったりすることが多いです。ゴミ清掃員はニオイの問題で飲食店を利用できないので、コンビニや弁当屋は重宝しています。渡辺:なるほど、ニオイの問題か……。 滝沢:僕がゴミ清掃員を始めたのが10年前ですが、まだ当時は仕事中に差別的な言葉をかけられることもありました。ゴミ収集中、うしろの車から「クセェんだから、早くどけよ!」的な。あとは、ギリギリでゴミを捨てに来る際、僕たちに向かって乱暴にゴミ袋を放っていく人もいます。 渡辺:コンビニ店員も下に見られることが多い仕事です。ストレスのはけ口かのように、乱暴な言葉を吐いてくるお客さんがいますからね。僕は今でも現場を知るため、年に10回くらいコンビニで働いていますが、その際は「実習生」のバッジを付けているんですよ。少しレジ対応が遅くなってしまうと、「早くしろよ、リストラじじい」的な反応がね(笑)。 滝沢:それはキツイっすよね。ゴミ清掃員に対する印象は、コロナ禍でだいぶ変わったかもしれません。当初「清掃崩壊が起きるかも」という話題が出たじゃないですか。1週間ゴミが回収されなければ、町はゴミだらけになってしまうわけで、そうした意識が働いたのか「いつもありがとうね」といわれる機会が増えました。 渡辺:肌感だと、厳しい言動は年配の人が多くないですか?滝沢:そうですね。悪気はないと思うんですけどね。 渡辺:そう、悪気はないんだよね。育ってきた時代で形成された性格や習慣って、なかなか変えられない。滝沢:昔の旅行雑誌で「ゴミが出たら現地に埋めましょう」って書かれていたことがあったのを思い出しました(笑)。時代背景でゴミに対する意識も全然違いますね。コンビニでリチウムイオン電池の回収を!渡辺:何かコンビニに要望したいことはありますか?滝沢:ゴミ箱は何とか残してほしいです。コンビニの近くはゴミが多いので、テレビ番組でゴミ拾い系の企画で出演するとき、まずはゴミを探してコンビニに向かうことが多いんですよ。あと、ホットスナックの紙袋とかを近隣のゴミ集積場にポイ捨てする人もいます。夜に雨が降ると、地面に貼り付いちゃうから、それを剥がすのが大変なんですよね。 渡辺:店内設置でもゴミ箱は必要ですね。コンビニ側は大変だと思うけど。滝沢:あとは、モバイルバッテリーやリチウムイオン電池を回収してくれると非常に助かります。これらを普通の燃えるゴミなどに混ぜてしまうと、清掃車で圧縮されてから40分後くらいに発火することがあり、清掃車火災の原因となります。自治体によってはリチウムイオン電池などを回収していない場合もあるので、コンビニで店頭回収してもらえるとめちゃめちゃありがたいです。 渡辺:行政とルールを統一化していく必要がありますよね。全国で一斉にやるのは難しいけど、まずは23区だけでも実行するとか。滝沢:自治体によって分別のルールが異なると思いますが、そこは何とか自治体同士で連携をはかってほしいです。 渡辺:ペットボトルの回収も、横浜市がセブン-イレブン、コカ・コーラと組んだり、ローソンはキリンと組んだり、バラバラなんですよね。もちろん、取り組み自体はとても素晴らしいんですけど。滝沢:縦だけじゃなくて、もう少し横が繋がってほしいですよね。 渡辺:あとはペットボトルの消費自体を減らすことも大事です。コンビニにドリンクディスペンサーを置いて、マイボトルを利用するとか。滝沢:1人当たりのペットボトル消費が年間数本減るだけでも大きな効果です。 渡辺:たしか滝沢さんご自身も、家庭のゴミの量を減らしたんですよね?滝沢:お金持ちのゴミが少ないので、僕も真似したら節約できるかなと思って(笑)。生ゴミを黒土コンポストしたり、いろいろ工夫してみました。そうしたら、滝沢家のゴミは1週間で45リットル6袋だったのが、1袋まで減ったんですよ。 渡辺:それはすごい! さすがに6分の1に減らすのは難しいかもしれませんが、渡辺家も挑戦してみます。滝沢:ゴミを減らすのって、意外とゲーム感覚で楽しいんですよ。みなさんも、ぜひ取り組んでみてほしいです。滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)お笑い芸人。ごみ研究家。1976年東京都足立区生まれ。1988年、西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年からは、芸人の傍らでゴミ収集会社で清掃員として勤務。近年はゴミ収集を通じて感じた社会問題などをSNSや講演で発信する「ごみ研究家」として活躍。『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』(学研プラス)、『このゴミは収集できません』(角川文庫)など著書多数。渡辺広明(わたなべ・ひろあき)流通アナリスト。コンビニジャーナリスト。1967年静岡県浜松市生まれ。株式会社ローソンに22年間勤務し、店長、スーパーバイザー、バイヤーなどを経験。現在は商品開発・営業・マーケティング・顧問・コンサル業務など幅広く活動中。フジテレビ『FNN Live News α』レギュラーコメンテーター、TOKYO FM『馬渕・渡辺の#ビジトピ』パーソナリティ。デイリー新潮編集部
全国5万8,000店舗、年間155億人が買い物する“コンビニ超大国ニッポン”。老若男女、昼夜を問わずさまざまな人が訪れるコンビニは、その目的や利用方法も人によってさまざまだ。「コンビニとの付き合い方」を覗いた先に見えてくるものとは? コンビニジャーナリスト・渡辺広明氏が、ゲストを招きコンビニについて大いに語り合う──。
今回のゲストは、お笑いコンビ・マシンガンズの滝沢秀一氏(46)。10年前からゴミ清掃員としても働き、現在は「ごみ研究家」としても活動している。コンビニ1店舗当たりの1日のゴミ廃棄量は約50kgと言われ、コンビニ業界にとってゴミ削減は大きな課題だ。ゴミのスペシャリストはコンビニをどう捉えているのだろうか……?
渡辺広明(以下、渡辺):僕はよく「コンビニは社会の縮図」という言葉を使うのですが、ゴミはコンビニ以上に社会の縮図だと思うんです。
滝沢秀一(以下、滝沢):わかります。エリアによってゴミの量や種類がガラッと変わりますからね。
渡辺:滝沢さんの著書(白夜書房「このゴミは収集できません」)を読んで印象的だったのが「金持ちほどゴミが少ない」という内容でした。
滝沢:本気の豪邸、それこそ図書館か何かの施設かと見間違えるような高級住宅が並ぶエリアは、本当にゴミが少ないんですよ。ホンモノの金持ちは節約してるんでしょうね。お金持ちにもグレードがあると思いますが、少しグレードが下がると家庭内に持ち込むような商品の消費が増えるためか、ゴミの量が増えていきます。
渡辺:その、ややグレードの下がったお金持ちたちは、何を消費しているんですか?
滝沢:少し前は、古いシャワーヘッドや新品のシャワーヘッドの空き箱をよく見かけました。
渡辺:流行りましたね、細かいバブルの出るシャワーヘッド。みんな交換したんですね(笑)。
滝沢:我々清掃員は使った消費をダイレクトに見られるので、「本当に売れているモノが何か」がわかっちゃいますよね。アルコール類ならば、一時期はレモンサワーの空き瓶や空き缶がめちゃめちゃ増えましたし、その中でも「この商品が売れているんだな」と。逆に、特定の商品のゴミが減れば「少しブームが落ち着いたのかな?」とか。
渡辺:僕はコンビニ時代に15年間ほどバイヤーをしていたんですが、ゴミ清掃員はコンビニバイヤーに向いていると思います。コンビニは流行の最先端ではなく、世の中で流行っているモノをマスに広げるような商品開発が求められるんです。消費者のニーズを把握できる能力は貴重です。
滝沢:たしかに、意識しなくてもトレンドには敏感になるかもしれません。
渡辺:現在、ゴミ箱を設置していないコンビニもありますが、このきっかけは1995年に遡るんですよ。
滝沢:1995年って何がありましたっけ?
渡辺:地下鉄サリン事件です。
滝沢:なるほど……! あの事件以降、駅の構内からゴミ箱が撤去されましたよね。
渡辺:そうなんです。駅だけでなく、街のゴミ箱も減っていきました。結果的に、コンビニのゴミ箱に捨てる人が増えたんですよ。さらに、家庭ゴミを持ち込む人もいるでしょう? その後、環境意識も強まって分別が厳しくなり、コンビニ側は人手不足も重なって対応できない店舗が増えました。そのため、ゴミ箱を撤去したり店内に移動させたりする店舗が増えたんです。
滝沢:分別と言えば、僕の家の近くのコンビニ店員がビニール傘を一生懸命分解していたことがあったんですよ。話を聞いたら「みんな壊れたビニール傘をコンビニに捨てていくけど、廃棄にお金がすごいかかる。分解するとその費用が減るんです」と。
渡辺:ゴミ回収をお願いしている業者さんのルールかもしれませんね。エリアや店舗ごとにゴミ回収業者は異なるので、その業者との間に「傘を捨てるときは細分化しないと費用上乗せ」などの条件があるのだと推察されます。コンビニとは無関係のゴミを捨てられると、こうした負担がかかってしまうのも困りものです。
滝沢:コンビニを利用する人のマナーが問われますよね。よく賃貸物件を探すときに「物件のゴミ捨て場を見ろ」って言うじゃないですか?
渡辺:ゴミ捨て場のマナーが守られていないとか、注意書きの張り紙が多い物件は、住民の質が低いから避けた方がいいという話ですね。
滝沢:そうです。とある不動産屋さんは、その物件だけじゃなくて「近隣のコンビニのゴミ箱も見た方が良い」と話していたことがあって、なるほどなと。あとは、近隣の自動販売機の横のリサイクルボックスもチェックッポイントらしいです。そこにオムツとか捨ててしまう人がいるらしいんですよ。
渡辺:たしかに、そのエリアで暮らす人たちのモラルがわかりますね。
滝沢:そう言えば、レジ袋の有料化(2020年7月開始)が始まって2年以上が経ちましたけど、それ以前はコンビニ側が負担してたんですか?
渡辺:レジ袋はオーナー負担なので、有料化以前は月5万円くらい経費でかかっていました。でも、有料レジ袋になって1年後には、レジ袋の辞退率が2割程度から7割以上に急増し、現在は「1万5,000円くらいのプラス」になっている店舗もあります。
滝沢:プラスですか!?
渡辺:経費が減り、かつ有料化されたので、わずかながら店舗の利益になっているんですね。
滝沢:今って、すべてのコンビニが有料レジ袋なんですよね?
渡辺:北海道のセイコーマートは無料レジ袋を続けています。バイオマス素材を30%配合していて、有料レジ袋の対象外という扱いです。
滝沢:なるほど、そういう方法もあるんですね。最近は「土に還る」と謳われているゴミ袋も増えているようですが、条件次第でかなり年数がかかるんですけどね……。
渡辺:セイコーマートは顧客満足度の非常に高いコンビニですが、環境面で言うならば、無料レジ袋を続けているのは賛成しづらいです。しばしば「プラスチックゴミに占めるレジ袋の割合は微々たるものだから、脱プラとしての効果は低い」といった反論も耳にしますが、日本人の行動変容において非常に大事だと思うんですよ。
滝沢:仰るとおりだと思います。
渡辺:まずは脱プラに向けて国民の意識を変えることが大事。消費者にとって身近な存在であるコンビニが足並みを揃えて社会問題に取り組むことによって、大きな影響を与えられるはずなんです。
滝沢:無料サービスに慣れすぎてしまって、簡単に捨てている感はあります。プラスチックのスプーンやフォークも有料になれば、1回で捨てずに家で洗って何回か使いますよ。
渡辺:次にコンビニで有料化されるとしたら、スプーンやストローなど、その辺りの可能性が高いでしょうね。
渡辺:ゴミ収集の仕事中、コンビニを利用することはありますか?
滝沢:食事を買ったり、帰宅時に寄ったりすることが多いです。ゴミ清掃員はニオイの問題で飲食店を利用できないので、コンビニや弁当屋は重宝しています。
渡辺:なるほど、ニオイの問題か……。
滝沢:僕がゴミ清掃員を始めたのが10年前ですが、まだ当時は仕事中に差別的な言葉をかけられることもありました。ゴミ収集中、うしろの車から「クセェんだから、早くどけよ!」的な。あとは、ギリギリでゴミを捨てに来る際、僕たちに向かって乱暴にゴミ袋を放っていく人もいます。
渡辺:コンビニ店員も下に見られることが多い仕事です。ストレスのはけ口かのように、乱暴な言葉を吐いてくるお客さんがいますからね。僕は今でも現場を知るため、年に10回くらいコンビニで働いていますが、その際は「実習生」のバッジを付けているんですよ。少しレジ対応が遅くなってしまうと、「早くしろよ、リストラじじい」的な反応がね(笑)。
滝沢:それはキツイっすよね。ゴミ清掃員に対する印象は、コロナ禍でだいぶ変わったかもしれません。当初「清掃崩壊が起きるかも」という話題が出たじゃないですか。1週間ゴミが回収されなければ、町はゴミだらけになってしまうわけで、そうした意識が働いたのか「いつもありがとうね」といわれる機会が増えました。
渡辺:肌感だと、厳しい言動は年配の人が多くないですか?
滝沢:そうですね。悪気はないと思うんですけどね。
渡辺:そう、悪気はないんだよね。育ってきた時代で形成された性格や習慣って、なかなか変えられない。
滝沢:昔の旅行雑誌で「ゴミが出たら現地に埋めましょう」って書かれていたことがあったのを思い出しました(笑)。時代背景でゴミに対する意識も全然違いますね。
渡辺:何かコンビニに要望したいことはありますか?
滝沢:ゴミ箱は何とか残してほしいです。コンビニの近くはゴミが多いので、テレビ番組でゴミ拾い系の企画で出演するとき、まずはゴミを探してコンビニに向かうことが多いんですよ。あと、ホットスナックの紙袋とかを近隣のゴミ集積場にポイ捨てする人もいます。夜に雨が降ると、地面に貼り付いちゃうから、それを剥がすのが大変なんですよね。
渡辺:店内設置でもゴミ箱は必要ですね。コンビニ側は大変だと思うけど。
滝沢:あとは、モバイルバッテリーやリチウムイオン電池を回収してくれると非常に助かります。これらを普通の燃えるゴミなどに混ぜてしまうと、清掃車で圧縮されてから40分後くらいに発火することがあり、清掃車火災の原因となります。自治体によってはリチウムイオン電池などを回収していない場合もあるので、コンビニで店頭回収してもらえるとめちゃめちゃありがたいです。
渡辺:行政とルールを統一化していく必要がありますよね。全国で一斉にやるのは難しいけど、まずは23区だけでも実行するとか。
滝沢:自治体によって分別のルールが異なると思いますが、そこは何とか自治体同士で連携をはかってほしいです。
渡辺:ペットボトルの回収も、横浜市がセブン-イレブン、コカ・コーラと組んだり、ローソンはキリンと組んだり、バラバラなんですよね。もちろん、取り組み自体はとても素晴らしいんですけど。
滝沢:縦だけじゃなくて、もう少し横が繋がってほしいですよね。
渡辺:あとはペットボトルの消費自体を減らすことも大事です。コンビニにドリンクディスペンサーを置いて、マイボトルを利用するとか。
滝沢:1人当たりのペットボトル消費が年間数本減るだけでも大きな効果です。
渡辺:たしか滝沢さんご自身も、家庭のゴミの量を減らしたんですよね?
滝沢:お金持ちのゴミが少ないので、僕も真似したら節約できるかなと思って(笑)。生ゴミを黒土コンポストしたり、いろいろ工夫してみました。そうしたら、滝沢家のゴミは1週間で45リットル6袋だったのが、1袋まで減ったんですよ。
渡辺:それはすごい! さすがに6分の1に減らすのは難しいかもしれませんが、渡辺家も挑戦してみます。
滝沢:ゴミを減らすのって、意外とゲーム感覚で楽しいんですよ。みなさんも、ぜひ取り組んでみてほしいです。
滝沢秀一(たきざわ・しゅういち)お笑い芸人。ごみ研究家。1976年東京都足立区生まれ。1988年、西堀亮とお笑いコンビ「マシンガンズ」を結成。2012年からは、芸人の傍らでゴミ収集会社で清掃員として勤務。近年はゴミ収集を通じて感じた社会問題などをSNSや講演で発信する「ごみ研究家」として活躍。『すごいゴミのはなし ゴミ清掃員、10年間やってみた。』(学研プラス)、『このゴミは収集できません』(角川文庫)など著書多数。
デイリー新潮編集部