冬になると眠気や食欲が強くなる症状がある「冬季うつ」。こういった季節性うつの特徴や日照時間との関係性を、精神科医の渡邊宏行医師に教えてもらおう。
――冬季うつとは、どのような病気なのでしょうか
渡邊医師(以下渡邊)通常のうつ病は夜に眠れなくなったり、食欲が出なくなるといった症状が代表的ですが、冬季うつの場合は対照的で、たくさん寝ても眠気が治まらなかったり食欲が旺盛になったりします。また、季節性うつという言い方もされたりしますが夏に季節性うつを発症する人はいないので季節性うつは冬季うつのことを指しているという認識で良いでしょう。
――冬に過眠、過食傾向になるのが冬季うつなんですね
渡邊 寝ても寝ても寝足りないといった感覚になったりします。特に炭水化物や甘いものなど、糖分が多いものが無性に食べたくなったりするんです。その結果、体重増加にもつながりますね。一点挙げるとすれば、熊の冬眠の例がありますが、これ自体は冬季うつとは別の生理作用なので、あくまでもイメージを膨らませるための例と考えていただければと思います。
――ほかにも症状はあるのでしょうか
渡邊 通常のうつは意欲や興味・関心が低下するのが典型的な症状ですが、これらの症状に関しては冬季うつも同じですね。どちらも無気力になるのが共通した症状です。しっかり眠れていて食欲もあるからといって必ずしもそれが元気である証拠にはならないということです。特に冬季うつの患者さんの場合は寝て起きると食事をとってまた寝るといった感じで、生活の中で寝る・食べる以外の行動に対して無気力になります。
――冬季うつは日照時間と関係があるそうですが
渡邊 はい、その関係性が指摘されています。世界的にみると、北欧の国で同病気を患う人が多かったり、国内であれば東北地方や日本海側といった冬の日差しが少ない地域で冬季うつになる人が多い傾向にあるのです。
――どういう因果関係なのでしょう
渡邊 日差しを浴びるという行為には気持ちを落ち着かせるセロトニンという脳内の神経伝達物質を増やす作用があるんです。日照時間が短くて日を浴びる時間が少なくなると気持ちを落ち着かせるセロトニンが減ることにもつながってしまいます。そのため、よく冬季うつの患者さんには「朝決まった時間に起きてカーテンを開けて日差しを浴びてください」と伝えるんですよね。
――朝に日を浴びることが大切だ、と
渡邊 朝に日を浴びると約14時間後にメラトニンというホルモンが脳内で分泌されると言われています。メラトニンは眠気を起こす作用があるホルモンなんです。夜暗くなると眠くなるのはメラトニンが分泌されるから。朝8時に起きて日差しを浴びることで夜10時ごろには眠気が出てくるようになります。そのようにして睡眠のリズムを整えることが大切で、日照時間が短くなると睡眠リズムが崩れやすくなり、さらにセロトニンが減ることで気持ちが落ち着かなくなったり無気力になりやすくなると考えられています。
☆わたなべ・ひろゆき 信州大学医学部卒。大学病院、県立病院、民間の精神科病院を経て、心療内科クリニック勤務。並行して、嘱託産業医として、多数の中小企業を訪問し、こころとからだの予防医療を実践している。