【いまどきの男を知る会 ファイルNo.37 潔癖性を克服した系男子】
過去にも「潔癖症男子」として記事にさせていただいた、放課後片想い系妄想発明家で芸術家のたいがー・りーさん。コロナ禍が続いているので、潔癖道をそのまま突き進んでいるのでは?と思ったら、「私の潔癖性98%治っております!」というメッセージが届きました。 12月に「潔癖性を治さNight! 第3夜」がLOFT9で開催するとのことで、治った経緯をぜひ知りたくて馳せ参じました。前回に続き、彼の潔癖性を見守ってきた、片桐仁さん、乙幡啓子さん、カルロス矢吹さんが聞き役として登壇する豪華なイベントです。
◆ついに潔癖性の鎖から解き放れた
イベントが始まると、舞台に登場したたいがー・りーさんは以前のダンディなオールバックヘアから一変。ロングのウェービーなヘアスタイルにブルーのベレー帽をかぶり、耳にはピアスが。芸術家度がアップしていました。
「今までファッションに興味がなかったんだけど、高知に引っ越してから急に目覚めて、好きな格好してみようって。そしたらこうなったの。今、一番いい状態」
デニムのショートパンツの丈も以前より短く……潔癖性の鎖から解き放たれ、より自由になられたようです。
◆潔癖症の始まりは小3、生活への支障の数々
前半、涙なくしては聞けないこれまでの潔癖性の歴史が語られました。精神科の先生に、「強迫性障害」の「不潔恐怖洗浄」と診断されるほどの辛い症状だったそうです。はじまりは小3の時、理科の実験の時に劇薬の雫が飛んだのを先生が指で拭いて、いろいろなところを触ったのを見てから、恐怖が刷り込まれました。
たいがー・りーさんを最も苦しめたのは「デスパウダー」(死の粉)という概念。地面には死の粉が降り注いでいて、触れたら死んでしまう、という思いに取り憑かれていたそうです。
生活への支障は多岐に渡り、「ビニール手袋3枚する」「靴下は二枚履き」「お金が触れないからカードしか使えない」「靴に小石が入ってパニック」「折り畳み傘しかさせない」「足が組めなくなる」「電車内で他人のリュックの紐が触れてパニック」「ロングスカートが触れてパニック」「枯れ葉がズボンに触れてパニック」「蟻が膝にいてパニック」「外の物を部屋に落としたらその上にタオル3枚敷く」「一ヶ月の間に靴を6足捨てる」「玄関で服を全部脱ぐ」「スーパーの買い物かご使えない」「自動改札機狭い方通れない」「お座敷の食事会に行けない」などといった壮絶な生活を送っていました。
◆アリが膝に乗ってきてパニックに
素人なのでそれぞれの項目についてのたいがーさんの説明を聞いてなんとなく納得。
「足が組めなくなる」のは組んだ脚の靴底がもう片方の脚に当たるから。「他人のリュックの紐」については、リュックの紐は無造作に地面に触れていることが多く、背負った時「デスを吸い上げる」のが問題だとか。靴紐も地面に触れるので、たいがーさんは靴紐はセメダインで固めていたそうです。
蟻が膝に乗ってきた時は、6本の脚が「デスデスデスデスデスデス」と当たってパニックに。「お座敷の居酒屋」は、たいがーさんの観察によると、トイレに行く時に多くの人が地べたに一回足をついてからお店のスリッパを履くことを発見し、座敷きがデスにまみれる恐怖を覚えたそうです。酔ってパランスを崩して足をついてしまうのでしょうか。その着眼点はなかったです。
たいがーさんが懸念している事象、実際に細菌の量とかを測ったら相当汚れていそうで、顕微鏡的な超能力の持ち主なのかもしれません。
◆2年かけてデスパウダーになれていった

「辛い思いをされてる方のヒントになれば嬉しい」と、傍らのクリスマスツリーに、オーナメントのように飾られていた一冊の本を紹介しました。
『強迫性障害の治療ガイド』(二瓶社)という本で、その中の「どうせ同じくつらいなら治るつらさを選ぶ!」という一節がたいがーさんの心に刺さったそうです。
「覚悟を決めた時点で40%治ってます。治すと決めたのは約2年前でした」
そこから2年かけて、たいがーさんは荒療治のように、デスパウダーに自分をならしていきました。自身が治ることで、同じく辛い思いをしている人に治ったと言える、という使命感を胸に……。
◆「舞っている枯れ葉に触る」ところからスタート
まず、毎日30分ほど散歩して脳のストレスを軽減。太陽を浴びることでエネルギーを充電しました。気候がよくて空気も澄んでいる高知に引っ越したのも良かったようです。
たいがーさんは「敵」の種類をリストアップ。 「弱い敵から倒そう」ということで、「舞っている枯れ葉に触る」ところからスタート。「舞っている中に入るのは1対30どころじゃない、多数を相手にする喧嘩のよう。最初はいきなりぶん殴られるようで辛かったけど、だんだんなんでもなくなった」そうです。丸腰状態で葉っぱと戦うたいがーさん、男らしいです。
続いて「手洗い3回を2回にする」、デスが付着している改札機に体が触れそうな「狭い自動改札を通る」「靴下を一枚履きにする」「公園のベンチに座る」と、徐々にクリア。試練を乗り越える時は「自分をかっこいいと思うのがポイント。誰も褒めてくれないから、自分を褒める」というコツを教えてくれました。
漫画や映画の主人公になった気分で自分を客観視するのも効果があるとか。「ある時、舞い上がるホコリを睨みつけたことがあって。自分ってこんな目をするんだ、ついにここまで来ちゃったか、治さなきゃいけないって自分を客観視しました」と、たいがーさん。俯瞰して自分を見たり、時には褒めてみたり、冷静さと情熱を使いわけています。潔癖性に限らず様々な人生の試練に対峙する時に使えるライフハックです。
◆クララが立った!会場が沸いた「最終決戦」
最後、最大の試練にステージ上で挑戦。「最終決戦」は「リュック地面置き」「地面直接触り」「素足地面歩き」です。屋内の会場とはいえ、渋谷の円山町で土足なので、地面にはいろいろなデスが付着していそうです。もし自分がやれと言われてもできないハードなデスプレイです。
たいがーさんはBGMを流し、覚悟を決めると、まずリュックを地面にじか置き。続いて地面を触り、「どりゃ~!」と、裸足で椅子からジャンプ。「やったぞ~!」とたいがーさんが叫ぶと、会場中に大きな拍手が巻き起こりました。感無量で涙を浮かべるたいがーさん。「治るぞ~!」と叫び、そのままずっと裸足なので、こちらの方がデスの侵蝕が気になってしまいました。
でも、たいがーさんが裸足でステージに立った時、クララが立った以上の感動がありました。ポジティブな涙でデスパウダーが浄化されていくのが見えました。太陽や高知の自然のエネルギーを吸収したたいがーさんは、デスが付着しても瞬時に殺菌できる体になったようです。今後はデスの方が恐れて近寄らない存在に。試練を克服したら誰もがヒーローやヒロインになれるのです……。
<文/辛酸なめ子>