初詣のときに神社で引くおみくじや、商店街の福引きなどでなじみのある “くじ”。加えて現在は、玩具・ホビー会社が展開するアニメや人気キャラクターの限定グッズが当たる「○○くじ」が人気を博している。『鬼滅の刃』や『ちいかわ』などの超人気コンテンツのくじ発売日には、販売対象店舗の店先に行列ができることもしばしば。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) 多くの人が「○○くじ」を楽しんでいるなか、全国のコンビニやゲームセンター、ホビーショップなど、実際にくじが引ける現場ではさまざまな“面倒ごと”も発生しているという。そこで今回は、より身近なコンビニで起きているトラブルに焦点を当てた。

iStock.com◆◆◆くじ発売日が近づくと、夜中から電話が コンビニで働いている富田仁美さん(仮名)は、くじ目当ての客からの問い合わせに辟易している、と語る。「くじの発売が近くなると、何度も何度も電話をかけてきて『何時にくじが店頭に出ますか?』と尋ねてくる人がいるんです。先方は名乗りませんが、声が同じなのでわかるんですよね。でも、ほとんどの店員は、いつどんなくじが発売されるのか把握していないのでお答えできないんです」 富田さんいわく、スタッフ自身が「○○くじ」に興味があれば、ネットで情報を得ているかもしれないが、くじに興味がない従業員がほとんど。客からの問い合わせを受けて初めて、自分の店がくじの対象店舗だと知ることもザラだという。「なかには店員に情報を共有している店もあるとは思いますが、うちはしていません。 いざ発売当日になると、夜中から電話がかかってきます。過去に、店員のひとりがしつこい問い合わせに対して、発売時刻を伝えてしまったことがあり、それ以来“発売時刻を教えてくれる店員”が出るまで電話をかけつづけるようになった人もいます。ただ、毎回時間を決めているわけではなく、そのときは本当に“たまたま”伝えてしまっただけなので、もう諦めてほしいです」 くじを店頭に出す時間を決めるのは販売店。富田さんのコンビニでは、混雑していない時間帯など“手が空いたタイミング”にくじの引換券を設置するため、明確な時間はわからないのが実情だという。「くじ目当て以外のお客さんから問い合わせがあるかもしれないので、電話は無視できません。私たちも情報を隠したいわけではなく、本当にわからないので、お問い合わせを控えていただけるとありがたいです……」 とにかく事前に伝えられることは何もない、とのこと。気長に待つのが吉だ。30分近くレジでくじを選定する客 実際にくじの販売がはじまってからも、コンビニスタッフの苦労は続く。とくに“くじに真剣すぎる客”は売上にも影響を及ぼすという。「レジが2台しかない店舗なので、くじ選定のために長時間滞在されるとレジが1台使えなくなってしまう。また、不正ができないように必ずスタッフが一人つくことになっており、お客さんがくじを引いている間はほかの仕事もできない。通常の買い物に来たお客さんが、会計を諦めて帰るのを何度も見た」(20代・男性)「異常に時間をかけてくじを選ぶ客がいた。くじを触って『なにか違う』と首をかしげて箱に戻し、もう一枚……と、長時間くじを選びつづけた。その客はガラが悪く、絡むと面倒そうな雰囲気だったので注意できず、結局30分近くレジの前でくじ選び。 後ろの客もイラ立っていて、先方が帰ったあとに『あいつはなんなんだ』と、私に文句を言ってくるなど、周囲の不満も受け止めなければならないので困る」(30代・女性)個数制限をしていないため、追加購入も可能だが… 前出の富田さんも、くじ引きに本気で臨む客に当たったときは「ハズレだ」と感じるという。「その人は、選んだくじをじっくりゆっくりめくるタイプだったんです。場所をズレてもらうほどのスペースがなく、私はその場から離れられないし、もう1台のレジは休止中。最終的に長蛇の列になってしまいました」 めくる際のドキドキ感を存分に楽しんだものの、目当ての景品が当たらなかったのか、その場で追加購入を希望してきたそう。「くじは引換券1枚につき引きたい枚数を口頭で聞き、会計をするというシステム。うちは個数制限をしていないので、追加購入も可能です。でも、追加購入を受け入れつづければ、後ろのお客さんをさらに待たせることになります。 並び直しをお願いして最後尾に行ってもらいましたが、それもしぶしぶという感じ。ほかのお客さまもいますので、再度くじを引きたい場合はスタッフに促される前に並び直してほしいです」 くじに没頭しすぎると、周りが見えなくなる。節度を持って楽しむのがポイントだ。超多忙のコンビニではスタッフのミスも「人気コンテンツのくじが入荷すると緊張する」と話すのは、これまで複数のコンビニに勤務してきた中島裕太さん(仮名)。「超人気少年漫画や、人気アイドルグループのくじは、ひとりのお客さんが何枚も引くので、すぐに完売します。ただ、ひとりで何枚も引かれると、景品の渡し間違いや渡し忘れが発生するリスクが高まるので緊張しますね。たとえば、文字の形が似ている『E賞』と『F賞』を間違えて渡してしまった、なんてことも珍しくないです」 取り違えや渡し忘れが発生すると、景品とくじの枚数が合わなくなり「くじの枚数が足らない!」「景品の個数が合っていない!」など、店内は騒然。そうした状況に陥ったときは、最終手段に出るという。「お店によって対応は異なると思いますが、もしE賞が多くてF賞が足りていないときは、事情を説明して『E賞に替えられます』とご提案することもあります。こちらのミスで恐縮ですが、忙しいタイミングはとくに取り違えが起きやすいので、景品が違うと気づいたら、渡された時点で教えてほしいです……」 コンビニのレジスタッフは、弁当の温めをはじめ、ポイントカードの有無や決済方法、さらにレジ袋の要不要など、多種多様な“確認作業”を行わなければならない。そこにくじの交換が加われば、ヒューマンエラーが起きても不思議はないだろう。「ラスト○○賞」はトラブルの種 くじの枚数が順当に減っても気は抜けない。多くのくじが採用している「ラスト○○賞」は、トラブルの種になる可能性がとても高いという。ラスト○○賞とは、最後の1枚を引いた人が、当てた景品とは別にもうひとつ景品がもらえる“特別賞”のような景品だ。「ラスト賞がほしくて店頭にあった引換券を全部持っていき、その枚数分のくじを購入。しかし、くじを引いたあと、店員に『引換券の枚数は残りのくじの枚数を反映したものではないので、ラスト賞ではない』と言われてしまった」(20代・女性) また、「ラスト賞を待っている子どもがいるから、買い占めないでくれといわれた」というSNSの投稿がネット上で議論になるなど、定期的に話題を集める賞でもある。 そして中島さんも、ラスト○○賞を巡って大きなトラブルに発展した経験があるという。「それは人気アニメのタイトルで、発売後すぐに完売したくじでした。最後の1枚を引いたお客さんに、当たった景品と一緒にラスト賞をお渡ししたのですが、その後、1枚くじを紛失していたことが発覚したんです。くじも見つからず、景品がひとつ余ってしまいました」 景品の処遇は販売する小売店に一任されているため、売れ残った景品を割引価格で売る店も少なくない。中島さんのコンビニでも、くじの紛失で余った景品を“くじ引きなし”の条件で、価格を割り引いて販売したという。「その『わけあり商品』の購入を希望したお客さんにも、口頭で事情を説明し、ラスト賞の対象ではないと念押しして会計しました。すると翌日、その人が再び来店して『これは最後の景品なのに、自分がラスト賞をもらえないのはやっぱりおかしい』というクレームを入れてきたんです。 購入時に説明したにも関わらず、まったく聞く耳を持ってくれないし、渡せるものもないし……。結果的に、返金対応になりました」○○くじは店側のデメリットが多い ラスト○○賞は、上位賞と同等のハイクオリティな景品が用意されているケースがほとんど。そのため、最後の1枚にこだわる客はとても多いのだとか。「僕の所感ですが、上位賞ほど早めに出てしまうのが“○○くじあるある”。そこで、A賞やB賞が出たあとも、お客さんの購買意欲を維持するためのシステムだと思うのですが……。 平日の昼間からくじを買い占めてラスト1枚を狙う“転売ヤー”っぽい人も見かけますが、スタッフは『転売ですか?』なんて訊けないので、防ぐことはできません」 現状、くじを企画している企業から転売対策の指針などは出ていないという。転売を防ぐシステムを企業側が構築してくれれば、本当にくじを引きたい人の手に渡るのでは、と中島さん。「ただ、正直なところ『コンビニで○○くじを売らないでほしい』というのが本音です。くじを目当てに来るお客さんは、くじだけを引いて帰っていくし、くじがなければそのまま帰るので、店側が期待する『ついで買い』をする人は稀。トラブルのリスクや、販売の手間を考えると、デメリットのほうが多いんですよね」 最近では、オンライン上でくじを引き、景品が自宅に届くシステムを導入しているくじもある。その場でくじを引き、景品をもらうワクワク感は半減するかもしれないが、オンラインくじのように、より多くの人が快適に楽しめる仕組み作りが必要なのかもしれない。(清談社)
多くの人が「○○くじ」を楽しんでいるなか、全国のコンビニやゲームセンター、ホビーショップなど、実際にくじが引ける現場ではさまざまな“面倒ごと”も発生しているという。そこで今回は、より身近なコンビニで起きているトラブルに焦点を当てた。
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◆◆◆
コンビニで働いている富田仁美さん(仮名)は、くじ目当ての客からの問い合わせに辟易している、と語る。
「くじの発売が近くなると、何度も何度も電話をかけてきて『何時にくじが店頭に出ますか?』と尋ねてくる人がいるんです。先方は名乗りませんが、声が同じなのでわかるんですよね。でも、ほとんどの店員は、いつどんなくじが発売されるのか把握していないのでお答えできないんです」
富田さんいわく、スタッフ自身が「○○くじ」に興味があれば、ネットで情報を得ているかもしれないが、くじに興味がない従業員がほとんど。客からの問い合わせを受けて初めて、自分の店がくじの対象店舗だと知ることもザラだという。
「なかには店員に情報を共有している店もあるとは思いますが、うちはしていません。
いざ発売当日になると、夜中から電話がかかってきます。過去に、店員のひとりがしつこい問い合わせに対して、発売時刻を伝えてしまったことがあり、それ以来“発売時刻を教えてくれる店員”が出るまで電話をかけつづけるようになった人もいます。ただ、毎回時間を決めているわけではなく、そのときは本当に“たまたま”伝えてしまっただけなので、もう諦めてほしいです」
くじを店頭に出す時間を決めるのは販売店。富田さんのコンビニでは、混雑していない時間帯など“手が空いたタイミング”にくじの引換券を設置するため、明確な時間はわからないのが実情だという。
「くじ目当て以外のお客さんから問い合わせがあるかもしれないので、電話は無視できません。私たちも情報を隠したいわけではなく、本当にわからないので、お問い合わせを控えていただけるとありがたいです……」
とにかく事前に伝えられることは何もない、とのこと。気長に待つのが吉だ。
実際にくじの販売がはじまってからも、コンビニスタッフの苦労は続く。とくに“くじに真剣すぎる客”は売上にも影響を及ぼすという。
「レジが2台しかない店舗なので、くじ選定のために長時間滞在されるとレジが1台使えなくなってしまう。また、不正ができないように必ずスタッフが一人つくことになっており、お客さんがくじを引いている間はほかの仕事もできない。通常の買い物に来たお客さんが、会計を諦めて帰るのを何度も見た」(20代・男性)
「異常に時間をかけてくじを選ぶ客がいた。くじを触って『なにか違う』と首をかしげて箱に戻し、もう一枚……と、長時間くじを選びつづけた。その客はガラが悪く、絡むと面倒そうな雰囲気だったので注意できず、結局30分近くレジの前でくじ選び。 後ろの客もイラ立っていて、先方が帰ったあとに『あいつはなんなんだ』と、私に文句を言ってくるなど、周囲の不満も受け止めなければならないので困る」(30代・女性)個数制限をしていないため、追加購入も可能だが… 前出の富田さんも、くじ引きに本気で臨む客に当たったときは「ハズレだ」と感じるという。「その人は、選んだくじをじっくりゆっくりめくるタイプだったんです。場所をズレてもらうほどのスペースがなく、私はその場から離れられないし、もう1台のレジは休止中。最終的に長蛇の列になってしまいました」 めくる際のドキドキ感を存分に楽しんだものの、目当ての景品が当たらなかったのか、その場で追加購入を希望してきたそう。「くじは引換券1枚につき引きたい枚数を口頭で聞き、会計をするというシステム。うちは個数制限をしていないので、追加購入も可能です。でも、追加購入を受け入れつづければ、後ろのお客さんをさらに待たせることになります。 並び直しをお願いして最後尾に行ってもらいましたが、それもしぶしぶという感じ。ほかのお客さまもいますので、再度くじを引きたい場合はスタッフに促される前に並び直してほしいです」 くじに没頭しすぎると、周りが見えなくなる。節度を持って楽しむのがポイントだ。超多忙のコンビニではスタッフのミスも「人気コンテンツのくじが入荷すると緊張する」と話すのは、これまで複数のコンビニに勤務してきた中島裕太さん(仮名)。「超人気少年漫画や、人気アイドルグループのくじは、ひとりのお客さんが何枚も引くので、すぐに完売します。ただ、ひとりで何枚も引かれると、景品の渡し間違いや渡し忘れが発生するリスクが高まるので緊張しますね。たとえば、文字の形が似ている『E賞』と『F賞』を間違えて渡してしまった、なんてことも珍しくないです」 取り違えや渡し忘れが発生すると、景品とくじの枚数が合わなくなり「くじの枚数が足らない!」「景品の個数が合っていない!」など、店内は騒然。そうした状況に陥ったときは、最終手段に出るという。「お店によって対応は異なると思いますが、もしE賞が多くてF賞が足りていないときは、事情を説明して『E賞に替えられます』とご提案することもあります。こちらのミスで恐縮ですが、忙しいタイミングはとくに取り違えが起きやすいので、景品が違うと気づいたら、渡された時点で教えてほしいです……」 コンビニのレジスタッフは、弁当の温めをはじめ、ポイントカードの有無や決済方法、さらにレジ袋の要不要など、多種多様な“確認作業”を行わなければならない。そこにくじの交換が加われば、ヒューマンエラーが起きても不思議はないだろう。「ラスト○○賞」はトラブルの種 くじの枚数が順当に減っても気は抜けない。多くのくじが採用している「ラスト○○賞」は、トラブルの種になる可能性がとても高いという。ラスト○○賞とは、最後の1枚を引いた人が、当てた景品とは別にもうひとつ景品がもらえる“特別賞”のような景品だ。「ラスト賞がほしくて店頭にあった引換券を全部持っていき、その枚数分のくじを購入。しかし、くじを引いたあと、店員に『引換券の枚数は残りのくじの枚数を反映したものではないので、ラスト賞ではない』と言われてしまった」(20代・女性) また、「ラスト賞を待っている子どもがいるから、買い占めないでくれといわれた」というSNSの投稿がネット上で議論になるなど、定期的に話題を集める賞でもある。 そして中島さんも、ラスト○○賞を巡って大きなトラブルに発展した経験があるという。「それは人気アニメのタイトルで、発売後すぐに完売したくじでした。最後の1枚を引いたお客さんに、当たった景品と一緒にラスト賞をお渡ししたのですが、その後、1枚くじを紛失していたことが発覚したんです。くじも見つからず、景品がひとつ余ってしまいました」 景品の処遇は販売する小売店に一任されているため、売れ残った景品を割引価格で売る店も少なくない。中島さんのコンビニでも、くじの紛失で余った景品を“くじ引きなし”の条件で、価格を割り引いて販売したという。「その『わけあり商品』の購入を希望したお客さんにも、口頭で事情を説明し、ラスト賞の対象ではないと念押しして会計しました。すると翌日、その人が再び来店して『これは最後の景品なのに、自分がラスト賞をもらえないのはやっぱりおかしい』というクレームを入れてきたんです。 購入時に説明したにも関わらず、まったく聞く耳を持ってくれないし、渡せるものもないし……。結果的に、返金対応になりました」○○くじは店側のデメリットが多い ラスト○○賞は、上位賞と同等のハイクオリティな景品が用意されているケースがほとんど。そのため、最後の1枚にこだわる客はとても多いのだとか。「僕の所感ですが、上位賞ほど早めに出てしまうのが“○○くじあるある”。そこで、A賞やB賞が出たあとも、お客さんの購買意欲を維持するためのシステムだと思うのですが……。 平日の昼間からくじを買い占めてラスト1枚を狙う“転売ヤー”っぽい人も見かけますが、スタッフは『転売ですか?』なんて訊けないので、防ぐことはできません」 現状、くじを企画している企業から転売対策の指針などは出ていないという。転売を防ぐシステムを企業側が構築してくれれば、本当にくじを引きたい人の手に渡るのでは、と中島さん。「ただ、正直なところ『コンビニで○○くじを売らないでほしい』というのが本音です。くじを目当てに来るお客さんは、くじだけを引いて帰っていくし、くじがなければそのまま帰るので、店側が期待する『ついで買い』をする人は稀。トラブルのリスクや、販売の手間を考えると、デメリットのほうが多いんですよね」 最近では、オンライン上でくじを引き、景品が自宅に届くシステムを導入しているくじもある。その場でくじを引き、景品をもらうワクワク感は半減するかもしれないが、オンラインくじのように、より多くの人が快適に楽しめる仕組み作りが必要なのかもしれない。(清談社)
「異常に時間をかけてくじを選ぶ客がいた。くじを触って『なにか違う』と首をかしげて箱に戻し、もう一枚……と、長時間くじを選びつづけた。その客はガラが悪く、絡むと面倒そうな雰囲気だったので注意できず、結局30分近くレジの前でくじ選び。
後ろの客もイラ立っていて、先方が帰ったあとに『あいつはなんなんだ』と、私に文句を言ってくるなど、周囲の不満も受け止めなければならないので困る」(30代・女性)
前出の富田さんも、くじ引きに本気で臨む客に当たったときは「ハズレだ」と感じるという。
「その人は、選んだくじをじっくりゆっくりめくるタイプだったんです。場所をズレてもらうほどのスペースがなく、私はその場から離れられないし、もう1台のレジは休止中。最終的に長蛇の列になってしまいました」
めくる際のドキドキ感を存分に楽しんだものの、目当ての景品が当たらなかったのか、その場で追加購入を希望してきたそう。
「くじは引換券1枚につき引きたい枚数を口頭で聞き、会計をするというシステム。うちは個数制限をしていないので、追加購入も可能です。でも、追加購入を受け入れつづければ、後ろのお客さんをさらに待たせることになります。
並び直しをお願いして最後尾に行ってもらいましたが、それもしぶしぶという感じ。ほかのお客さまもいますので、再度くじを引きたい場合はスタッフに促される前に並び直してほしいです」
くじに没頭しすぎると、周りが見えなくなる。節度を持って楽しむのがポイントだ。
「人気コンテンツのくじが入荷すると緊張する」と話すのは、これまで複数のコンビニに勤務してきた中島裕太さん(仮名)。
「超人気少年漫画や、人気アイドルグループのくじは、ひとりのお客さんが何枚も引くので、すぐに完売します。ただ、ひとりで何枚も引かれると、景品の渡し間違いや渡し忘れが発生するリスクが高まるので緊張しますね。たとえば、文字の形が似ている『E賞』と『F賞』を間違えて渡してしまった、なんてことも珍しくないです」
取り違えや渡し忘れが発生すると、景品とくじの枚数が合わなくなり「くじの枚数が足らない!」「景品の個数が合っていない!」など、店内は騒然。そうした状況に陥ったときは、最終手段に出るという。
「お店によって対応は異なると思いますが、もしE賞が多くてF賞が足りていないときは、事情を説明して『E賞に替えられます』とご提案することもあります。こちらのミスで恐縮ですが、忙しいタイミングはとくに取り違えが起きやすいので、景品が違うと気づいたら、渡された時点で教えてほしいです……」
コンビニのレジスタッフは、弁当の温めをはじめ、ポイントカードの有無や決済方法、さらにレジ袋の要不要など、多種多様な“確認作業”を行わなければならない。そこにくじの交換が加われば、ヒューマンエラーが起きても不思議はないだろう。
くじの枚数が順当に減っても気は抜けない。多くのくじが採用している「ラスト○○賞」は、トラブルの種になる可能性がとても高いという。ラスト○○賞とは、最後の1枚を引いた人が、当てた景品とは別にもうひとつ景品がもらえる“特別賞”のような景品だ。
「ラスト賞がほしくて店頭にあった引換券を全部持っていき、その枚数分のくじを購入。しかし、くじを引いたあと、店員に『引換券の枚数は残りのくじの枚数を反映したものではないので、ラスト賞ではない』と言われてしまった」(20代・女性)
また、「ラスト賞を待っている子どもがいるから、買い占めないでくれといわれた」というSNSの投稿がネット上で議論になるなど、定期的に話題を集める賞でもある。
そして中島さんも、ラスト○○賞を巡って大きなトラブルに発展した経験があるという。
「それは人気アニメのタイトルで、発売後すぐに完売したくじでした。最後の1枚を引いたお客さんに、当たった景品と一緒にラスト賞をお渡ししたのですが、その後、1枚くじを紛失していたことが発覚したんです。くじも見つからず、景品がひとつ余ってしまいました」
景品の処遇は販売する小売店に一任されているため、売れ残った景品を割引価格で売る店も少なくない。中島さんのコンビニでも、くじの紛失で余った景品を“くじ引きなし”の条件で、価格を割り引いて販売したという。
「その『わけあり商品』の購入を希望したお客さんにも、口頭で事情を説明し、ラスト賞の対象ではないと念押しして会計しました。すると翌日、その人が再び来店して『これは最後の景品なのに、自分がラスト賞をもらえないのはやっぱりおかしい』というクレームを入れてきたんです。
購入時に説明したにも関わらず、まったく聞く耳を持ってくれないし、渡せるものもないし……。結果的に、返金対応になりました」
ラスト○○賞は、上位賞と同等のハイクオリティな景品が用意されているケースがほとんど。そのため、最後の1枚にこだわる客はとても多いのだとか。
「僕の所感ですが、上位賞ほど早めに出てしまうのが“○○くじあるある”。そこで、A賞やB賞が出たあとも、お客さんの購買意欲を維持するためのシステムだと思うのですが……。
平日の昼間からくじを買い占めてラスト1枚を狙う“転売ヤー”っぽい人も見かけますが、スタッフは『転売ですか?』なんて訊けないので、防ぐことはできません」
現状、くじを企画している企業から転売対策の指針などは出ていないという。転売を防ぐシステムを企業側が構築してくれれば、本当にくじを引きたい人の手に渡るのでは、と中島さん。
「ただ、正直なところ『コンビニで○○くじを売らないでほしい』というのが本音です。くじを目当てに来るお客さんは、くじだけを引いて帰っていくし、くじがなければそのまま帰るので、店側が期待する『ついで買い』をする人は稀。トラブルのリスクや、販売の手間を考えると、デメリットのほうが多いんですよね」
最近では、オンライン上でくじを引き、景品が自宅に届くシステムを導入しているくじもある。その場でくじを引き、景品をもらうワクワク感は半減するかもしれないが、オンラインくじのように、より多くの人が快適に楽しめる仕組み作りが必要なのかもしれない。
(清談社)