正月に欠かせない「おせち」。値上げが避けられない状況にあるが、そんなおせちに欠かせない高級食材「アワビ」が地球温暖化の影響を受け、将来食べられなくなってしまうかもしれないという。その周辺を取材した。
2022年12月20日、夜も明けぬ午前3時。威勢のいい競りの声が構内に響く北九州市小倉北区の北九州市中央卸売市場。正月料理に欠かせないタイやブリ、エビに数の子などが次々と競りにかけられていく。
中でも、その前日に漁が解禁されたのが、おせちにも使われる高級食材「アワビ」。長いものだと20年ほど生きると言われているアワビは不老長寿の象徴とされ、縁起の良い貝として親しまれている。
福岡県は全国で4番目に多い漁獲量を誇り、漁が解禁されたいまが出荷のピーク。しかし、そんなアワビにも値上げの波が押し寄せていた。
北九州中央海産魚市場・土澤裕之さん:相場自体、ずっと上がってきている。例年の1.5倍ぐらいになっている
さらに取引量にも変化が。
仲卸業者:だいたい今の時期たくさんあるのに、今年は少ない
北九州市中央卸売市場では、2018年に2,900kgほどだった取引量が、2021年には2,400kg余りと400kg以上も減少していた。
高級食材アワビにいま、何が起きているのか。取材を進めると、将来食べられなくなる日が来るかもしれない深刻な問題に直面しているのがわかってきた。
松幸・岡田幸治さん(2022年12月19日取材):予約数や売り上げは、去年(2021年)と違って帰省するお客さんも多いかもしれず、大人数の5人分がよく売れている
おせち料理の準備に追われる福岡市内の仕出し店「松幸」では、ウィズコロナが進む中、大人数で食べられるセットが人気で、1,600個を超える予約があったという。
松幸・岡田幸治さん:仕入れは大体10~15%は全体的に上がっている
重箱を華やかに彩るカニやイクラなどの食材は、円安やウクライナ侵攻などの影響もあり仕入れ値が上がっている。
――商品価格に転嫁は?
松幸・岡田幸治さん:(そのまま反映すると)数千円上がってしまうので、上げても1,000~2,000円ぐらいで抑えている
――おせち用食材で一番上がっているのは?
松幸・岡田幸治さん:一番はアワビ
おせち食材の仕入れ値が最も上がってたのは、高級食材「アワビ」だった。
――どれくらい値上がりしている?
松幸・岡田幸治さん:国産だと例年の倍近く上がっている
松幸で使用するクロアワビの仕入れ値は、2021年は1kgあたり7,000円ほどだったが、2022年は1万5,000円と倍以上に値上がりしていた。
松幸・岡田幸治さん:アワビはいまでも高級食材だが、超高級食材になると思う
正月のめでたい場に暗い影を落とすアワビの価格高騰。アワビの稚貝を養殖する会社では、漁獲量が少なくなっていることを心配する声が聞かれた。
ふくおか豊かな海づくり協会・穐山祐喜さん:漁師さんからは、結構前からアワビがだいぶ獲れなくなっていると聞いている
福岡県宗像市にある「ふくおか豊かな海づくり協会」。ここでは、海へ放流するためのアワビを育て、全国の漁師などに提供している。
――(アワビの稚貝って)青いんですね
ふくおか豊かな海づくり協会・穐山祐喜さん:人工的に育てたアワビは緑色になる
全国から注文があり、約80万個のアワビの稚貝を育てているこちらの団体。需要が高い理由はアワビが危機に瀕しているからだった。
ふくおか豊かな海づくり協会・穐山祐喜さん:絶滅危惧種になっている
IUCN(国際自然保護連合)は2022年12月、世界の生き物の絶滅危険度を評価した「レッドリスト」の最新版を公表。クロアワビ、メガイアワビ、マダカアワビの3種類のアワビを今回初めて絶滅危惧種に指定した。
その理由としてIUCNは、温暖化の影響で海水温が上昇するなど、約40年前と比べアワビの個体数が大きく減ったからだとしている。
ふくおか豊かな海づくり協会・穐山祐喜さん:どちらかといえば寒い方が得意な生き物なので、地球温暖化で海水温が上がって夏を越せずに死んでいるのでは
農林水産省によると、1970年に6,000トン以上あった天然アワビの漁獲量は2020年には669トンと10分の1にまで減少している状況だ。
ふくおか豊かな海づくり協会・穐山祐喜さん:もっと獲れなくなれば値段が上がっていって、最終的には禁漁も将来的には可能性としてあるのかなと思う
日本人に親しまれている高級食材アワビ。お金を出しても食べられない日が来てしまうかもしれない。
(テレビ西日本)